アングル、ドラクロワ、クールベ 西洋美術三大巨匠の「ヘンタイ」に迫る
西洋美術の作家は意外な個性と人生模様が…
山田五郎館長率いる「ヘンタイ美術館」は、「美術の歴史は、ヘンタイの歴史でもある」というキャッチコピーのもと、西洋美術をヘンタイ視点でわかりやすく紹介する架空の美術館。美術の天才たちの人間くさい部分や、ヘンタイ部分に焦点をあてながら、どうして彼らが傑作を遺したのか、どうしてそれが傑作なのか?を紹介しています。
来る12/4(木)「理想と現実、どちらがヘンタイか?〜アングル・ドラクロワ・クールベ」と題した第3回トークイベント開催に先駆けて、19世紀前半の西洋美術に大きな改革をもたらした三巨匠たちのヘンタイっぷりをみなさんにご紹介しましょう。
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■エリート画家でありながら、止むに止まれぬ欲望で理想美を確立したアングル
*ドミニク・アングル『グランド・オダリスク』1814、ルーヴル美術館
それまで流行っていた、享楽的で退廃的なロココやバロックにアンチテーゼをとなえた「新古典主義」。アングルはそんな「新古典主義」を代表する画家のひとり。ギリシア・ローマの古典に倣い、イタリア・ルネサンスを範と仰ぎ、当時の最高の栄誉・ローマ賞を受賞。アカデミズムの頂点、フランス・アカデミーの院長をつとめたアングルは、当時の画家としてエリート中のエリートでした。
そんなアングルの代表作のひとつである、『グランド・オダリスク』。私たちに背中を向けたこのハダカの女性、何か、異質な感じがしませんか?
そう、胴が異様に長いんです。この女性、「通常の人間より脊椎の数が2,3本多いのでは?」というウワサもあるほど。背中のみならず、彼は美しい貴婦人たちの肖像画も沢山のこしていますが、その貴婦人たちもみんな首が長い。
ラファエロを研究したエリート巨匠、アングル。なのにデッサンが狂っている!?もとい、デッサンが狂っているのではなく、わざとそうしているんです。「女性の長い首や長い背中」がたまらなく大好きだったアングルは、彼の理想「長い背中」という欲求を追求しながら、独自の美意識を確立してしまったヘンタイだったのです。
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■生まれ持った自分の運命に逆らわずにはいられない中二病の苦闘、ドラクロワ
*ウジェーヌ・ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』1830、ルーヴル美術館
アングルは画家として超がつくほどのエリートでしたが、一方ドラクロワは有名な外交官を父にもった(実父はウィーン会議のタレーランという説も)超がつくほどのおぼっちゃま。生まれながらのレールに従うことができず、生涯を通して、反アカデミズム、反西洋主義とアンチの立場をつらぬいたドラクロワの人生は、現代で言えば、まさに「中二病の苦闘」。
アカデミズムに対してはジャーナリズムで抵抗。目の前に起きている社会運動に積極的に参加し、古典の昔話ではなく同時代の事件をドラマチックに伝えました。1830年に起きたフランス7月革命を描いた『民衆を導く自由の女神』には女神のすぐ横に銃をもった紳士としてドラクロワが登場していますが、これは彼のアンガーシュマン(社会や政治に参加すること)もあらわしています。
おぼっちゃまという定めから逃げるためにアートに没頭したドラクロワ。そんな彼の中二病的な苦闘や葛藤が「ロマン主義」という新たな潮流を切り開いたともいえます。