【蔵元コラム】おいしいお酒と出会うための「日本酒ラベル」の見分け方
みなさま、こんにちは。萩野酒造八代目蔵元の佐藤曜平です。さて今回は、日本酒のラベルの見方についてお話したいと思います。
ラベルはお酒の顔であり、飲まずにある程度の中身の見当を付けることのできる部分です。ではまず、お店でふと目に入ったお酒を手に取ってみましょう。
見た目は地味ですが、まぁ悪くないと思います(笑)
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【表ラベル】
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【裏ラベルの例】
①銘柄名
②特定名称(純米、吟醸、本醸造等)
以下おさらい。
※蔵元さんの意向で、敢えて特定名称を表示していないお酒もあります。
③注意事項
④原材料名:種類によって醸造アルコールや副原料が記載されます。
⑤原料米:日本酒造りに適した「酒造好適米」や一般的な食米まで、目指す酒質やコストの兼ね合いからたくさんの種類のお米が使われます。
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【代表的な酒造好適米】
■山田錦~豊潤な酒質を生む酒米の王者~ 主な産地/兵庫、徳島、福岡など
大正年間に兵庫県農事試験場で開発。酒造好適米としての適性を完璧に満たし、その王者としての評価が高い。もろみで溶けやすく奥行きのある豊潤な味わいを生む。晩稲(遅く熟成する品種)
■五百万石~スッキリ淡麗系の味わいに強み~ 主な産地/新潟、福井、富山など
新潟県で誕生し、昭和31年に新潟米の生産量が五百万石を突破したことを記念して名付けられた。大粒で心白が大きいが、吸水速度がやや遅い。早稲(早く成熟する品種)で米質としてはやや硬め。淡麗系の爽やかな酒質を生む傾向が強い。
■美山錦~寒冷地に強く締まった味わい~ 主な産地/長野、宮城、秋田、山形など
昭和53年に長野県農事試験場で、たかね錦に突然変異を起こさせて開発された。寒冷な気候に比較的強く、東北地方でも広く栽培されている。淡麗でスマート、スッキリした酒質を生む。
■雄町~野性味を秘めたふくよかな味わい~ 主な産地/岡山、広島など
起源は江戸末期の1866年(慶応2年)まで遡り、岡山県高島村雄町での栽培が始まり。幅のある味わいを生み、どこか野性味も感じさせる名米だが、栽培が難しく、一時は「幻の米」に。岡山県赤磐産の備前雄町の評価が高い。
⑥精米歩合:玄米を100%として、お米をどれだけ削ったかを示す数字。お米の外側にはご飯として食べれば美味しいタンパク質や脂質等が多く含まれていますが、お酒にすると雑味になりやすい成分のため、よりたくさん精米した方がキレイな酒質となります。
高精白になればなるほどより多くのお米を使うことになり、当然高価になります。逆に米の旨みを全面に出そうと、敢えて低精白米で造られた個性的なお酒もあります。
⑦使用酵母:アルコール発酵の要であり、お酒のキャラクターを決める重要微生物。日本醸造協会が頒布している「きょうかい酵母」や各地のオリジナル酵母は安全醸造に欠かせないもので、多数ある中から目指す酒質に合わせて選択します。また、こういった酵母をあえて使用せず、酒蔵に住み着いている「蔵付き酵母」を利用する酒蔵もあります。
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~代表的なきょうかい酵母~
⑧アルコール分:読んで字の如し。15%~18%が一般的。ワインより少し高め。
⑨日本酒度:日本酒の甘辛を示すひとつの目安。一般的には「+」が大きいほど辛口、「-」ほど甘口とされていますが、日本酒の甘辛は酸度やアミノ酸度等の他の要素が占める割合も多いことから、これだけでは中々判断出来ないのが実情です。
⑩酸度:日本酒に含まれる、コハク酸・乳酸・リンゴ酸などの含有度。酸度が高いほど味が濃く、辛口に感じられる傾向。1.2~2.0程度が一般的。
⑪アミノ酸度:数値が大きいほど、旨味が濃くなる傾向に。0.8~1.8程度が一般的。
⑫酒造年度:7月1日から翌年6月30日までで区切られる、日本酒が製造された年度。BY(Brewery Year)とも略される。平成27年2月は平成26酒造年度。
⑬注意事項
⑭会社名・所在地:まずは自分の出身地のお酒を試してみるのも楽しいです。
⑮製造年月:原則として、お酒が瓶詰めされた日付。お酒が「できあがった日付」ではありません。最近は出来上がったお酒をすぐに瓶詰めし、冷蔵等の特殊な貯蔵を経て出荷時にその貯蔵を終了した日付というややこしい場合も多く、ウチもこれに当てはまります。
新しい方がいいに越したことはありませんが、寝かせた方が美味しい場合もありますし、基本的にお酒は腐らないのであまり気にしすぎる必要はありません。
⑯内容量:720mlかと思ったら500mlだった!なんてこともあるので地味に注意が必要です。
以上はお勉強のために細かく表示した場合の例で、これら全てを表示しなければならない訳ではありません。最低限の例としては、冒頭の「しらべぇ正宗」のように表示すれば法律上は問題ありません。
※表示を監督するお役所の担当者によって、多少変わる場合があります。
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詳細を示さない例もある
原料米の品種や日本酒度などの成分が書かれてなくてもOKです。「詳細を開示しないとはけしからん!」と思われる消費者の方もいらっしゃいますが、詳細を記載するか否かは蔵元さんの判断によります。詳細からの先入観で味わって欲しくないと考える蔵元さんも少なくないんですね。
長々と書きましたが、大事なのは自分の舌を信じること。ビジュアルやスペックも大事ですが、それだけでは判断せず、まずは味わってみることです。
あと、スペックばかりが気になって頭でっかちになり「「山田錦だからうまいんだ」とか「9号酵母があーだこーだ」とか言い出すような、所謂スペック厨のオッサンは嫌われる傾向にあります(笑)
よく分からなかったら店員さんに聞くのが一番です。以前のコラムを参考に、お気に入りの地酒屋さんや飲食店さんで聞いてみてくださいね。
(文/萩野酒造・佐藤曜平)
参考文献:君嶋哲至監修 日本酒完全ガイド 池田書店(2013)