犬の殺処分はありorなし?バリ島で深刻化する狂犬病問題
@iStock/Tatiana Morozova
日本では、過去の病となりつつある狂犬病。発症したらほぼ100%死に至る恐ろしい病です。
しかし世界では、現在でも狂犬病で命を落とす人は少なくありません。WHOの調査によれば、年間55,000人もの人が狂犬病で死亡しているとされています。
筆者が暮らすバリ島では、2008年に狂犬病による死亡者が初めて確認されました。観光客の出入りや外来品種の輸入などによって、狂犬病が島内に持ち込まれたのではないかと言われています。そして2015年現在、バリ島では狂犬病の拡大に歯止めがかからず、犬の殺処分が行われ社会問題になっています。
■バリ島の狂犬病事情
バリ人にとって、犬は家族同様の存在です。最低でも1匹、3~5匹もの犬を飼っている家庭もめずらしくありません。基本的には放し飼いなので、犬たちは自由に出歩き、犬にとってはまさにパラダイスともいえる環境です。
一方で、犬に噛まれる事故は後を絶ちません。州政府は狂犬病発症以降、予防接種の徹底を呼びかけていますが、住民にはあまり浸透していない印象です。
動物病院などに自ら飼い犬を予防接種に連れて行った人は、筆者の周囲では10人中2人でした。そのため政府の狂犬病対策チームが各家庭を周り犬の予防接種を行っていますが、訪問時に犬が在宅していなければ免除というゆるさ。
州政府は野良犬の掃討作戦も平行して行っていましたが、放し飼いで首輪をつけていない犬も多く飼い犬との区別がつきにくいことや行為の残虐性から、住民や動物愛護団体からの批判が強く、こちらの対策も頭打ちの状態になっていました。
その間にも狂犬病は広がり、2008年~2015年の7年のあいだに狂犬病で亡くなった人は島内で150人を超えました。そして2015年、事態は深刻さを増すことになります。
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■ワクチンがない!
世界では動物に噛まれて狂犬病ワクチン接種をする人は、年間1千万人にものぼります。そして今年はワクチンが世界的に不足しているんだとか。
2015年の春以降、バリ島でも狂犬病ワクチンが不足しています。バリ人には「犬に噛まれたら、ワクチンを接種すれば大丈夫」という意識があったので、今回のワクチン不足は大きな波紋を呼んでいます。
事態の深刻さから、掃討作戦を再開した州政府。バリ島では「モンキーフォレスト」と呼ばれる、野生ザルの森が点在していて観光スポットとしても人気ですが、こうした野生動物に狂犬病が感染した場合のパンデミックを危惧しての強行作戦なのだとか。
しかし、この措置に「犬がかわいそう」だと住民のデモが起こり社会問題にまで発展しています。その一方、飼い犬の予防接種率はあいかわらず低迷状態。さらに犬をつなぐとストレスで吼えて凶暴になるからと、放し飼いを止める家庭もほとんどありません。
筆者の知人は、先日飼い犬に子どもが噛まれた際、一晩かけてワクチンのある病院をようやく突き止め、翌朝片道4時間ほどかけて接種に行ってきたそうです。今回が2度目の事故だったこともあり、さすがに犬の殺処分を考えていると話していました。
ただ、このように考える飼い主は稀です。人を噛んでも、何も対策をせず放置して、責任さえ感じていないような飼い主が少なくありません。
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■同じ対策でも効かない国
日本では、初の症例発見からわずか7年で根絶されたという狂犬病。対策の内容は、「犬の登録」「予防注射」「野犬等の抑留」の徹底だそうですから、犬の登録以外はバリ州政府の対策と大差はないように思われます。同じ対策でも、民族性や生活環境によって全く違う結果になってしまうんですね。
州政府はこれまで犬にかけてきた予算を、住民の教育にあてることにしたそうですが、独自のスタイルで犬と共存してきたバリ人の思考を変えるのは簡単ではなさそうです。
いずれにせよ、バリ島に限らず、海外旅行の際には安易に動物に手を出さない、これ鉄則です!
(文/しらべぇ海外支部・平理以子)