【音楽】アラフォー男子、夏フェスへ 行って感じる「音源よりライブ」時代への虚実

2014/09/12 15:00

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音楽について書く。

「音源よりもライブ」ということが言われて久しい。つまり、CDの売上が基本下降傾向で、配信も思ったほど伸びない一方で、ロックフェスなどのライブの売上は基本上昇傾向という状況である。先日、レコード会社(という言い方自体、死語のはずだけど思わずこう書いてしまう)関係者に会う機会があったのだが、来年あたりにはライブの売上がCDや配信の売上を抜くのでは、と見られているらしい

これはコンテンツ全般に言えるのではないかという意見もある。私自身、物書きの仕事をしているが、原稿を書くだけでなく、それに関連してイベントなどを行う機会が増えた。自分自身、書籍を出した後は書店やイベントスペースなどでトークイベントを多く開く。今月から来月にかけても週に1回以上のペースで予定が入っている。思想家の東浩紀氏がトークイベントなどを行うスペース、ゲンロンカフェを立ち上げたのもそういうことだろう。

私も、パッケージからライブという流れは総論では賛成していた。しかし、である。この夏、音楽のライブにかなり通って、その限界にも気づいてしまったのだった。夏の思い出と合わせてお届けすることにしよう。

いまさらだが、夏が終わってしまった。夏はいつも、突然やってきて、すぐに去っていってしまう。だから、計画も立てにくい。毎年、「やり残した感」を残してしまう。

しかし、今年の夏は違う。渾身の新作『リクルートという幻想』の仕上げの他は、日々、よく楽しんだ。何度も旅行に出かけた。全国に出張があり、ついでに遊んだりもした。各地の美味しい料理と酒を楽しんだ。ドライブにも出かけた。音楽もよく聴いた。夏フェスにも、単発のライブにもよく出かけた。「リア充、爆発しろ」とはよく言ったものだが、爆発するべき人間が私である。リア充とは私である。

ライブには何本行っただろう。振り返ってみた。

・8月2日(土)ANTHEM・クラブチッタ川崎(日本の老舗メタルバンド)
・8月15日(金)SONIC MANIA・幕張メッセ(夏フェスのSUMMER SONICの前夜祭)
・8月17日(日)SUMMER SONIC・QVCマリンフィード・幕張メッセ(夏フェス)
・9月7日(日)HAMMER BALL・Zepp札幌(札幌のメタルイベント)

書き出してみて、驚いた。もっとライブに通っていたと思っていたのだが。もちろん、もっと通っている音楽ファンはいるだろう。ただ、所帯持ちだが子供なし、フリーランス、音楽好きの私でもこんなものである。これでも周りからは「アラフォーなのに、ライブに通って凄いね」という話になるのだが。

それぞれ、良イベントだった。メンバーチェンジを経て最初のツアーだったANTHEMは熱狂的なファンが聖地・川崎(ファンはそう呼ぶ)に集結して激しく盛り上がっていたし、SONIC MANIAはEDMのアーチストも、ロックバンドも集結し朝まで気持ちよく踊った。

SUMMER SONICは、注目の若手アーチストもドリカムも、アダム・ランバートをボーカルに迎えたQUEENも登場し、盛り上がった。札幌でのメタルイベントHAMMER BALLは顔ぶれも豪華だったし、ここだけのセッションなどで盛り上がった。

どれも、よく言われる「音源では味わえない、ここだけの時間、空間」であったことは間違いない。

しかし、である。この「パッケージよりもリアル」というトレンドは、いくつかの前提のもとに成り立っている。それは、出演者、参加者が存在するという当たり前の前提だ。実に身も蓋もない話だ。いや、誰でもわかる話だと言えばそれまでだ。

しかし、出演者も参加者も年をとる。参加者の人口も基本、減っていく。お金が続くかどうかわからない。さあ、どうするのだろう。

どのイベントにおいても感じたのだが…。「私はいつまで、ここに来ることができるのだろう?」そう感じた次第なのだ。まず、オールナイトのイベントだが、私は完全に浮いていた。集まっているのは、ほぼ20代~30代前半である。前の方のブロックで踊っていた40代男子は、見る限り、私だけだった。前の方で激しく暴れていたら、非常勤講師でお邪魔している武蔵野美術大学の男子学生2名にばったり会い、「先生、すごいですね…」と言われた。さすがに恥ずかしかった。同じブロックにいた若者たちもいつまでこの場にやってくるのだろう。

2018年問題という言葉がある。2018年に18歳人口が急激に減少し始めるとされる問題である。大学関係者は、学生を確保できるのかと戦々恐々としているのだが、音楽のライブでもそうではないだろうか。

最近では、レジェンドと言われるアーチストが来日し、中高年のファンが熱狂ということが話題になる。1~2万円する高額のチケットが完売になる。そういえば、SUMMER SONICにも明らかにQUEENだけを見に来た、このためだけに16500円を払った中高年が散見された。

しかし、出演者も、参加者も高齢化していく。札幌のメタルイベントでも、若手アーチストも起用されていたものの、出演者も参加者も40~50代が目立った。前のブロックを除いてはライブハウスなのに椅子を入れたスタイルだった。

音楽におけるライブ重視というのは、今後も続く流れだろう。ただ、それは出演者と参加者が存在する、参加者が(会場に来れる程度に)健康で、お金を持っているという当たり前の前提で成り立っているのではないかと再認識した次第だ。そして、やはりリアルな場が大事であることは総論賛成なのだが、それが居心地の良い場所であるという前提がやはり必要だろう。

さて、これから10年後、20年後、私たちはどんな風に音楽を楽しんでいるのだろう。とはいえ、この夏と同じようにロックTシャツを着てライブハウスに顔を出しているのかもしれないが。

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(文/常見陽平

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