【コラム】渋谷系という面倒臭い存在…そして、渋谷系上司こそ最も面倒臭い奴らである
*Photo by ajari
思わず、iTunes Storeである音源をポチってしまった。野宮真貴の新譜、「実況録音盤! 『野宮真貴、渋谷系を歌う。〜Miss Maki Nomiya Sings Shibuya-kei Standards〜』」というアルバムである。
なぜ、この音源を買ってしまったのか、よくわからない。ただ、この音源を買うことを僕は欲していたし、この音源も僕に買われがっていた。そんなことは、沖縄県知事選、那覇市長選の結果が出て、さらには総選挙へと向かう2014年の冬の日本にとって、どうでも良いことであり、僕にとってもそれほど大切なことではなかった。ただ、音源があり、僕はそれを買った。ただ、それだけのことだ。
と、村上春樹風に思わず書く面倒臭い中年がここにいるが、個人的に気になったことがあると言えば「渋谷系」とは何だったのかということだ。ぶっちゃけこれが流行った頃に僕は高校生〜大学生だったわけで。当時は今よりもCDは飛ぶように売れていたし、タワーレコードやHMVが全国に広がっていった時期でもあった。
一方、永遠の中二病であり、ロッカー、メタラーである僕は、これにハマったら負けだと思っていたのだ。僕が大学進学で上京した1993年、当時はこの手の音楽が流行っていて、小山田圭吾風、小沢健二風の格好をした奴は、東京のはずれにある、受験偏差値は高いがファッション偏差値はFランクレベルの僕の大学にもそれなりにいた。「こいつらとは、お友達になれない」空気がヒシヒシと漂ってきたのだった。当時は、従来のメタル、ロックもグランジブームでやや崩壊気味だったし、バンドブームも終わっていたのだが、僕は渋谷系に対する、妙な嫌悪感があったのだった。いや、ブームが終わった後、オザケンとコーネリアスとフリッパーズ・ギターくらいは聴いたがな。
渋谷系が苦手だった理由
なぜ、渋谷系が苦手だったか。妙なお洒落風な感覚、ちょっと敷居の高い感じ、さらには、その人たちのウンチク語りたがりな雰囲気が苦手だったのだ。
いや、いま、書いていて気づいたが、僕は、メタル系だ。ビジュアル系だ。敷居の高さ、ウンチク語りたがりな雰囲気では負けていないな。いやはや、こういう思い込みで思想信条の対立は起こるのかと、再確認した次第である。
ふと思い出した。大学1年生の時の春休み、クラスの女子で渋谷系ファンの子が、決して裕福な大学生活をしていたわけではないがAV機器(オーディオビジュアルな、エーブイと読むなよ)だけは完備していた僕のアパートに、突然遊びに来たことを。フリッパーズ・ギターのビデオを観たい、CDをダビングしたいと、レンタル店から借りたものを持って夕方から夜の遅い時間まで遊びに来たのだ。
だああ!モテない私だったが、ひょっとしたらこれは、チャンスだったのではないだろうか。いや、互いに全く恋愛の対象にしていなかったけどな。それぞれ、いまは既婚者だけどな。ずっと渋谷系の音楽を聴き続け、お洒落だな、でも違うなと思いつつ、時間を過ごした。何もなく、平和に帰宅していったことを思い出した。
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渋谷系が管理職になり始めている
さて、何が言いたいかというと、アラフォー男女で、当時渋谷系にハマっていた奴らが、会社で課長になり始めているのだ。こいつらは、面倒臭い。所詮、流行ったので、多くの人が聴いている音楽ではあるのだが、自分はお洒落な特別なものを聴いているという特別感、うんちく話好き。こういう奴らが課長になり始めているのだ。
せめて、オリジナル・ラブや小沢健二、ピチカート・ファイブの売れた曲をカラオケで歌ってくれるくらいならいいのだが、こいつらのレア曲、そして、いくら売れていて世界的に認められていてもカラオケで盛り上がれないコーネリアスなんかを歌われたら、生きているのが辛くなってしまう。さらに面倒くさいことに、こいつらは、カラオケで職場のみんなが盛り上がってくれないことを確認し、自分は渋谷系を知ってると悦に浸り、相手を見下すという面倒くさい存在なのである。
あと、いくら大企業に勤めていて、年収も社会的ステータスも高いとはいえ、「小沢君」とか「小山田君」とか、アーチストを「君呼ばわり」するから面倒くさい。いや、この「君呼ばわり」文化というのは、他の分野でもよくあるけどな。ホリエモンこと堀江貴文氏がブレークし始めた頃、彼の友達の友達の友達くらいの奴が会社で「堀江君」と呼んでいてどうかと思ったり。あと、古市憲寿氏、荻上チキ氏と接点がなく、仕事もしていないのに、本も読んでいないのに「古市君」「チキ君」と呼ぶ奴が多すぎるという問題にも通じるものがあるな。こいつらを黙らせるためには、酔った勢いで「課長!小山田君って、お友達なんですか?」と聞いてみると良い。
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渋谷系管理職と付き合うコツ
社会にはびこる、パンク課長、ヒップホップ係長同様、こういう渋谷系管理職と付き合うコツは、ひたすら話を聴いてやることだ。傾聴力が試される。ただ、「自分は特別」「お洒落な文化を知っている」という優越感、これをいじってしまうと大変なことになるから、気をつけろ。これはまた、受験競争が厳しかったというプライドなんかと重なっているから面倒臭いんだよな。
と、野宮真貴のこのライブ盤を聴きながら、こんな原稿を書いているわけだが、今は普通に聴けた。とはいえ、独特の、当時敷居が高かった妙な壁、溝を再認識した次第だ。このアルバム、アラフォー男女を理解する上で最適かもしれない。心のベストテン第1位って感じか。
まあ、僕は、この前インタビューしたANTHEMのクラブチッタ川崎のライブに行くけどな。
(文/常見陽平)