福山雅治結婚から考える、「フツー」の家族とは?【芥川奈於の「いまさら文学」】
「ましゃロス」―― 今週日本から発信されたある情報により、アジア各国の人も含め多くの女性が陥った現象。
そう、あの芸能界最後の大物独身男性といわれた福山雅治さんがご結婚されたのだ。多くの女性たちは悲鳴をあげ、会社を早退・欠勤した人までいたという。
そんな福山さんの人気曲に『家族になろうよ』という心温まる歌がある。この曲のなかで目指される“家族”というのは、父と母、そして子供たちという、いわゆる「フツーの家族」だ。
今回紹介するのは、そんな「フツー」とはかけ離れた2組の「家族」の物語、鷺沢萠(さぎさわめぐむ)による2004年の小説『ウェルカム・ホーム!』だ。
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◆そもそも家族構成って何だ?
『ウェルカム・ホーム!』は2編の話で成り立っている。
一方は父が2人、息子が1人という家庭。もう一方は、キャリアウーマンと義理の娘の夫婦という家庭。
それぞれにこんがらがって絡んだ事情があるわけで、当然「フツー」の家族から見たらおかしな家族構成であるが、読み進むうちに「フツーの家族って何だ?」という疑問が湧いてくる。「これで成り立つならフツーよりフツーなのでは…」と。
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◆家族の血、そしてそのルーツを描いて紡ぐ
鷺沢氏は、数多くの「家族」をテーマにした作品を発表している。自分のルーツである韓国の血を徹底的にリサーチしたものや、主人公が働く店に訪れた客との家族になりえそうでならない切ない話など、キーワードで考えればそういった主題のものが本当に多い作家である。
他にも、甘酸っぱい青春で包まれた少年のストーリーや、自分の大好きな麻雀のエッセイまで、その幅は広い。
だが、作者らしい本といえば、やはり「家族」「居場所」「死」を語るものだろう。
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◆待ち受けていた突然の最期
そんな著者の書いた本作は、ほっこりと温かく、爽やかな涙が出る小気味好い2編である。しかし、この作品を書いた後、鷺沢は自分自身の手でこの世を去ってしまった。
ここまでの作品を書ける小説家が、自分の居場所を見つけられなかったのだろうか……と思うと大変悔やまれる。
鷺沢のホームページは、今でも管理人がいて運営されている。気になる人はチェックしてみよう。
(文/芥川 奈於)