【蔵元コラム】酒蔵に納豆を持って行くとつまみ出される確率はほぼ100%??
皆さんも塩麹などで目にしたこともあるかと思いますが、米麹(こめこうじ)は日本酒造りの要。そして納豆菌が大敵。納豆菌がお米に繁殖すると、スベリ麹と呼ばれるヌルヌルした納豆のような麹になってしまい、良いお酒が造れなくなります。
※特に納豆菌だけが悪いという訳ではなく、それを含めて他にも様々な雑菌がお酒に悪影響を与えます。
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~考えられる納豆菌の混入経路~
①稲ワラ製のムシロから
昔の納豆が稲ワラに包まれていたことからもわかるように、納豆菌は稲ワラに多く生息しています。昔の酒蔵では稲ワラ製のムシロの上で蒸した米を冷ましていましたので、そこからの混入が多かったのではと思われがちですが、使用にあたっては大釜での煮沸と天日干しを繰り返し行なう「間欠滅菌」という方法を取っていたので、基本的にはとても清潔でした。
しかし、繁忙期に雪空が重なると乾燥が不十分となり、結果何かしらの雑菌に汚染されてしまうこともあったかもしれません。
【蒸したお米を冷ましているところ】
②納豆そのものから
昔の納豆は強力な野生の納豆菌を使っていたため、食べた後、簡単な手洗い程度では完全に落ちずに米に移ることがあったとも考えられます。近代の納豆菌は、清潔な製造環境での使用を前提として純粋培養されたもので、野生の菌よりは弱く、昔に比べると汚染の心配も少ないようです。
今も昔も変わらず、しっかりした衛生観念を持った杜氏さん(酒造りの最高責任者。大工で言うところの棟梁)が仕切る蔵では、道具類の洗浄等が徹底されていたため、古い道具を使っても汚染は非常に少なかったということです。
腕の良い杜氏さんというのは、酒造りの経験や勘、人徳はもちろん、衛生観念をしっかり持った人だったのだと言えるでしょう。また、現代のお酒造りにはより小さく精米したお米が使われるようになりました。こういったお米は雑菌にとっての栄養分も削がれているため、更に雑菌は繁殖しにくくなっています。
そして、優良清酒酵母や厳選された種麹菌、殺菌消毒剤の進歩、衛生的な設備・道具の使用により、微生物汚染も格段に少なくなっていますが、ゼロにはなりません。
ですから、現代でもお酒造りに一番大事なのは衛生管理。
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一に掃除で二も掃除、三四が殺菌、五に洗濯
これが出来ていない蔵は何を言っても説得力ゼロです!!
そういう訳で、現代は酒造り中に納豆を食べても、清潔にして歯磨きと手洗いをキチンとすればまず問題は起こらないはずですが、やっぱり昔からダメと言われてきたことをするのも気が引けますし、願掛けの意味合いも込めて酒造りの期間中は完全に納豆を絶ちます。
松尾様(酒造りの神様)も怖いですし…。蔵にいらっしゃるお客様にも、必ず納豆は控えるようにお願いしています。
そして長い酒造りを終えた春、半年ぶりに食べる納豆ご飯が、私にとって世界で一番美味い食べ物なのです!!今から春が待ち遠しい…(笑)
ちなみに、近代の納豆製造の礎を築いた納豆屋さんのひとつが宮城県の仙台市内にあり、こちらの宮城野菌とよばれる納豆菌は国内三大納豆菌種と呼ばれ、今も多くの納豆屋さんで使われています。
(推測の域を出ない部分もありますことをご了承ください。)
(文/萩野酒造・佐藤曜平)