マリカー騒動は現代の「サザエさんバス事件」か 著作権闘争の歴史を振り返る

2017/03/01 06:00

(mizoula/iStock/Thinkstock)
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任天堂が自社キャラクターを無断使用されたとして、ついに裁判に踏み切った。(過去記事

これから被告になると思われるその会社の社名や事業を見ても、確かにあの国民的キャラクターを意識しているとしか思えない。裁判の結果を予測することはここではできないが、やはり訴えられても仕方のない事例ではないか。

ただ、この例を見ても分かる通り日本は著作権問題に関して非常に厳しい。「この問題にシビアなのは当たり前じゃないか」と思われるかもしれないが、じつはASEAN諸国では著作権などあってないようなもの。今も様々なコピー製品が製造されている。これに対して現地政府は手をこまねいているだけだ。

つまり、著作権問題とは市民一人ひとりの関心が重要になってくるということ。



 

■「サザエさんバス事件」とは?

クリエイターだけでなく、大衆が著作権問題を意識してこそ健全な創作文化が芽生える。

日本人にこの意識を植え付けたひとつのきっかけがある。「サザエさんバス事件」だ。

これは1970年、立川バスが当時運行していたサザエさんのイラスト付きバスが作者の許可を得ておらず、長谷川町子が提訴したもの。結論から言えば、5年に及ぶ法廷闘争の末長谷川が勝訴した。

現代人の感覚で言えば当然の結末であるが、当時は長谷川に対して大衆が疑問の声を放った。「なぜ20年近く運行しているバスに、今更ケチをつけるのか?」と。

人気漫画のキャラクターと題字を無許可で自社製品に導入することは、当時としては「当たり前」だった。それをしたところで、本家の利益を奪っているわけではないのだから構わないという感覚だ。


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■巨額賠償のインパクト

その風潮に一石を投じ、「著作権は尊重しなければならない」という常識を確立したのは長谷川町子の功績である。

これ以降、各企業は常に著作権の存在を意識するようになった。もし何かしらの人気キャラを自社製品とタイアップさせるのならば、必ず著作権保有者に企画を提案する。そうしたことが厳密に行われるようになったのは、立川バスへ課せられた巨額の損害賠償のインパクトが市民に伝わったからだ。

ところで話は飛ぶが、格安航空会社エアアジアのCEOはトニー・フェルナンデスという人物である。

フェルナンデス氏はエアアジアを買収する以前は、ワーナー・ブラザーズに所属していた。だが解決の糸口すら見つからない海賊版ソフト対策にウンザリし、会社を辞めてしまったそうだ。


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■東南アジアは「無法地帯」

ワーナーにしろディズニーにしろ、営業担当の社員にとって東南アジア市場は「鬼門」として立ちはだかっている。著作権や肖像権の侵害は、この地域では日常茶飯事。しらべぇ取材班が話を伺ったインドネシアの有名スポーツ選手A氏も、栄養剤の広告に自分の写真が勝手に使われていたという。

そういうことがあるから、大手制作会社はこれらの国に投資がしづらい。とくにインドネシアでは昨年、映画館事業の外資100%出資が許可されたが、「キャラクターが簡単に盗用される」問題は依然つきまとっているようだ。

このように歴史を振り返ってみると、「サザエさんバス事件」が後世に残した影響は計り知れないことがよく分かる。

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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一

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