奇跡か幻想か?リクルートOB常見陽平氏の最新「リクルート本」に愛と誠を見た

tsunemi

ありそうなのに本当はないのが、「幻想」。ありえないのに現実に起こるのが、「奇跡」。まるで正反対のように見えて、「現実とイメージとの距離感」という意味では、このふたつは近しいとも言える。

そう考えると、リクルートOBで、評論家・人材コンサルタントとして活躍する常見陽平氏の新著『リクルートという幻想』(中公新書ラクレ)は、同じく元リクルートの藤原和博氏によって書かれた10年前のベストセラー『リクルートという奇跡』の正統な後継者なのかもしれない。

著者である常見氏は、1997年に一橋大学商学部を卒業後、リクルートに入社。

8年間勤めた後、玩具メーカーの人事部に転職した。氏が初めてリクルートを「幻想」と感じたのは、退職して1ヶ月後、採用を担当するようになった彼のところにリクルートの“トップ営業マン”が訪れた時だという。

「今ひとつデキないその担当者を見て、『トップ営業マンは一体何人いるんだ!』と思いました」。実際“元・リクルートトップ営業”を謳い文句にした本やセミナーは数多い。

リクルートホールディングスは、この秋、東京証券取引所に上場することが公式発表されている。同書は、これにタイミングを合わせて出版されたのではないか、といううがった見方もできるが、じつは2年前から書き貯められていた。

「最初は愛と怒りから書き始めたが、20万字ほど書いて、この夏にそのほとんどを書き直しました。感情的な部分は徹底的に削って、半分くらいの長さになりました」と常見氏。

多くの日本企業が否応なく戦わざるをえないグローバル競争の波に、情報産業として国内市場では“天下獲った感”のあるリクルートもまた晒されている。

国内外で積極的に企業買収を繰り返し、2000億円以上の売上を海外であげるようになった経営環境は景気よく見えるのだが、常見氏は「攻めているように見えて、実は巻き込まれ、新しいルールでの戦いを強いられているだけなのでは?」と分析する。

この指摘は、その他多くの日本企業にも当てはまりそうだ。

2012年から社長を務める峰岸真澄氏のリーダーシップの下、

「経営の教科書のような理想的な会社になった一方で、会社がシステマティックになりました。しかも、『立派な日本の大企業』になった今でも『若い会社』を装おうとしているのです」

現実と、氏の言う「幻想」とのギャップは、ここにも生まれているのかもしれない。

「リクルートという『幻想』について、峰岸社長と対談してみたい。本当は、創業者である江副浩正さんとお話ししたかったが、執筆しながら機会を伺っている間に、昨年亡くなられたのは残念でした」

と語る常見氏の口調からは、古巣への愛憎を越えて、“批判にかける誠意”が感じられた。

上場後の現実が幻想を破壊するのか。もしくは幻想をさらに上回るような現実が奇跡的に実現されるのか。興味はつきない。

同書は、9月9日発売予定。

(取材・文/しらべぇ主筆・タカハシマコト

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