2015年は「K文学」に注目?日本で韓国の文芸書の普及に尽力する来日20年の女性
年末進行に苦しむ顔を周囲に多く見かける季節がやってきた。しかし、その苦しみもあと少し。ここではぜひ、来たるべき「素敵な2015年」に目を向けたい。
目立つトピックをいくつかあげると、北陸や北海道で新幹線が走ったり、世界遺産「姫路城」がいよいよ一般公開されたり、AppleWatchが発売されたり・・・。楽しみなニュースは他にも目白押しである。
そんな2015年、日本と韓国は「日韓国交正常化50周年」を迎えようとしている。
若い世代のなかには、「韓国と交流を持ったのってそんなに最近なの?」と思う人もいるかもしれない。「日韓W杯」や「冬ソナ」ブームを経て、K-POPが日本でも大人気を獲得している昨今では無理もないだろう。お土産に「韓国海苔」をもらっても、「ちんすこう」や「白い恋人」を渡されるのとほとんど同じ感覚だ。
話を戻すと、アニバーサリーイヤーということで、2015年は日韓の交流イベントなどが多く開かれるだろう。そんな折り、新たな「波」を感じたのでご紹介したいと思う。それは、「韓国文学」だ。
韓流ドラマは、BSを中心に現在でもテレビ放送がつづいているのに、文芸書となるとまったく存在感がない。そこで今回、しらべぇ編集部では、アンケートサイト「Qzoo」を使い、20代から60代の男女あわせて1500人を対象に次のようなアンケートを実施した。結果とあわせてご覧いただきたい。
画像をもっと見るQ1. 「韓流」ドラマや映画を観たことがありますか?
ある:41.6%
ない:58.4%
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Q2. 「韓国人作家」の小説を読んだことはありますか?
ある:7.4%
ない:92.6%
※方法:インターネットリサーチ「Qzoo」
調査期間:2014年11月14日(金)~11月16日(火)
対象:全国20代~60代の男女1500名
韓流ドラマ・映画になると、41.6%が「ある」と回答。特に女性に限定すると50.5%と半数が「観たことがある」のだ。しかし、「文芸書」になると僅か7.4%しか読んだことがない。女性に限定しても6.7%と、むしろ少なくなる結果なのだ。
しかし、これはやむを得ないだろう。実際に日本で出版される韓国文芸書は、年間20冊程度と非常に少ないと言われている。
そこで韓国文芸書の翻訳版を主に扱う出版社「クオン」の金承福代表にお話を伺った。留学をきっかけに来日して約20年、日本で過ごす金承福代表(以下、金氏)が出版社を立ち上げて7年が過ぎようとしている。
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■日本の大学は退屈だった!?
— まず、日本に来た経緯を教えてください。
金氏:ソウル五輪(1988年)をきっかけに海外渡航が自由化されました。韓国では海外旅行や留学がブームになります。当時は韓国の芸術大学で文学を専攻していましたが、ブームに乗って留学を目指しました。はじめはイギリス留学を志望したのですが父親に「遠い!」と反対されて。だけど日本は近いからOKということでした(笑)
— 語学留学ですよね。
金氏:はい。日本語学校を出て、都内の私立大学に入りました。でも辛かったです。歴史を専攻したのですが、私は勉強がしたいというより、新しい世界を見たいという欲求が強かったんです。だから大学で静かにノートを取りつづけて・・・というのは違和感がありました。
「私がいる場所はここじゃない!」って(笑)。それで1年で中退し、日本大学芸術学部に入学しました。卒業後は広告代理店に就職しました。
—代理店ではどのようなお仕事を?
金氏:韓国セクションに所属して、韓国企業・製品の日本での広告制作、営業などいろいろやりました。忙しかったですね〜。
—サッカーのW杯と冬のソナタの影響でしょうか?
金氏:はい。そのおかげで多くの自治体などで韓国語ホームページ制作が増えたんです。それを一手に引き受けていました。でもそれだけではなく、例えば「韓流ガイドブック」とか「ドラマで学ぶ韓国語」ような書籍を企画して、出版社に持ち込んで制作しました。
— 企画した書籍は売れましたか?
