【コラム】世界で最も貧しい国の男たち“サプール”が全力でオシャレする理由


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世界で最も貧しい国のひとつ、コンゴ共和国。

中部アフリカに位置するこの国には、『サプール(Sapeurs)』と呼ばれるオシャレ過ぎる男達がいる。

大半の国民が1日1ドル以下で生活をするこの国で、アルマーニやプラダといった一流のスーツを身にまとい、見せびらかすかのように街中を歩き回るサプールは、決して富裕層というわけではない。彼らの多くはごくふつうの職に就き、給料の数カ月分をファッションにつぎ込むという“努力”によりサプールたらんとしている。オシャレのひとことで片付けるにはあまりに真摯で力強い彼らの本質は『平和を願うヒーロー』なのではないだろうか。

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週に1度のサプールになる日、彼らは山ほどある自前の衣装の中からスーツ、シャツ、ネクタイ、靴をコーディネートし、出かけて行く。赤道直下であることを感じさせないほど涼やかで気品すら感じる引き締まった表情と、ピンと背筋を伸ばして大股で闊歩するその姿は、そこらのファッションモデルにも引けをとらない。土埃舞う田舎道がランウェイなら、そこに住む人々がオーディエンスだ。媚びず、照れず、堂々と歩くサプールを、子供たちは目を輝かせながら追いかけて行き、大人たちは歓声と拍手でそれを見送る。 極端に娯楽の少ないその町において、サプールの登場は住人たちを楽しませるショーなのだ。

 

観客の視線を存分に意識しつつ随所で見栄を切りながら練り歩くその様は、ストリート・ファッションショーというよりもむしろ、伝統芸能に昇華する前の『庶民の数少ない身近な娯楽としての歌舞伎』に近いように思える。

たとえば「靴についた泥を払う」というようなありきたりな仕草ひとつとっても、サプールは“魅せる”ことを意識している。ふと立ち止まったサプールは、片足を高く蹴りあげるように派手に持ち上げると、胸のポケットチーフで靴の汚れを取り去り、流れるよう優雅な動作で元のポジションに戻り再び歩き出す。いかにも歌舞伎のステージアクション的な、けれん味溢れる艶やかなアクションではないか。

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このように、彼らはサプールでいる間は常に人目を意識し、見る人々を楽しませることに奉仕する。そう、そうなのだ。サプールは誰が見ても主役でありながら、その本質は絶対的な“奉仕者”であるところに、安易にかっこつけたいだけのオシャレ男とは一線を画する彼らの魅力があるのだと私は思う。

もちろん、女性にモテたいがために着飾るオシャレ、そういうものを否定するつもりは毛頭無い。それどころか例えば孔雀のオスが美しい羽でメスを惹き付けるように、「モテるためのオシャレ」はオスの行動としては至極真っ当なものであるとも言える。他にも、自己満足や自己表現としてのオシャレを楽しむ男性も当然いるだろう。

だが、サプールはそうしたものとは全く異なる存在だ。彼らが身にまとうオシャレ服の役割は、言うなればステージ衣装のそれに近い。サプールとしての衣装を身に付けた彼らは表現者であり、エンターテイナーであり、そして平和の象徴でもあるのだ。いや、「象徴」というのは正確ではないのかもしれない。

彼らは月給の何倍もの値段の一流ブランドスーツを身にまとい、それに恥じない立ち居振舞いや、生き方をすることに誇りを持っている。以前は喧嘩や暴力に明け暮れていたと言うサプールの若者が、「もうケンカはしないのか?」という質問にニヤリと笑ってこう答えた。

「ああ。だって服が汚れるだろ?」

サプールの中には、他人と争ったり競いあったりという発想はない。自分の体1つで周囲の人間を楽しませ、先輩サプール達からサプールとしての有り様、生き方を教わり、それを受け継いでいくことに従事する。彼らがサプールであり続けること、そのマインドを後世に伝え残していくこと、その行為自体が平和そのものなのだ。

 

もちろん、彼らに対する批判的な意見もあるだろう。生活することすら大変な貧困地域においては、もっと優先すべきことがあるのかもしれない。ただ、ファッションを生業とする私としてはやはり彼らに尊敬の念を禁じ得ない。「ファッションで人を楽しませたい!元気にしたい!そして、世界を変えたい」という基本スタンスは全く同じだと思っているからだ。とはいえ、あまりにも剥き身でプリミティブな彼らのファッションへの情熱、生き様を見ると、まだまだがんばらなければ!と身の引き締まる思いでもあった。

※画像はYouTubeのスクリーンショットです。

【参考URL】

NHK『地球イチバン』
//www4.nhk.or.jp/ichiban/x/2014-12-10/21/24640/

外務省ウェブサイト – コンゴ共和国
//www.mofa.go.jp/mofaj/area/congokyo/data.html

(文/久保田フランソワ

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