太宰治『斜陽』・現代にも通じる「斜陽族」、あなたは大丈夫?【芥川奈於の「いまさら文学」】
■あらすじ
戦後の混乱を避け伊豆で暮らす、貴族の娘かず子と華麗な母。しかし貴族とは名ばかりに、父親の没後は叔父から支援を受けての生活を送っていた。
麻薬中毒の弟・直治は、戦地へ行ったまま行方不明。かず子は母と共に輝かしい貴族だった時代を思い出しながらも、惨めで落ちぶれていく自分を嘆く。
帰国した直治は、今度はアル中になり、東京に住む小説家・上原を頼って家を出てしまう。以前から上原を慕い、離婚までしていたかず子は、彼に純粋な愛情を注いでいく。
母の死後、上原に駆けるかず子、そして同じく直治の身には、己の革命をかけた重大な事件が起こってしまう___。
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■悩んでも始まらないなら革命を起こせ!
『斜陽』は、太宰作品の中でも彼独特の「破滅型思考」を深く抉って書きあげた代表作。
かず子は恋に、母親は美徳に、直治は薬と酒に、そして上原は自分自身を描く戯曲の中に没頭して行くが、その全てが破滅に向かって進んで行く。
しかしどうだろう。結果はどうあれ、各々は確実に自分の中で革命を起こしている。現代では考えられない、ハイリターンを求めないハイリスクを背負ってでも己を貫こうとする姿は実に美しい。
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■いつの時代も女は強い
上原に恋愛感情を抱いているかず子は、「金が欲しいのでも、小説家の妻になりたいのでもなく、ただあなたの子供が欲しい」と投げかけるが、この台詞には相当な男気と勇気が詰まっている。
盾にしている身分でさえも取り払って無頼の男を愛する女に「惚れてまうやろ!」と筆者は思うのだが、皆さんはどうだろう。
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■「貴族」といってもピンとこない…けど
父の没後、かず子たち家族は叔父から支援をされて生活をし、また戦後の大混乱の中、編み物や読書をしたり、たまに畑仕事をして生きていくのだが、現代ではそんな「貴族」の生活はピンと来ないかもしれない。でも、たまに見かけないだろうか。
バブル世代の人々が未だに鼻を高くして高級車を乗り回していたり、夜な夜な六本木辺りで飲み歩く(まだ)一流企業戦士のみなさんや、時々産声を上げるいわゆる時代の寵児たちを。アレに品格を足したものと、一緒である。
そう思うと皆さんの、戦後の「貴族」を見る目線も変わるのではないだろうか。
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■そんな『斜陽』を読みたくなったら
この作品が発表された当時に流行った「斜陽族」=没落貴族という言葉があるが、今はこれに通ずる人口が非常に多いと感じる。
以前友人と筆者で、「エニート」という造語を生んだことがある。一流大学を卒業したエリートながらも、ニートになった人々のことだ。いや、何も良い大学を出なくてもいい。
それなりのステータスを持っていながら、ネトゲ廃人の如く自堕落に日々を過ごしている諸君は現代の斜陽族としても過言ではない。
さあ皆の衆、滅びる前に革命を起こそう!Let’s Revolution~!
(文/芥川 奈於)