なぜ都会に「八百屋」をつくるのか?【コピーライター、あの人に会いにいく!】

2014/06/21 15:00

yaoya1こんにちは。恐縮なことですが「コピーライターの目のつけどころ」として「しらべぇ」に参加させてもらうことになりました。

実は僕は、「しらべる」という行為がとても苦手です。特に数字的なものは。というわけで、気になるあんな人やこんな人に会いにいって話を聞いてくる、というようなゆるい記事にしたいと考えています。楽しい人に会いに行くのは、いつだって楽しいことです。

というわけで第1回は、「都内に八百屋を作りまくっている」、とある若い経営者に会いにいきました。

【いちばん野菜が買えない街=東京】

「都内の八百屋はどんどん減っている」というのが多くの人の認識だと思います。スーパーだけでなくコンビニでも野菜が買える時代ですから。それにも関わらず、東京のど真ん中に純度100%の八百屋を創り、経営している男がいます。

株式会社アグリゲート( http://agrigate.co.jp/ )代表の左今克憲さんです。昨年の10月に「旬八青果店」をスタートしてから、目黒・五反田・赤坂に店舗を持ち、渋谷の東急百貨店でも運営しています。ものすごい勢いで八百屋を拡大させている強気な男なのです。

なぜ東京で八百屋を?

左今(以下、S):僕は大学時代に農業を専攻し、日本中の農家を巡っていました。「農業は難しい時代だ」と言われているけど、本当にいいものを真剣に育てている農家さんはたくさんいました。彼らが作るものをきちんと東京で暮らす人に届けたい。逆に言えば「東京でいい野菜が売っていない」ということでもあります。

コピー目(C):スーパー、コンビニ、どこでも野菜は買えるけど、「いい野菜」はあまりないと。

S:あまりよくないと思います。もちろん、いいところもあるのですが、基本的には大手流通で本当にいい青果を出すのは難しいと思います。理由は、「何段階も物流を経ている」からです。流通って、商流、物流含みます。商流が複雑でも物流が単純なら、鮮度は本来いいはずです。スーパーやコンビニは、商流が複雑なのはさることながら、物流まで複雑ですから。

C:それは「すべての店舗に届けなくてはいけない」というような、大手、大量消費などの事情もありますよね。

S:それも一因だと思います。数百店舗あると、MとかLとかで規格を統一したがるんですよ。それを無理に集めようとするから良くない時期に収穫していたりもします。例えば、メロンって「秀」「優」「良」って規格があるんですね。上から糖度が、「15以上」「14以上」「13以上」って感じだったりします。(JAによります)

だけど、市場の場合はそれ以上に見た目です。見た目の網のかかり方や、まん丸かなど、そのあたりがズレているとはじかれて、その下のカテゴリに入る。実は、ここに掘り出し物が多いわけです。産地は力入れてつくっているので、大体糖度は12度以上が保証されているのですが、見た目が悪いからってだけで糖度13~15度が入ってくる。かつ、価格が秀の1/2とかです。

「見た目」は、大量消費でどんどん捌かないといけない時の指標ですね。解りやすいですから。それなのに、スーパーだと買い物する人は必至でいいものを選りすぐろうとしているのは不思議な光景です。 ここに“規格物流の歪”があります。

C:「規格物流の歪み」っておもしろいですね。「見た目」が「規格」になってしまっていて、「新鮮さ」とか「味」とか「栄養」とか、そういう野菜本来の価値がおざなりになってるいると。

S:なんでも手にはいる東京が、いちばん「いい野菜」が手に入らないなんておかしいじゃないですか。

【街に「普通の八百屋」が必要な理由】

C:旬八青果店の特色というか、新しい部分はどこにあるのでしょうか?

