「あの人は今」の進化系としての「有吉反省会」と「しくじり先生」
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1995年から2007年頃まで、日本テレビ系列で「あの人は今!?」というスペシャル番組が定期的に放送されていた。
「昔好きだったアイドル、活躍していたスポーツ選手、最近消えてしまったけどいったい何をしているのだろう」という消えた側にとっては下世話以外の何物でもない興味を満たすこの手の番組は、かつては多くのテレビ局で作られていた。
どの番組も流れはほぼ同じで、過去の栄光VTRをひとしきり紹介した後、現在の(多くは落ちぶれた)姿を映し、そのギャップを楽しんだ後、スタジオにその人を迎え、最も輝いていたときの歌を歌わせたりする。
スタジオでコメントする芸能人は「大ファンでした」と美辞麗句で持ち上げ、今との落差を際立たせることで番組全体としては「さげすみ」の目線という構造であった。今でもこの手の「過去を持ち上げ、今を落とす」作り方をしている番組は残ってはいる。
しかし現代は、ネットで有名人の消息がある程度つかめるうえ、一発屋もテレビからなかなか消えない時代。
また、もしテレビからは消えても、次の活躍の場として舞台やディナーショーといったステージが広く用意され、引き続き芸能人として食えていける時代でもある。
栄光と転落のギャップを下世話に楽しむ「あの人は今」的手法では、あまり面白くならないのである。
■近ごろの主流は、「あの人は今」と逆のスタンス?
そういった意味で、現在「あの人は今」の進化系として機能しているのが「有吉反省会」と「しくじり先生~俺みたいになるな!!」である。
もちろん両番組とも過去の人だけを取り上げるわけではないが、一定の割合で以前なら「あの人は今」に出ていてもおかしくない人が出演している。
そして、両者はアプローチが異なるものの、「あの人は今」とは真逆のスタンスをとっていることでは共通している。
「有吉反省会」は過去ではなく今を徹底的に追求する点で「あの人は今」と逆である。スタジオに来た芸能人に「過去」の一番良かったときの歌を歌わせたりせず、どんなにくだらないことでも「今」を掘り下げる。過去も一応一流芸能人として持ち上げ、それ以上に今も持ち上げる、それがスタンスである。
語られる「今」は「ゴーヤに夢中」だったり「Twitterで常に裸」だったりと過去の栄光からすれば、どうでもいいことばかり。しかし、どうでもいいことであればあるほど、MCの有吉弘行はいきいきと真剣につっこみ、笑いに変えていく。
有吉自身もかつては猿岩石で一世を風靡した後、テレビからは消え去り、一度は「あの人は今」対象となった芸能人である。
さげすんだ目線を身をもって体験している彼だけに、同じ境遇としてまな板に乗って来た芸能人に対して「過去」をぬるく持ち上げたりせず、「今」に熱々のお湯をぶっかけるのだ。
そういう有吉のスタンスがあるからこそ、かつての栄光を背負った芸能人は、安心してこの番組に出演し身を任せるのである。
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■過去の自分を成仏させる「しくじり先生」
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一方の「しくじり先生」は、「過去」の栄光ではなく、しくじりにスポットライトを当て、その結果として「今」があるという構造。
言うなれば、過去を落とし、今を持ち上げる、というスタンスである。
そのスタンス自体は、これまでも無かったわけではない。ただ、従来の転落ストーリーは、再現VTRが流され、司会が「つらかったでしょう」的なコメントをして、本人が涙で返すのが王道のパターン。言わば悲劇を演じることにより同情を買うのが目的である。
しかし「しくじり先生」は、有名人自身が授業形式で「自虐的にネタ化する」ことで、過去の自分を成仏させていくのが、従来と異なる。
紀里谷和明が当時の映画評論家にやり返すなど、従来の手法の番組であれば再バッシングが起こってもおかしくない場面もあるが、この番組が大前提として「しくじりを反省する」という自虐フォーマットであることで、むしろ恨みすら笑いに変えられるようになっている。
これにより、芸能人達が安心して本音を語ることが出来るというプラスの効果が出ている。
とはいえ、この番組の難しいのは、最終的な着地点が「自分がしくじったこと」になるところ。自身が芸能界から消えて行った過程を、テレビ番組とはいえ「全て自分のせい」と言えるほど割り切れる境地まで達している人はそうは多くない。
「有吉反省会」に比べると、いわゆる過去の人の割合が少ないのはそのせいと思われる。
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■反省バラエティの時代
今、日本は、常に自虐スタンスから入らないとバッシングされてしまう「一億総自虐時代」。「有吉反省会」も「しくじり先生」も、時代を逆手にとった反省バラエティである。
結果としてそのスタンスが「あの人は今」芸能人の受け皿として、うまく機能していると言えるのではないだろうか。
個人的にはアメリカに「しくじり先生」のフォーマットを売っていただき、かつてのハリウッドスターの授業を見てみたい。マコーレー・カルキン君の授業なんか、素晴らしいんじゃないかと思うけど。
(文/前川ヤスタカ)