長年支持される理由とは? タイで唯一、日本人が経営するオーガニックファーム『黒田』
バンコクの日本食店に『黒田』という店がある。15年以上も営業しており、刺身や寿司、天ぷらなどの食べ放題で知られている老舗だ。長年、バンコク在住の日本人のみならずタイ人に親しまれてきた『黒田』は、食べ放題だけがウリではない。
タイで唯一、独自の農場を持つ日本食店としても知られているのだ。『黒田』が持つ農場は、タイ東北部のコラートという県。県中心部から車で1時間ほどの場所に、広大な農場を構えている。農場を管理しているのは、『黒田』のオーナーでもある田中鴻志(たなかこうし)代表だ。
御歳74歳だが、この農場の管理をしつつバンコクの『黒田』にも顔を出すなど、年齢を感じさせないパワフルな方だ。『黒田農場』を始めたのは20年以上も前だという。「タイに来たのは25年前ぐらいで、そのときはJAICAで勤めていました。辞めてから農場を始め、そのあと『黒田』をオープンしたんです」。『黒田農場』の特長は、軍鶏を自然のままで飼育し、与えている餌には化学物質が一切含んでいないことにある。
タイでは鶏がよく食されるが、出荷されているほとんどがブロイラーだ。地鶏を飼育して出荷している養鶏場は、日本に比べて圧倒的に少ない。理由は簡単だ。ブロイラーの方が利益率がはるかに高いからである。バンコクでよく見かける屋台では焼き鳥や唐揚げを売っているが、こういった店で地鶏を使用し販売価格を上げると、客が寄り付かなくなることは必至。質の向上よりもブロイラーを使用し低価格を維持しなければならないのだ。
『黒田農場』の養鶏所は、鶏の年齢によって飼育場所が移されていく。そして、ブロイラーの養鶏所のようにコンクリートの地面ではなく、土だ。自然に近い飼育方法で、時間をかけてゆっくりと育てられる。だから旨い鶏になる。
農場の軍鶏は一種類ではなく、さまざまな掛け合わせが試みられており、幾つかの種類が混在している。飼育されている鶏の総数は4000~5000羽だという。
飼育されているのは鶏だけではない。『黒田農場』では豚や牛も飼育している。ここで飼育された鶏や豚、牛は『黒田』にだけ出荷されており、他の料理店やスーパーなどへは卸していない。
そのため、『黒田』へ出荷される肉は、農場でさばいてしまう。それは『黒田』がバンコクだけではなくアユタヤやコラートにも出店しているため、各々の店舗でさばくとムラが出てしまうためだ。農場で一括してさばくことで、どの店でもある程度統一した形や、厚みの肉を提供できる。
最後に、田中代表に訊いてみた。「タイに、日本人が運営または経営している農場や養鶏場ってあるんですか?」答えは簡単だった。ノーである。「だって軍鶏をこんなに丁寧に育てていたら儲からないもの(笑)」
タイで唯一、軍鶏をオーガニックで育てる田中代表。彼のこだわりは『黒田』でしか味わうことが出来ない。
<SHOP DATA>
日本食店「黒田」
ADDRESS:5 Soi Sukhumvit 63 (Ekamai),Klongton, Bangkok
TEL:02-381-2844 OPEN:11:30-23:00(ラストオーダー22:30、ビュッフェは21:30)
(取材・文/しらべぇ海外支部・西尾康晴)