S:はっきり言って、あまりありません(笑)。モットーは「新鮮・旨い・適正価格」です。安心・安全は当たり前なので、ここにはいれていません。今は「産直6割、市場4割」くらいで仕入れています。ただ、旬八では「バイヤー」と「店長」を分けません。「売る人間」が責任をもって「仕入れ」をする。だからお客さんに「会話」ができる。

さっきも言ったように、野菜はとにかく鮮度です。だからできるだけ毎日入荷し、その1日で売り切る、ということを心がけて運営しています。普通ですよね? その普通の八百屋が減っていることが危機だと思います。

C:僕はいつも思うのですが、みんな「イノベーション」という言葉を使うようになって、何か「世の中をひっくり返すような画期的なアイデア」を求めている気がするんですが、実はそんなものないんですよね。ひとつひとつ、地道に創り上げていくものですよね。旬八青果店は、新しさはなくても、とても繁盛しているように見えます。赤坂店なんて会社近いので夕方行くんですが、いつも賑わっています。

S:僕は八百屋があることによって生まれる2つの「コミュニケーション」にとても意味があると思っています。

ひとつは、農家さんの想いを時間をかけて深くヒアリング出来るのって僕らバイヤーの能力だから、それをしっかり伝えないといけないと思うんです。それは、八百屋ならではだと思います。一番美味しい食べ方や今食べたほうがいいとかの時期を伝えられるのは。

C:コンビニで野菜が売っていても店員さんに「これはどこの農家さんですか?」とは聞けませんしね(笑) 僕も旬八にいったときに、可愛い店員さんに「今日、すごくいいデコポンはいったんですよ」って言われて買いました。ほんとにおいしかった。

S:もうひとつは、都市に対して思うことですが、食という天気と同じような誰もが共通で話せる「旨い」とか「まずい」とかそういう軽いネタで、街の人たちが顔見知りになったりして、街のコミュニティになればいいなと思ってます。これからはより1人暮らしとか増えてしまうだろうから。そういう都市に対する二次的効用の意味でも、八百屋のような個人商店はどんどん広がってほしいと思います。

C:八百屋のとなりに肉屋があって、魚屋があって…。そういう「専門店化」がもう一度起こると、もっと買い物も楽しくなりますよね。商店街化は、もしかしたらこれからの都市復興のかたちかもしれません。

【日本の農業を変えるために、八百屋をつくる。】

S:僕はもともと「農業」の世界でビジネスをしたいと考えていました。農水省やJAに入るという選択肢もあったけど、この世界には「ビジネス」や「経営」をする人が少ないことを知っていたので、経営の道を選びました。ある人材会社に入社して、営業と経営を学んで、そのあと独立しました。

C:農業ではなく、八百屋にしたのは?

S:僕にとって、その2つは切り離せないんです。入り口が違うだけです。農業というあまりに巨大な仕組みを動かすよりも、流通の先にある「生活」から変えるほうが、まだ早いかと思いました。100店舗つくる頃には、きっと農業や流通に対して物申せる立場になれるだろうから(笑)

まずは生活の中での「青果に対する意識」を変えていくこと。それで流通を変えて、農業を変えていきたいと思います。実際にはそれらは同時に行われることですが。

野菜は、鮮度が命です。だから農家さんの家にいって「今日穫れた野菜」を食べるときのおいしさって本当に格別なんです。本当に幸福な気持ちになれます。少しでも多くの人に、その感動を知ってもらいたい。だから旬八青果店は、地域の農業と生活の距離を短くすることを目指していきます。まだまだこれからですが、少しずつ広げていきたいと思います。


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(写真)左が左今さん。

あとがき:
左今さんと僕は、旬八をつくる前くらいからの知り合いです。僕は同世代でいろんな経営者をみてきましたが、こんなに落ち着いて、太いビジョンを掲げる経営者はあまり見たことがありません。こういう人たちと同世代で、新しい大きな企業をつくっていけたら、と思っている仲間なのです。旬八青果店、近くに住んでいる方は、ぜひ行ってみてください。爽やかな店員さんたちが、「今日もいい野菜が入りましたよ」と野菜について楽しそうに語ってくれるはずです。

(文/コピーライターの目のつけどころ)

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