離島への冒険旅行の数々⑤〜なんなんだ黒島〜【溜池ゴロー、子育てこそ男の生き甲斐】
黒島は、石垣港から南西の方向に高速船で30分ほどのところにある島で、人口は200人ほどだ。
が、しかし……牛は2000頭ほど島中をうろうろ歩き回り、あちらこちらでは野生のクジャクが「キエーーー!」と鳴きまくっている……。
いったいなんなんだ、この黒島という島は……。雨の仲、宿泊先に向かうワゴン車に揺られながらワシは心の仲でそうつぶやいていた。
地元の人が言うには、このウヨウヨいる牛たちは、肉用の黒毛和種だそうだ。黒島の主な産業は、牛たちを育て輸出する畜産業と観光業で成り立っているらしい。だからこんなにも牛が多いのだ。
そして、クジャクはというと……1980年代に近隣の島にリゾート用として持ち込まれたらしいが、それが海を渡って、黒島で異常繁殖してしまったという。なぜか黒島だけがクジャクをほったらかしにしていたみたいだ。
クジャクたちは黒島では我がもの顔で叫び、羽を大きく広げている……ある意味、動物園でしか見ることのできないものが目の前にいるのだから、贅沢と言えば贅沢なのかもしれん。
■台風で崩壊したコテージがほったらかし。もしかしたらクジャクも…?
やがて、ワシら家族を乗せたワゴン車は、コテージの並ぶ宿泊先に到着。未だ高熱を出している息子の手をとり、ワシら家族は宿泊するコテージに案内された。
その途中、ワシは不思議なものを目にする。
「コテージの跡」と言えば良いのだろうか。丸太がグシャグシャに積まれ、その丸太で作られた壁らしきものが中途半端な高さで残っている状態のものがあったのだ……。
疑問に思ったワシは案内人のお兄さんに聞いた。
ワシ「これは?」
お兄さん「これはですね、去年の大型台風で吹き飛ばされてしまったコテージです」
ワシ「去年の大型台風って……9月に上陸したやつですか?」
お兄さん「あ、そうそう。よくご存知ですね」
ワシ「そのときワシら、石垣島のホテルに閉じ込められてたんです」
その前年、2歳の息子を石垣島に初めて連れて行ったときのことを以前書いた。よりにもよって帰京予定日に30年ぶりくらいの大型台風に遭遇し、そこから数日帰れなかったという話だ……。
そうなのだ。そのときの大型台風によりこのコテージは吹き飛ばされ、グシャグシャな状態になってしまったのだ……。
やはり本物の台風の威力は凄い……と感心していたワシだったが、なぜか頭の中でどうしても引っかかる感触があった。
その引っかかりの原因はふたつだ。
ひとつは……「ひょっとして、それくらいの台風が来たら、ワシらの宿泊するコテージも吹き飛ばされる可能性があるのではないか?」ということだ。
それに関しては台風シーズンではなかったので心配はないと思うが、もうひとつは「なんで、去年潰れたコテージがそのままの状態で残っているのだ!?」ということである。
んん〜〜〜、このほったらかしな状態にもかかわらず、お兄さんはなんとも明るい表情で客を迎えている……。
そんな様子を見ているうちに、「そうかあ、黒島ではこのコテージと同じく、クジャクも放っておかれて異常繁殖してしまったわけだ」と妙に納得してしまった。
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■辿りついたコテージで遭遇したある生物。だが妻は動じない
息子は相変わらずの高熱。雨は降り続けている。ワシら夫婦は、その日一日を息子の看病をしながらコテージの中だけで過ごそうと決めた。
そして、ワシらの泊まるコテージの扉を開け、中に入ろうとした瞬間、天井から何かが複数落ちてきた。
それだけではない。壁では何かの群れがザザザザーっと言う感じで這いながら一斉に逃げていった……ヤモリである。
なんせ牛の大群がいたり、クジャクが奇声をあげていたりする黒島だ。沖縄地方では出てきてあたりまえのヤモリがいることくらいは想像できていた。
しかし、これから一日中生活することになるコテージの部屋の中で、計20匹ほどのヤモリが一斉に動くのは、あまり気持ちのよいものではない。
だが、それでもワシら夫婦は気を取り直し、ベッドに息子を寝かせ、看病の支度を始める。
妻は、タオルや着替え、そして医者にもらった薬を準備した。幸いにも宿のお兄さんが個人的にアイシング用の袋を持っていたので、それに氷を入れてもらい、氷枕の代わりにする。
熱で赤い顔をした息子はベッドに横になり、天井を這うヤモリたちをボンヤリと見つめていた。
ちなみにヤモリを沖縄地方の人たちは「ヤール」と呼ぶ。そして、ヤモリの鳴き声は「ケケケケケケー」といった感じだ。天井のヤモリが「ケケケケケー」と鳴くと妻は息子にこう言った……。
妻「ヤールが鳴いてるね。きっと頑張れって励ましてくれてるんだよ。ヤールは守り神だからね」
息子「そうだね。ヤールは味方だね」
おお、なんという妻のナイスな言葉。
正直、ヤールが守り神かどうかは知らんが……牛やクジャクや大量のヤモリを見て「なんという状況だ」などと心の中で嘆くワシとはまったく違う。
妻は「牛の群れ」に遭遇しようと、「野生のクジャク」を発見しようと、「大量のヤモリ」が部屋にいても、熱を出す息子に笑顔で語りかけ、この状況を息子と一緒に楽しんでいるかのようだ。
んんん〜〜なんという肝の据わり方というか、度胸というか……やはり女は、いやワシの妻は強かった……という実感がこみ上げてきた。
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■黒島の人はシーサー顔 or 美男美女の2種類!?
