「児童ポルノ根絶」講師が児童買春で逮捕 実効性のある児ポ対策とは何か

「児童ポルノ根絶」の講演会などを行なっていた元小学校教諭の会社社長が児童買春の容疑で逮捕。

2016/10/06 19:30

女子校生
whitetag/iStock/Thinkstock

6日、警視庁は教育コンサルティング会社社長の平川貴之容疑者(35)を児童買春の疑いで逮捕したと発表した。

平川容疑者は元小学校教諭で、東京都が警視庁と連携して保護者や生徒、教職員向けに実施している「ネット等の性被害(児童ポルノ)根絶等の啓発講演会」で講師を務めていた。

東京都
画像は東京都公式サイトのスクリーンショット

今回の逮捕容疑は、18歳未満であると知りながら、都内の女子中学生に現金4万円を渡す約束をしてわいせつ行為に及んだというもの。

約束した現金が支払われなかったことで、女子生徒が警察に通報。発覚に至った。平川容疑者は余罪もほのめかす供述をしているという。

自らの活動を隠れ蓑にするような容疑者の行動は、決して許されるべきではない。そこで、法律的な観点について、レイ法律事務所に所属する舟橋和宏弁護士に話を聞いた。


 

■懲役刑の可能性も

舟橋弁護士:被疑者が認めていることを前提にすれば、本件は、いわゆる児童ポルノ禁止法で禁止されている児童買春にあたるだけでなく、東京都青少年健全育成条例にも違反する可能性があります。


法定刑は、児童ポルノ禁止法違反の場合は、5年以下の懲役または300万円以下の罰金、条例違反の場合は、2年以下の懲役または100万円以下の罰金とされています。


実際に被疑者に科される量刑としては、初犯の場合は懲役刑ではなく、罰金30万円~50万円くらいになる可能性があります。


もっとも、本件の具体的な事情等によっては、懲役刑となる可能性も否定できません。懲役刑となった場合には、執行猶予が付く可能性も十分にあります。


また、被害者と示談がなされた場合には、裁判とならず不起訴処分となる場合も想定されます。 法的な処罰としては、以上のような結果が予想されるところですが、性被害根絶のため活動していた被疑者の社会的地位からしても、本件があってはならないことであることは間違いありません。


根絶活動を行なっていた男までが陥る、児童ポルノ・児童買春の深い闇。絶対に解決されなければならないこの問題には、どのような対策が有効なのか。

AV女優など、出演者の人権を守る一般社団法人AVAN(表現者ネットワーク)代表の川奈まり子氏に聞いた。


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■国際的には「児童虐待製造物」

川奈:児童ポルノに限らず、すべてのポルノについて日本は周回遅れの感があります。


児童を被写体にしたポルノ映像については、2011年に国際刑事警察機構(ICPO)が「CAM(Child abuse material=児童虐待製造物)」と呼ぶべきだとして社会に容認されているポルノとは一線を引いたうえ、「虐待の被害者なき漫画はそれには当たらない」と明言して以来、児童ポルノという呼び方はグローバルスタンダードではなくなってきているのです。


しかし日本では、国連NGOであるヒューマンライツ・ナウ(HRN)でさえ、ポルノと児童虐待製造物を混同しています。


HRNが9月に公開した報告書のタイトルは、「日本・児童ポルノの実情と課題 子どもたちを守るために何が求められているのか~疑わしさの壁を越えて」。


さらに、タイトルだけでなく、報告書の中身を見ると、成人女性が出演するAVをメーカーへの問い合わせを怠って「児童ポルノと強く疑われるDVD」と見なすなど、児童虐待製造物と社会に容認されているポルノムービーを混同してしまっています。


そのうえ、この報告書では、「児童ポルノか疑わしいとの壁を前に、介入がなかなか進まない現状の打開」を求めるための各関係機関に向けた「提言」が記載されているのですが、そこでは、メーカーと制作会社に対して「18歳未満でないこと、意に反する出演でないことを照合・確認した出演者の氏名・年齢・住所がわかるIDを保管し、流通・販売・配信業者等に交付し、警察等の照会にいつでも対応できる体制を確立すること」と述べられているのです。


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■実効性が疑問な日本の対策

川奈:要するに、HRNは、児童虐待製造物とは無関係で何ら犯罪性もないAVに出ているAV女優の個人情報を住所に至るまで事実上一般公開して警察に監視させることで、児童虐待製造物が作られることを阻止できると考えているということになります。


これは憲法35条違反、個人情報保護法違反、AV女優の職業選択の自由を阻害するという意味で憲法22条にも抵触すると思います。


児童が守られないばかりか、AVに出演した女性の身を危険にさらすことになる。こんな報告書が、9月12日の内閣府の男女共同参画会議では、大きな反発も起きずに受け容れられたようです。


このような状況では、日本では実効性のある児童虐待製造物対策がとられるようになる日は遠いでしょうね。


米国では、プロテクト法といってポルノに関する法規制が敷かれていますが、そこではポルノ出演者の氏名と生年月日とIDの種類(パスポートかソーシャルセキュリティカードか等)を当該するポルノの製造元が記録・保管して、犯罪捜査など特別な事情があるときにかぎり警察の照会に応えることとされています。


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■児童を守る対策は明確な定義と呼称から

川奈:現在では日本のAVメーカーも出演者の年齢確認は厳格に行っており、警察の犯罪捜査にも協力的なので、米プロテクト法のようにそこを明文化し、より徹底するということなら、業界側から反発が起きることはないでしょう……が、それでは児童虐待製造物を防止することはできないでしょう。


児童虐待製造物を根絶するには、まずは、内閣府と警察庁などが音頭を取って、児童が出演するポルノ的な映像は「CAM(児童虐待製造物)」と呼ぶべきだとして、AVや漫画など合法的な表現物とは明確に分ける考え方を社会に広げるところから始めるべきだと思います。


そこを混同したままでは実効性のある方法を考えることができないことは、HRNの報告書が証明しています。 ICPOの方針にも見られるように、現在の国際的動向は、「わいせつであるかないか」といった曖昧なポルノ性ではなく、児童に対する性虐待を重視しています。


着衣した子供に対して射精する映像などはこれまで規制の網からこぼれてきたそうですが、実際の「性虐待」に焦点をあてれば、規制することができるようになりますよね。


今回の容疑者のように、自らが闇に堕ちるのでなければ、根絶活動は積極的に行われるべきだ。また、さらに強力な法規制も求められる。

しかしその前に、メディアや行政、世の中が「児童ポルノ」つまりポルノの一種と考えるのではなく、「児童虐待製造物(CAM)」=反社会的な虐待行為なのだと認識を改める必要があるのかもしれない。


(文/しらべぇ編集部・タカハシマコト

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