【コラム】アイスバケツチャレンジ反省記 やってみて感じたスイーツとの関連性

2014/08/29 15:00


ibc

「パンツは人前で脱ぐよりも、(その後で)履く方が恥ずかしい」

10代の頃、こんな格言を聞いたことがある。読み人知らずだが、ビートたけし(北野武)が言ったという説がある。ただ、この言葉を聞いて、納得した。何かに取り組んでみて、それがあまりウケなかった場合、やらなきゃよかったと思ってしまうわけだ。

思えば、高校時代のバンド演奏、大学時代のゼミや会社員時代の職場での宴会芸、著者としての講演やイベント…。寒いギャグ、宴会芸、煽ろうとして誰も反応しないMCなどで、何度場をしらけさせてきたのだろう。考えると、生きているのが辛くなるレベルである。

先日、津田大介氏からバトンがまわってきたので、話題のALSアイスバケツチャレンジをやってみた。本来は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の知名度を上げるためのチャリティキャンペーンである。指名された人は、24時間以内にバケツで氷水をかぶるか、100ドルを募金しなければならない。しかし、このキャンペーン、結局、本来の目的を果たしたのだろうか。私は参加するべきだったのだろうか。徒然なるままに振り返ってみよう。

私は、友人、スタッフと一緒に代々木公園で炎天下、氷水をかぶった。YouTubeとFacebookにアップした。YouTubeでは1週間で約1000回再生されていた。Facebookの「いいね!」は233だった。私が過去にYouTubeに投稿した動画の中では再生回数は最も多いと言っていいが、とはいえ、そんなものである。私が氷水をかぶり、映像を投稿したのは8月22日だが、もう1日2日早かったらもっと話題になっただろう。ちょうど日本の“意識高い系”で話題になっていたのは、この週の前半だったように思う。

調子にのって、プロレスラーの棚橋弘至選手、シンガーソングライターの山崎あおいさん、高知県在住のプロブロガーであるイケダハヤト師にバトンを渡したが、特に反応はなかった。何人かから「私にバトンをまわしてほしい」というメッセージを頂いたのだが、いったんまわしたあとでアレなのでやめた。

自問自答してみた。これは、本来の役に立ったのだろうか。つまり、ALSという難病を解決することにつながったのだろうか、と。

日刊スポーツの8月23日の報道によると、Facebookには120万本以上の動画が既に投稿され、募金の主な受け皿である米AKS協会には、アイスバケツチャレンジが本格化した後、8月22日までの1カ月足らずで前年同期比24倍となる5330万ドル(約55億円)が集まったという。「お金が貯まったかどうか」という指標においては、成果が出ていると言っても良いだろう。

ただ、「知名度が上がった」と言えるのだろうか。知名度が上がったのは、バケツで氷水をかぶった個人であって、ALSという難病自体の知名度が上がったかどうかは、明確な判断ができないのではないだろうか。あくまで体感値でしかないが、「ALS」という単語の知名度は上がったものの、それがどういう病気なのか、なぜ問題なのかということについての理解が深まったかどうかは疑問である。難病で苦しんでいる人に同情するとともに、そのサポート体制の最適化が重要だと考えるが、難病であるが故にリアリティを感じにくいとも言える。

むしろ、身近にある病気やそれに関わる諸問題の方が我々にとってはリアルな問題である。であるが故に、有名人たちを中心とした氷水をかぶる売名行為キャンペーンに見えてしまったのもまた事実ではないか。

別の切り口から言うならば、ソーシャルメディアの時代になり、「シェアした際に見栄えが良いこと」がキャンペーンとして期待されている時代だとも言える。8月17日の日経の「創論」というオピニオンコーナーで、コラムニストの辛酸なめ子氏が若い女性の消費において気になるトレンドとして、次のようなコメントをしている。

「パンケーキやカップケーキなどのスイーツの新店にできる長蛇の列。数時間待って店に入ると、まず皆スマートフォン(スマホ)で写真を撮る。昔も今も並ぶことにはイベント的な側面があるが、これまでと違うのは、目的が自分の満足にあるのではなく、話題の店に行った自分をSNSで発信して自慢することにある点だ。人気スイーツには、派手な色で写真ばえがする、という共通項がある」

そう、スイーツのビジュアルひとつにしても、SNSで共有した際に見栄えが良いかどうかという点が求められていると言える。このアイスバケツチャレンジにおいては、「見栄えが良い」という点が受けたのではないか。

とはいえ、この手のチャリティにおいては結局、それは役に立ったのかという観点が必要だろう。話題になるだけでは、難病の知名度が上がるという点においては良いのだが、苦しんでいる人を救えたかどうかではクエスチョンだ。とはいえ、これを面白がったり、シェアしたりするレベルでの参加意識、関わっている感が受けたのだと思われる。

このムーブメント自体が、SNS時代の、見栄えのよい、関わっている感のある社会運動を象徴していないだろうか。しかし、氷水をかぶるのが暑い時期でよかった。すっかり涼しくなってしまった。いや、そんなことを言うこと自体が偽善か。

難病で苦しまない社会を作るのも大事と認識したうえで、まずは目の前の困っている人に優しくなろう。そう思った次第である。うむ。

(文/常見陽平

常見陽平コラム
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