しかし、そんな気持ちに浸る暇もなく、あとはワシが水と食料の確保に動く番だ。ワシは、宿のお兄さんに車を再び出してもらい、島にある数少ない売店と食堂に案内してもらった。
食堂につくと、沖縄の守り神シーサーにそっくりなオジさんが出てきたので、料理をいくつか持ち帰れるようにしてもらう交渉をした。
快く引き受けてくれるのは良いが、なんせノンビリしている。ワシは早く息子の看病に帰りたいと思っていたので少々焦り気味だったが、中の厨房を覗くと、面白いことを発見した。
多分、その店は親戚で運営しているのだろうが、男性は皆シーサー顔である一方、女性のほとんどは凄い美人だった。
そして、料理ができるまでの間に、別の売店に行って水などを購入したのだが、その店はシーサー顔のお婆さんと、その娘だろう20代半ばくらいの美人がいた。
途中、その旦那と思われる男性が配達から帰ってきたのだが、これまたかなりの美男子だった。
黒島にはシーサー顔の人と美男美女の2種類しかいないのかと思ったのだがどうだろう……あまりこのへん書くと黒島の人に怒られるかもしれん(笑)
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■コテージで待ち受けていたさらなる試練…。
食料も水も確保したワシは、「よし! 息子よ待っていろ!」とお兄さんの運転する車でコテージまで一気に帰る……つもりだったが、やはり途中、牛たちに車が取り囲まれてしまった(笑)
やっとのことでコテージに戻り、持ち帰った食事を広げる。まだ息子は食欲がない状態だが、栄養をつけるため、なんとか少し食べ、薬を飲んだら、再び眠りについた。雨の音と、息子の寝息を聞きながら、徐々に日も暮れていった。
妻が落ち着いて対処してくれているので、ワシの気持ちの中も、安心感が広がると同時に、妻への感謝を感じていた。
息子の火照った寝顔を見ながら、ワシら夫婦は「この子はどんな大人になっていくんだろうね」などと話していた……と、そのときである。
何かが天井から落ちてきたような気がしたので「またヤールかな?」と妻が目でコテージの床を追うと……
「ぎょえええええ!!!!」
さっきまで何を見ても冷静だった妻が、いきなり大声をあげるではないか!
ワシは、何事かと思い見ると……そこには……なんと、ゴキブリが這っていた! しかも、メチャクチャ大きいゴキブリだ!
今だかつて見たこともないくらいの大きさである。きっと、薄暗くなり、ワシらが広げていた食べ物を狙いに出てきたのだろう。
おまけに、よく見ると、そのゴキブリの背中には変な模様があるではないか……くそー、黒島のゴキブリめー! ちょっと気持ち悪いぞ!と思い、ワシはゴキブリを退治しようと傍らにあった新聞紙を手にした……すると……
「ぎょえええええ!!!」
妻が再び叫んだ。今度は……な、なんと! 天井を見ると、何匹もの特大模様つきゴキブリたちが天井を這っているではないか!
特大模様つきゴキブリが群をなしてやって来た。そのときワシは、映画『エイリアン』を思い出していた。
「そうか……ワシと黒島の戦いは、ここからが本当の戦いだったのか!」
と、ワシは心の中でつぶやきながら、シュワルツネッガーになったつもりで、手に持った新聞紙を丸めて、ゴキブリたちとの戦闘態勢に入ったのだった……。
続きは次回!
(文/溜池ゴロー)