【蔵元コラム】酒造りは「生き物の世話」と同じ 酒蔵は年末年始も気を抜けない??
みなさん、こんにちは。萩野酒造八代目蔵元の佐藤曜平です。いよいよ今年もあと僅かですね。いかがお過ごしですか?
我が宮城県の県庁所在地仙台市では、毎年この時期に…えーとなんだっけな、光の何とかという木に電気をいっぱい付けたやつをやっており、特にクリスマスには微笑ましい親子連れや下心丸出しのカップルどもが、まるで真夏のコンビニの誘蛾灯に引き寄せられる蛾のごとく群がります。あーヤダヤダ(嫉妬)
【SENDAI 光のページェント】
さらに、その木の電気がよく見える飲食店の中には、なんとクリスマスにはカップルしか入店できないようにしているお店もあるという噂が。もし本当なら正に独り者差別である!!
そんな浮かれた仙台を横目に、おかげさまで酒蔵は日本酒の消費のピークである12月の最繁忙期を迎え、出荷・仕込み・瓶詰め等の作業が重なるてんてこ舞い状態が続きます。こんな時期に3本ものコラムを物書きド素人の私に依頼してくるしらべぇ編集部さんは鬼だと思います(笑)
そして年末年始。蔵もお休みになりますので蔵人さんたちは基本的にお休みですが、もろみの発酵は続いています。
しぼってお酒になる前の状態を「もろみ」と呼び、それを「濾して」初めて「清酒」となります。日本酒は最初の酒母仕込みからしぼるまでおおよそ40日前後かかり、その間は人間の都合で発酵を止めることはできません。酪農家と同じですね。年末年始も発酵中のもろみが今年は7本。休みなく7頭の牛のお世話をするようなものです。
では、具体的に何をするのかと言うと…
画像をもっと見る
■ 成分分析
もろみの健康診断です。弊社の場合は毎日、種類によっては1日置きに以下の項目の成分分析と、人の感覚による状貌(見た目)、香り、味のチェックを行います。
・日本酒度
・アルコール分
・酸度
・アミノ酸度
・グルコース濃度
(この辺りの成分については、いつか改めてお話したいと思います)
【分析用に濾過中のもろみ】
【日本酒度、アルコール分の測定器】
関連記事:【蔵元コラム】今が旬のしぼりたて新酒 アイドルとの意外な共通点とは!?
関連記事:【蔵元コラム】予備知識ゼロのビギナーがお気に入りの日本酒に出会える確率は1%?
■ 温度管理
もろみが良好な発酵経過を辿るには、適正な温度に保つ必要があります。もろみの温度が低ければタンクにマットを巻いて保温したり、高ければタンクの周りに冷水を回して冷却したりします。
もろみの発酵温度はおよそ6℃~15℃程度。日本酒造りは「寒ければ寒いほど良い」と思われがちですが、酵母も人間と同じ生き物。周りが氷点下では冷え過ぎて健全に発酵しませんので、めざす酒質に合わせた適温を維持することが超大切です。
【もろみの適温は時期によって異なります。写真は最高品温付近】
そして、先程の分析結果を元に、もろみが濃くて酵母が苦しむようなら水を入れて薄めたり、発酵が弱いようなら保温、元気が良すぎるなら冷却というように、様々な処置を施します。本当に手がかかるんです…
【左がそのままの発酵タンク。右が保温するためにマットを巻いた状態】
関連記事:【蔵元コラム】日本酒の歴史は神話にまで遡る! その技術にパスツールもビックリ?
■ しぼり
産気付いてる牛に「今お正月だから、産むのあと3日待ってね」とは言えないように、例え親が死んでも「しぼる」タイミングにしぼります。そんな時は蔵人さんにお願いして出勤してもらったり、家族だけで何とかします。
そんなわけで、弊社のような家族経営に毛が生えたくらいの小規模蔵の場合、初詣も近所の小さな神社で済ませる程度で、よくある普通の年末年始は過ごせません。だから、せめてお年越しくらいは、こたつに入って好きなお酒を飲みながらのんびりしたいと思います。
では、皆様も良いお年を!
(文/萩野酒造・佐藤曜平)