サンフランシスコが美食の街である5つの理由【マッキー牧元の世界味しらべぇ】
「アメリカの食事=大味=おいしくない」という時代は、遠くに過ぎ去った。今やアメリカは、世界の中でも刺激的で最先端の食事に出会える国である。経済が順調であることがなによりの理由で、多くの富裕層が、星付きレストランで食べるためだけに世界中に出かけて楽しんでいるので、国内でも彼らを満足させるに足るレストランを作ることが、ビジネスになるからである。
その勢いをつけたのが2004年発売のミシュランニューヨーク版で、その後、サンフランシスコ・ベイエリア、ラスベガス、ロサンジェルス、シカゴと発売される。しかしラスベガス版とロサンジェルス版は、売れ行き不振のため、ほどなく廃刊。現在では、ニューヨークとサンフランシスコ・ベイエリア、シカゴ版のみで、今最もアメリカで面白いレストランがあるのはこの3地域であるといわれている。
ミシュランに話を戻せば、今アメリカでは日本の「食べログ」に当たる、Yelp(日本でもサービス開始中)、Chowhound、Urbanspoonといった、ユーザーの投稿による集合知を表した、無料のネットメディアがあり、わざわざ19ドル払ってミシュランを買う必要がないというのも現状であるが、それでも3地域が売れ続けるのは、その地域のクォリティーの高さである。
2014年度版、ミシュランニューヨークでの三ツ星は7軒、サンフランシスコ・ベイエリア版では2軒である。数の内では負けるが、アメリカ人の意見を聞くと、「ニューヨークはカッコをつける、ステイタスやスタイリッシュ、モダンというところに重点が置かれる店が多いけど、実際に味がおいしいのはサンフランシスコだ」という人が多い。さらには世界中で、人口比に対して一番レストランが多いのは、サンフランシスコであるという。
今回、その実情を探るべく、1週間食べ歩いた。結論から言うと、いまのこの地域は、きわめて特徴的で、世界中のどこにもない食文化が花開いていることがわかった。ビジネス的にも大成功している店が多く、人気のレストランは、3か月以上先でないと予約が取れない。また三ツ星はコネがないと、予約を取ることさえままならない。世界で最も予約がとれないというNAPAの「フレンチランドリー」(現在改装のため休業中)は、予約を取るだけのために500ドルで請け負うエージェントまでいる状態である。
それではこの地域はなぜそんなに質の高いレストランが集中しているのか。それには5つの理由がある。
画像をもっと見る1.「オーガニック、ビーガン」
全米中最もオーガニックへの意識が高く、多くの農家が存在し、専門のスーパーや専門店だけを集めた人気のモールまである。またより厳しい菜食主義者であるビーガンの人たちも数多く、球場のバーガーでさえビーガンメニューがあるほどである。
そのためにおいしい野菜を作ることに注力され、安全で力強い野菜が多く生産されている。そしてそれらを支える、健康志向・オーガニック志向のグルメが数多く存在している。
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2.「シェ・パニース効果」
1971年に開店した「シェ・パニース Chez Panisse」の影響が大きい。NHKでも何度も特集されたオーナーのアリス・ウォーターズ(Alice Waters)氏は、地元産・オーガニックの旬な食材を使い、『その日に仕入れた素材の持つ美味しさを生かし、その日のメニューを決める』という、一見簡単なようでいて実は大変難しいことを、43年も前から実行してきたに人である。彼女は、同じ思想を持つ農家や漁師、肉屋などとネットワークを作り、この地の優良な食材を育んできた。その後レストラン出身者、生産者など、多くのアリス・ウォーターズチルドレンたちが、ベイエリアで活躍している。
地元産オーガニックで、サステイナブル(持続可能)な食材を使うレストランが多く存在している。ちなみにアリス・ウォーターズ氏は、2007年、過去50年で最もアメリカ料理に影響を与えた人物として、讃えられている。
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3.「人種のるつぼ」
移民の街サンフランシスコは、メキシコ、中国、日本という独自の街を形成している民族だけでなく、フランス、イタリア、ドイツ、ギリシャ、韓国、タイ、ベトナムなど様々な民族が生活して、それぞれのおいしい料理店のほか、互いが影響し合って、多様な食文化が生まれている。
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4.「自由な精神」
反体制運動Beat Cultureの震源地であり、ヒッピーの発祥地であるこの地域は、元々自由な精神が横溢している。アーティストも多く、ゲイも多い。人口の30%がゲイといわれ、全米で初めて同性婚を認めた市でもある。そのため保守的な食世界にあっても、進取や独創の意識が高く、かつ繊細でデザイン性の高いものが求められる傾向にある。
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5.「裕福な客層」
車で1時間ほどのシリコンバレーで働く人たちは、市内に住むことを好む。そのため、不動産は年々上昇を続けているが、裕福な客層が存在するのである。また全米から多くの観光客がお金を落としに来る。そのため多くの人気レストランは、昼には営業せず、夜しかやらない。客席も100人以上の店が多く、それが満席で夜は2回転する(人気店は5時から開店し3回転させるところも)。客単価は15000円~20000円。1日売上400万円。こんなビジネスが成り立つ都市は、そうはない。
一方食事情とは関係ないが、気候がよく、セーフティーで、気前の良い観光客が多いため、全米一ホームレスが多い街なのでもある。滞在中も多くのホームレスにブロックごとに出会った。しかも老若男女である。富裕層と隣り合わせのホームレス。これもまたアメリカの縮図なのであろう。
では次回からは、今ここに行くべきという、サンフランシスコ・ベイエリアを代表するレストラン紹介しよう。
(取材・文/マッキー牧元)