ヒーローも怪獣も出ない「大人の特撮」とは?『怪奇大作戦』考察【出口博之のロック特撮】

2015/03/09 11:00

こんにちは、白ポロ+眼鏡でおなじみのMONOBRIGHT、ベースの出口です。

卒業式シーズンがやってきました。全国の学校でレミオロメンの名曲「3月9日」やコブクロ「桜」が旅立ちを演出し、それぞれの道に進んで行く季節です。

これから新たに社会人として、大人として、スタートを切る方も多いはず。そこで今回は、数多くある特撮作品の中でも特に個性の強い「大人による、大人の為の特撮作品」の金字塔、『怪奇大作戦』を特集してみたいと思います。


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■怪奇大作戦とは…

1966年に放映されたウルトラマン(円谷プロ)によって、世間の子供達の間で瞬く間に怪獣ブームが巻き起こりました。

この空前の大ブームにより、特撮=子供向けという図式が確立されつつある中、ブームの中心であった円谷プロが「大人向け特撮」と銘打ち、制作されたのが『怪奇大作戦』(1968年放映)です。

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特撮の本質のひとつには「あり得ない事象を映像化する」ということもあります。怪奇大作戦は特撮の本質である「あり得ない事象」をサスペンスホラーの演出部分だけに落とし込み、人間ドラマを引き立たせることに成功した作品です。

ですので、ヒーローも怪獣も一切登場しません。描かれるのは「社会の闇や、人間の負の心によって生まれた犯罪者」と「それを追うプロフェッショナル集団の活躍」の2点のみ。

特撮パートは、言い換えれば脇役の立ち位置。これこそが、「大人向け特撮」のポイントなのです。

特撮が脇役の作品と言えば、古くは海外ドラマの「トワイライトゾーン」や「X-FILE」、国内で言えば「世にも奇妙な物語」が当てはまります。


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■勧善懲悪では済まされない、現実社会とのつながり

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Photo by Didier Bonnette

『怪奇大作戦』の見どころは、何と言っても「善と悪の曖昧な境界線」にあります。

基本的には「科学技術を用いた殺人などの犯罪を、それに対抗し得る科学技術で解明する」のですが、犯罪者の犯行動機や心理描写が実社会と地続きになっている部分が多く、フィクションでありながらも実際に事件が起こる可能性を見せつけられます。

作品が放映されたのは1968年。この時代は日本が高度経済成長期の過渡期にあり、日本の生活習慣など様々な常識が急激に変わり始めた時代でもあります。

急激に変化した際に生まれた社会の歪みが、ダイレクトに作品に影響されていて、「悪い奴だ!それやっつけろ!」では済まされない。何ともやるせない結末にも現れています。

前述の「善と悪の曖昧な境界線」を示すものとして、作品内における「進んだ科学技術の立ち位置」も特筆すべきところでしょう。

日本が急激に豊かになり始めた時代。科学の繁栄発展は明るい未来として至上命題であった一方、その繁栄発展がもたらしたモノの中には、混沌悪意が含まれていました。

扱う人間によって善にも悪にもなりうる。科学が絶対的な中立の位置に存在しているのも、怪奇大作戦が今も多くのファンを離さない要因なのです。


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■カルト作品からスタンダード作品へ

子供向け作品がほとんどだった当時の特撮界において、怪奇大作戦は子供達にトラウマを植え付けつつヒットはしたものの、長らくカルト作品の代表例として認知されていました。

しかし、時代が進むにつれ、現在でも通用するテーマの深さから、リメイクが多く作られています。

1968年に描かれていた物語の本質は、人間の業(ごう)の深さや性(さが)という、根源的なもの。色褪せ無いどころか、どの時代でも強烈に輝くのです。

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最近では2013年にNHK BS プレミアムで「怪奇大作戦ミステリー・ファイル」が制作されています。ちなみに、第1話には、私の出身である北海道の大先輩、演劇ユニットTEAM NACSの安田顕(やすだけん)さんが出演しているので、安田さんの怪演も必見です。


特撮=子供向け、という図式は、大きく見れば間違っていませんが、大人の目線で見ると「特撮は子供向け番組と相性が良い」という視点にも気づくはずです。

扱う人によって「子供向け」にも「大人向け」にも表情を変える特撮、こういう見方も大人の楽しみ方のひとつではないでしょうか。

(文/しらべぇ編集部・出口博之

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