【脱ぎたくない?脱ぎたい?】作詞家・秋元康はアイドルの制服を脱がせたくない!?
2014年、ありのままの姿を見せた結果、そこで訪れた寒さに対して「少しも寒くないわ」と強気の姿勢をとる主人公を歌った曲、映画『アナと雪の女王』の主題歌『Let It Go』。
この曲に限らず、これまでも服を脱ぐべきか脱がざるべきかについて呻吟する主人公のことを歌い上げた楽曲は少なくありません。
特に、AKB48の総合プロデューサーであり作詞家の秋元康さんは、これまで自身が手がけた楽曲で主人公が制服を脱ぐことにこだわる歌詞を多数手がけてきました。制服は10代の中高生を表すアイコンであり、それゆえに「制服」という単語が歌詞に多用されていることは容易に想像がつきます。
今回は、『Let It Go』の大ヒットにより服を脱ぐことが称揚された2014年に、「制服」に絞ってそれを脱ぐべきか否かについて言及し続ける秋元康さんの歌詞をそのストーリーとともに分析します。
1:制服を脱ぎたい!
制服が邪魔をする/AKB48(2007年)
【引用】
制服が邪魔をする
もっと自由に愛されたいの
どこかへ連れて行って
知らない世界の向こう
(省略)
制服を脱ぎ捨てて
もっと不埒な遊びをしたいの
何をされてもいいわ
大人の愉しみ知りたい
ストーリーは単純明快です。主人公は夕方の渋谷に生息する女子高生。とにかく制服がボトルネックとなっているがゆえに温もりを伴った行為ができない現状に対し、主人公はひたすら嘆息しているのです。
主人公が制服を脱ぐことへのこだわりは尋常ではなく、最後まで「キスしなさい」という命令を男性(と思われる人)に続ける内容となっています。
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2:制服を脱ぎたくない!
制服アイデンティティー/渡辺麻友(2013年)
【引用】
制服を脱ぎ捨てたら
私はどうなるのでしょう
肩書きも何もない
ただの普通の女の子
自らが制服を着ていることで囲繞されているかわいさやブランド力が失われてしまうことを懸念している歌です。制服を着ていることで得られている自分のアイデンティティーが失われたときのことを考え、主人公は今から戦々恐々としているのですね。
おそらく、この時点で主人公のキャリアは定まっていないのかもしれません。仮に高校卒業後、女子大生やOLなどの新たな社会的地位が定まっていれば、ここまでビクビクする必要はないとも考えられるからです。少なくとも、この曲の主人公は、現在女子高生であることが自らに至上の価値をもたらしていることを信じて疑いません。だから制服を脱ぎたがらないようです。
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3:やっぱり制服を脱ぎたくない!
JK眠り姫/AKB48(2009年)
【引用】
時がどれだけ過ぎても
似合っていたいの制服
今が永遠に続く
JKの夢を見させて
この曲もまた、女子高生のままでいさせてほしい主人公の気持ちを歌った曲です。女子高生でいることが自らのブランドであることに気付いている主人公は、制服という女子高生のアイコンを失うことを極度におそれています。せめて卒業してからも制服が似合う容姿と若さを保っていたいと願う態度から、その必死さはさらに伝わってきます。
2014年の新語・流行語大賞にノミネートしている「JKビジネス」を見ればわかるように、女子高生がある種の人たちにとって商品価値を持っていることは否定できず、またそれに自覚的な彼女たちがいることも厳然たる事実です。
そうした現状をわかっているからこそ、歌詞の主人公は制服を脱ぐ=女子高生を卒業することを拒んでいるのでしょう。
しかし一方、1980年代になると現代と真逆の立場をとっている楽曲があります。
セーラー服を脱がさないで/おニャン子クラブ(1985年)
【引用】
セーラー服を脱がさないで
今はダメよ我慢なさって
セーラー服を脱がさないで
嫌よダメよこんなところじゃ
歌詞の通り、セーラー服を脱がそうとする男の子の行動を「今はだめ」と言って断っています。この曲から30年近くの時を数え、同じ秋元康さんがプロデュースするAKB48が『制服が邪魔をする』のように、むしろ制服を脱ぎたくて仕方がない旨を主張した楽曲を歌ったのは興味深いと言えるでしょう。
とは言え、『JK眠り姫』や『制服アイデンティティー』の歌詞にあるように、女子高生のままでいることに拘泥している態度も伺えます。つまり、秋元康さんの歌詞の世界では「制服はシチュエーション次第では脱ぎたいけど、基本的には着たままでいたい」というのが基本的なスタンスということでしょうか。
ところで、アイドル以外にも制服を脱ぐことについて言及した楽曲がありますので、その一曲をご紹介します。
My Generation/YUI(2007年)
【引用】
制服脱ぎ捨てた16のアタシに
負けたくはないから
うしろ指さされたって
振り向いたりしなかった
YUIさん本人の16才の時の状況を歌った曲です。制服を脱ぎ捨てることを言及しているので、彼女が校務課に退学届を出して中退の道を選んだことが伺えます。
18才まで高校に在籍して勉強に励むことと、16才で中退して歌手活動を始めることはトレードオフ。いま思えば、合理的経済人として機会費用を意識した行動をとっていたYUIさんの行動は、秋元康さんが貫く「制服」の世界観とはまた違った様相を呈しています。
今後も「制服」というアイコンがある限り、アイドルたちは制服を脱いだり、着たり、脱がせなかったりと、せわしなく動き続けるのかもしれません。
(文/しらべぇ編集部)
※画像はAKB48公式サイトのスクリーンショットです