金氏:売れましたね。自分たちで企画して、出来上がったものが売れるのは楽しかったです。でも私は文学が好き。だから韓国の文芸書もプレゼンしたのですが、こちらはなかなか通らない。そのうちリーマンショックがあったり、予算がつきにくくなって、どんどん出版できる可能性が下がっていきました。そんな状況なので「じゃあ自分たちでやろうかな?」って思い、出版社を立ち上げることにしました。
—それが2007年ですね。
金氏:はい。でも出版業の経験はないので、会社を立ち上げて本を出すまでは3年かかりました。その間は広告代理業を継続していました。
—やはり「本を売る」ということは難しいですか?
金氏:そうですね。でも、小さくて無名な出版社ですが、新聞をはじめいろいろなメディアが取り上げてくれることも多くて、ラッキーでした。
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◾韓国人から見た日本の「韓流ブーム」とは?
—金さんは日本での「韓流ブーム」を体感されているわけですが、韓国人から見た「日本の韓流ブーム」はどのように映りましたか?
金氏:個人的な感想ですが、日本ではわりと中高年の方が熱心です。そういった方が、テレビの中の「人間」に対してドキドキするのは「すごくかっこいい」と思っています。
—韓国の中年女性のファンの方と、日本のファンの方では温度差ありますか?
金氏:そうですね。最近は韓国でも少し日本に近い雰囲気は出てきているかもしれないけど、日本のファンほど熱心な感じはないですね。
—では韓国内では、日本の過熱ぶりに違和感のようなものがあったんでしょうか?
金氏:そのような捉え方をするメディアも多少はありました。けど、日本のファンはそこから韓国語を学んで、字幕なしでドラマを見たり、実際に韓国を訪れたり、アクティブ。すごく素敵なことだと思います。それに「韓流ブーム」はいろんなところで起こって、いま韓国への留学生も増えていると聞いています。
—素晴らしいことですよね。しかも日本の女性をすごく元気にしてくれました(笑)
金氏:女性だけではないです。ある経済フォーラムの開催にあたって「冬のソナタ」の監督を呼ぶ、そのエージェントオファーを受けましたから。
— なぜ経済フォーラムに?
金氏:ファンの方は「韓流ドラマ」を見るだけでなく、録画もしたいんです。すると機械が苦手でもHDD/DVDレコーダーなどを買う。だから家電メーカーは喜ぶわけですね(笑)。
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◾韓国と日本。文学目線で見た違いとは?
— 韓流ブームは一時の過熱ぶりはないにしても、現在も固定ファンがいます。その魅力、日本のコンテンツとの違いは何でしょうか?
金氏:あまり違いはないと思っています。私も小さいころアニメの「キャンディキャンディ」を見てましたが、韓国のモノだと思っていました(笑)。いま、文学シーンを見ていても、あまり違いを感じることはありません。
—「冬ソナ」の次はK-POPがブームになりましたが、確かにJ-POPとの違いはあまりないかもしれませんね
金氏:はい。ですから私たちはK-POPの次は「K文学」だって言っているんですけどね(笑)。でも少しずつ浸透している実感はあります。先日も東京・代官山蔦屋でイベント・フェアをしたり、福岡でもイベントを開催したばかりです。たくさんの方が来てくれました。
写真@代官山蔦屋 ウン・ヒギョン×平野啓一郎
写真@福岡 ウン・ヒギョン×中島京子(イベント詳細、各作家プロフィール)
—反響はいかがでしたか?
金氏:またやってほしいという声をいただきました。いま改めて思うのは「韓流」だから・・・というよりは、単純に面白いと思うから。こんなに面白いのに日本にはなぜないの?じゃあ私がやろうかな、ということです。得意なことを楽しくやりたいってことが一番です。
— それで売れたら最高!ですか?
金氏:でも、たくさん売りたくない気持ちもあるんです。誤解を招く表現ですが、たくさん売るためには、やらなくてはならないことが増える。それで疲弊をして、楽しめないのは本来の目的ではありません。もちろん、沢山売れれば嬉しいですし、当然会社を運営する、新作を出せるくらいの売り上げは出さなくてはならない。でも、規模を大きくする必要性は感じないです。やりたいことをやりたい人数でつづけたい。規模を大きくするのではなく、面白い人を集めたい気持ちが強いです。
—「ベンチャー」ですね。
金氏:はい。それに2015年は「日韓国交正常化50周年」の節目の年でもあるので、いろんなことをやっていきたいです。
「K文学」がどれほど広まるかは未知数だ。だが、お隣の国には、きっと私たちが胸を弾ませながらページをめくることができる文芸書がまだまだ溢れているのは、間違いなさそうだ。
(文/しらべぇ編集部・武広しんじ)