硬派老舗ヘビィメタルバンドのベーシスト脱退劇に見る「退職ポエム」の新パターン

2015/02/13 18:00

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※画像はスクリーンショットです。

もうすぐ、春だ。別れと出会いの季節である。桜が咲き、散る様子を見つつ、人は自分と周りの変化を噛みしめる。

「意識高い系」ウォッチャーとしては、この数ヶ月は大変に楽しい時期である。というのも、新年→成人式→卒業式→入社式、そして期の変わり目の異動、昇進昇格、転職と、「意識高い系」が訓示的なツイートや、決意表明エントリーをする、大変に香ばしい季節なのである。

そんな意識高いこと言っている暇あったら、仕事しろ、暇なんだなこいつと思う今日このごろである。「意識高い系、うぜえな」と思い、私は笑い飛ばす。おかげさまで、笑顔が絶えない日々をおくることができるのだ。

この決意表明ツイート、エントリーの中でもここ数年ですっかり定着したものがある。それは「退職、引退決意表明ポエム」というものである。

要するに何かを辞める時にその宣言をするものである。尊敬する小田嶋隆さんが『ポエムに万歳!』(新潮社)で取り上げているが・・・、中田英寿の引退エントリーなどが有名だ。ここにまとまっているのでご覧頂きたいのだが…。

俺が「サッカー」という旅に出てからおよそ20年の月日が経った。

8歳の冬、寒空のもと山梨のとある小学校の校庭の片隅からその旅は始まった。

という一文から始まるこの引退宣言…。これ、中田が書いたからまだいいのだが、普通のサラリーマンなどがこういうこと言ったら、もう笑うしかない。中田にとっても、美談というよりは、汚点のような。

とはいえ、これは著名なプロサッカー選手だからまだいい。ここ数年のブームといえば、普通のサラリーマンの退職エントリーが話題になる。博報堂社員だった高木新平氏の博報堂を辞めましたという2011年9月13日のエントリーなどがそうだが、退職するときに意識の高いポエムを書くというのがボチボチ流行った。

今年も、この春にはこのような退職ポエムがいっぱい読めるのではないかとウキウキしていたが、ここで意外なところからニューウェーブがやってきた!故郷札幌を拠点に活動する、SABER TIGERという実力派ヘビィメタルバンドがある。

このバンドからベースが脱退したのだが、その引退声明が、退職ポエムの超新星とも言える内容だったのだ。

ちょっとだけバンドの紹介をしよう。SABER TIGERは1981年から活動を続けている老舗バンド、重鎮である。私も大ファンでよくライブに通っている。実力派集団で、演奏もテクニカルだ。

LIGHT THUNDER LIGHT

この曲や…

Angel Of Wrath

この曲や…

Misery (Orchestra Version)

この曲のPVを見て欲しい。

要するに、めちゃくちゃ硬派で、テクニカルなバンドなのだ。ミュージシャンからもリスペクトされている。元メンバーには奥田民生のサポートなどで知られるドラマー・湊雅史や、LOUDNESSの現ドラマー鈴木アンパン政行氏などがいる。人材を輩出しているわけだ。

1月31日に、このバンドからベースの木本高伸が脱退することが発表された。うーん、ファンとして残念である。「きもりん」の愛称で知られる彼だが、髪を振り乱しつつ弾く様子、かっこよかったのだ。もちろん、音も。

しかし、である…。この硬派なヘビィメタルバンドからの彼の脱退声明が、めちゃくちゃゆるかったのだ。「お前、メタルだろ」「真面目にやれ」と言いたくなるレベルである。

広島在住でありながら、札幌のバンドに参加していた、彼の引退声明がこちらである(ホームページより抜粋)。

木本です。

いつもSABER TIGERを応援頂きありがとうございます。

突然ですがこの度、僕はSABER TIGERを脱走もとい脱退することになりました。

広島での仕事がとても忙しくなりバンドのスケジュールに合わせて動くことがひどく困難になったのが理由です。

レコーディング、ライヴを間近に控えてタイミングとしてはど最悪で「あの男何考えとん?」との声が巷で囁かれていることも重々承知しておりますが、それらの準備で楽器を持つ時間すらもままならないのが現状です。

なにしろサーベルの楽曲はたとえ一曲であってもソラ弾きできるまで覚えるのにゴッドファーザーPART1→2→3を通して観れるくらいの時間がかかってしまいますのんよ!(わあビックリ)

今年からまたより高みを目指し進んでいくバンドに対して僕は気力、体力、知力において万全の状態で参加していくことは不可能と判断し、ここで脱退させてもらうことに決めたなっしー。

最後にあと一本ライヴやってステージ上からお別れのご挨拶でも出来れば良かったのでありますが、突然死したと思うて許してつかあさい。

加入してからの4年間多くの皆様にご声援をいただき過剰に愛され「天才いけめんマルチリンガルベーシスト」の名を欲しいままにできました僕は、ここで抜けてももう勝ち逃げと同じではないでしょうかね。

その様な本来僕には起こり得ない果報を授けてくれたメンバーにとても感謝していますし、今後のSABER TIGERの活躍を心より祈っております。

皆様もどうか引き続きSABER TIGERの応援をよろしくお願いいたします。

本当にありがとうございました。

木本高伸

(以上、HPから抜粋)

なんだろう、この脱力感・・・。「仕事が忙しい」「楽器を持つ時間もままならない」「曲が難しい」って、おい!しかし、このゆるさ、および具体性ゆえに、脱退の悲しさなどどうでもよくなったから不思議だ。普通、バンドの引退表明って、「一身上の都合」とか「音楽性の不一致」とかで「別の道を進むことになった」とかだからな。もっとかっこいいこと言うしな。

とはいえ、メタル界の出来事でありつつ、これは退職ポエムの新潮流であると言えるだろう。みんな意識高い系の表明をする中、このようなゆるい声明というのも逆張りで、ありかもしれない。

さて、今年はどんな退職ポエムが飛び出すか?ゆるい系退職ポエムは流行るのか。激しく傍観することにしよう。

(文/常見陽平

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