海外進出する日本の伝統工芸「異空間の造形」を世界の人々へ

2016/09/12 05:30

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日本を代表する工芸作家が、海外へ続々進出している。

日本人は、何事にも「哲学」を込めようとする民族だ。たとえば侘び寂びがその典型例。これを外国語に訳そうと思ったら、一晩二晩の徹夜では済まない。粗末に見えるもの、地味で古ぼけたものにじつは計り知れない美が詰まっているという発想だ。これを外国人に説明するのは、大変難しい。

だが、日本人の美意識は「物品に精神性を持たせる」ことから始まっているのだ。それを国外に広く紹介する目的の催しが、ここ最近活発に行われている。


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■ガラスの中の銀河

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インドネシアの首都ジャカルタ市内にあるショッピングモール『プラザ・スナヤン』で、毎年ガラス工芸作品の展示販売が行われている。

このガラス工芸品を手がけているのは、「繊細すぎる芸術」として知名度を挙げているノグチミエコ氏だ。ノグチ氏の作品は、ひとことで言えば「小銀河」である。

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手を伸ばせば身体ごと呑み込まれてしまうような光景が、ガラスの中に詰まっている。そもそも、これは我々が普段接するガラスとはまるで違う。天然鉱石を思わせる質感、そして透明感。ノグチ氏のガラス作品は、現実世界とは異なる空間を内包しているのだ。

その異空間に閉じ込められてしまった人は、日本にもインドネシアにもたくさん存在する。

また、ノグチ氏は現地での福祉事業にも貢献している。この展示販売会は、自閉症児施設『インドリヤ』とのタイアップ企画でもあるのだ。子供たちの手がけたガラス作品も、同じ会場で販売されている。

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発達障害を持つ人への理解が日本よりも進んでいないこの国において、この取り組みは非常に大きな意味を持っている。


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■一期一会の漆器

また今回の展示会には、石川県加賀市の漆器作家田中瑛子氏も参加している。

後継者不足が叫ばれる山中漆器の職人として、日本文化発信の最先頭を切っている田中氏。その手から生み出される作品は、どこから見ても木材とは到底思えない。実際に触れてみて初めて、これは木からできているのだと理解できる。

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漆器は経年変化を楽しむことができるもの。時が経てば経つほど、漆が木材に馴染みコーティング素材としてより強くなっていくという。親から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へと受け継いでいくことのできる工芸品なのだ。

だが現在、木材も漆も良質のものが少なくなっている。この展示会に並んでいる作品と同等のものが、10年後には制作不可能になっているかもしれない。

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また、漆器の持つ「時を経てこそ」の魅力が、インドネシアでは理解されづらい。新しいもの、華美なものに人々の関心が集まりやすいのだ。それに経年変化のもたらす美は、すぐさま鑑賞できるものではない。長い時間をかけてようやく発見できる「宝物」だ。

こうした意味で、日本の伝統工芸の真髄を紹介することはなかなか難しい。


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■「工芸品ブーム」が来るか?

だが、インドネシア市民は日本に対して好感を抱いているようだ。

最近では中間層も日本へ旅行するようになり、あらゆる地域特産品などが現地で消費されている。牛肉や果物などは、すでにジャカルタのショッピングモールに並べられている。

我が国由来の工芸品も、何かしらのきっかけさえあればブームになり得るのではないか。インドネシア国民は、物のコレクションが大好きな人々。

いずれにせよ、こういう形の文化交流はこれからますます盛んになっていくだろう。

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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一

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取材ノグチミエコ田中瑛子伝統工芸漆器
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