入場料、〇〇率…異例づくしの“無名”舞台 全国でロングランの理由とは?

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東京・新宿にある「紀伊國屋ホール」。ここは、演劇界の聖地として名高く、「新劇の甲子園」と例えられるそうだ。

この劇場は、1964年から50年以上の歴史を持ち、つかこうへい、野田秀樹、三谷幸喜など多くの著名人を輩出。役者なら誰もが憧れ、この劇場に立った者にとっては「誇り」となる舞台なのだ。

当然、そんな劇場の公演であれば、一定以上の質を備える。そのうえ座席数が400以上。人気がなければ、公演は成立しない。「甲子園」と例えられるだけあり、誰もが簡単に立てる舞台ではないのだ。

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そんな紀伊國屋ホールの公演スケジュールのなかに、前売り2000円の公演を見つけ、目が止まった。下北沢あたりの小劇場でも、一般前売りは3000円以上が相場の昨今。さぞ経費削減に熱心だろうと推測したが、チラシを手にするとそんな雰囲気はない。そこで、本公演の意図を探るべく、「イシノマキ製作委員会」の石倉美佐緒氏に話を伺った。

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この「イシノマキにいた時間」という公演の“異例さ”を2点挙げよう。

まずは、2011年末の初演から2014年末までに16都市で28回におよぶロングラン公演を継続中であること。お世辞にも“引きがある”キャストとは言えないが、それでも3年間で1万2000人以上を動員している。

次に驚いたのは、初演の東京公演をはじめ、一部公演を入場無料にしてきたこと。これは、脚本・演出・主演を務める福島カツシゲ氏の強い希望で、どうしても難しい場合には、1000円や2000円など最低限の価格で前売りを販売しているそうだ。

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脚本も担当する福島氏は、2011年3月に某テレビ局のシナリオ大賞を受賞し、賞金500万を獲得する。その直後、東日本大震災が発生すると、彼は賞金を携えて宮城県・石巻市に向かったのだ。そこでのボランティア活動を通して脚本の構想が膨み、2012年6月には念願の石巻にて公演を実現。このときも入場無料にしている。

石巻公演では約300名を動員。観客からは「言いたいことを全部言ってくれた」「思いっきり笑えたし、泣けた」など、賞賛の声が多く上がったという。アンケート回収率70%という異例の数字がその裏づけと言えよう。

ただし、「無料だから」や「安いから」という理由だけで日本各地で公演を重ねることは到底できない。それでも続く理由を尋ねると、縁もゆかりもない土地であっても、「現地で制作委員会が立ち上がり、現地の委員会がスポンサー獲得をしてくれるなど、予想していなかった支援者のおかげ」とのこと。紀伊國屋ホールでの公演チラシに歌手のナオト・インティライミが推薦文を寄稿しているのも、その一例だろう。

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ところで「新劇の甲子園」こと紀伊國屋ホールでは、どのように演目を決定しているのだろう? 問い合わせてみると、基本は毎年9月頃、翌々年の公演希望を公演歴のある劇団などに一斉公募するそうだ。そのため、2015年3月現在では、既に2016年末まで決まっているとのこと。

一見さんの売り込みを受けることもあるが、その場合、劇場スタッフがふさわしいと判断した劇団に限り公演を視察。その結果、公募がかかる可能性もある。ただし、「最初の売り込みから公演まで2~3年程度の時間を要するだろう」とのこと。やはり、「甲子園」への道のりは決して短くないようだ。

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※取材協力/復興支演舞台「イシノマキにいた時間」

(文/しらべぇ編集部・武広しんじ

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