霜降りから赤身の短角牛まで!肉バカ研究家が「お取り寄せ肉」の最適解を検証
『大人の肉ドリル』著者で、しらべぇコラムニストの「肉バカ」まつうらたつやです。
焼肉に象徴されるように、肉という素材は、自分でも調理することが多い。ならば「どんな素材を、どんな器具で、どう調理するか。その最適解を調べねばならぬ!」という注文をしらべぇ編集部からいただいた。
しかも「肉から調理法まで、(岩手県のものさえ使えば)あとは全部おまかせ!」という夢のようなワンストップ(丸投げ)企画。牛どころ岩手から牛を選び放題で、南部鉄器のグリルパンなら愛器として持っている。
これはなんと(文字通り)おいしい企画……(しめしめ)。さっそく最初のお肉のご紹介からまいりましょう。
①ステーキ編:赤身が自慢の短角牛
久慈市の「いわて山形村短角牛」(いわて短角和牛)のサーロインステーキ。岩手県なのに「山形村」とはこれいかに。
というツッコミは使い古されているので自重しますが、気候のいい夏は北上高地に放牧され、雪に閉ざされる冬にも牛舎で100%の国産飼料で育てられる和牛です。
深い赤銅色がそのまま味の深みと言えるほどの赤身の味わいに、少しのサシとうっすらと香りのいい脂身。心地いい肉の弾力も含めて、「肉欲」が高まった時にうってつけの肉であります。
今回届いたサーロインは、短角牛にしても少し小ぶりな168gのもので、厚さは1cmちょっと。ステーキの表面には香ばしい焼き目をつけ、内部は適度にあたたまったレアに仕上げたい。
肉の加熱のメカニズムで言うと、表面に焼き目というメイラード(褐変)反応を起こして香ばしさを加え、内部は筋繊維が収縮してかたくなる手前の60℃台以下にとどめたいところ。
肉質がしっかりしているので、適切な加減で焼けば極上の味わいになるはずですが、肉の表面全面が熱されてしまうフライパンや鉄板だと、火力のコントロールが難しい。
そこで今回は南部鉄器のグリルパン(スリット入り/IH対応 ※私物)を引っ張りだしてきたわけです。
拙著『大人の肉ドリル』では「高温短時間の火入れ」→「休ませ」を繰り返して、焼きの手数を分割する手法を紹介しましたが、スリット入りのグリルパンならスリットに当たる部分のみが強く加熱され、それ以外の部分はやさしく加熱される。
つまりステーキの表面に対する加熱が物理的に分割され、肉表面に焼きを入れながら、内部をやさしくあたためることができるのです。
しかも南部鉄器は重さもあって、蓄熱性も高く安定した焼きが期待できる、というわけ。
■イザ焼く!
まずはハケでグリルパンにオリーブオイルを塗り、IHヒーターの目盛りを強に。煙が上がる程度(200強)まで温度が上がったら、肉をうやうやしくグリルパンに乗せて数十秒。
ひっくり返して裏面も焼いたら、格子模様がつくような向きに返してもう1往復で、もうできあがり。カットしてみると……。なんということでしょう!
表面の焼き目を頼りに、わりと雑に焼いたのに、内部が見事なロゼ色に仕上がりました。カットしてほおばると……。肉を食っているという、心地いい噛みごたえの肉から濃厚な赤身のうまみが口のなかいっぱいにあふれます。
しかも決して多くないはずの脂が何ともコク深い香りを発散しています。モー、ニクらしいぞ。短角牛よ!
②すき焼き編:前沢牛vs雫石牛
短角牛をあっという間に平らげてしまったので、次なるターゲットは……やはり黒毛和牛! サシの入った黒毛和牛と言えば、すき焼きで決まりでしょう!
やわらかい赤身にサシの入った脂身からは、焦げた割り下の香りに渾然となった「和牛香」が立ち上り、野菜を加えて鍋仕立てにすれば肉の味が豆腐や白滝に染みこんで……。
ああ、もうガマンできないのでサクサク進みましょう。岩手の黒毛といえば最近ではいわて門崎牛など新しいブランドも次々育っていますが、やはり「いわて前沢牛」(いわて牛)を外すわけにはいきません。
そしてもう1種類、気になりながらも未体験だった「いわて雫石牛」(いわて牛)も注文することに。こちらは割り下つきの「すき焼きセット」なるものを見つけたので、そちらをクリック! えいっ。
自分のなかの何かが壊れかけているような気もしますが、気にしてはいけません。
ブランドにこだわらなくても、やっぱり何かの目安はほしい。 到着したすき焼き肉はうっとりするほどお美しく!
今回はすき焼き肉のなかでは比較的お値ごろな肩肉を注文したのですが、前沢牛はビロードのようななめらかさで庶民をうっとりさせ、雫石牛は喉が鳴るようなほどよいサシ加減!
これは期待が高まります。せっかくなので皿に盛りましょう。
左が雫石。右が前沢。舌を出しているアンタは食べたらアカン!
■ココでもやっぱり南部鉄器
もちろんここまで来たらすき焼き鍋も南部鉄器! 先のグリルパンとは違うメーカーのものを選んでみましたが、最近の鉄器ってふつうにIH対応なんですね。
ふだんガスコンロばかり使っているので、気づきませんでした。まずは1枚、テストで焼いてみましょう。
1枚焼いただけで、暴力的なにおいがたちこめる。 すき焼きの味を構成する要素は、ステーキよりもはるかに複雑です。
肉を中心に考えると、肉自身の焼き目、割り下(関西では醤油、砂糖など)の焦がし、(焼きから煮に転換したときの)煮え加減といったところが主な味の構成要素と言えるでしょう。
「すき焼きならでは」のポイントは「割り下の焦げ目」。すき焼きでは、肉の焼き目のメイラード反応に加えて、「カラメル化」と言われる、糖類の加熱による反応が味に深みを加えます。
砂糖などでこのカラメル化が起きる温度は160℃が目安。つまり最初に味を入れながら肉を焼き、後から野菜を足して炒め煮にしていく関西風のすき焼きのほうが最初から煮てしまう関東風よりも味が深くなりやすいというわけです。
とにかく最初は焼きつけて肉を食べる。 まず、最低でも全員が1枚ずつ、肉だけを食べましょう。ここで肉だけのおいしさを存分に味わうことが、後の「鍋」を育てることにもつながります。
ちなみに和牛独特の甘い香りである、和牛香の主成分「ラクトン類」の香りがもっとも膨らむのは80~90℃。なので、焼き目をつけつつ赤い部分も残すように焼く。
そうすることで、確実に和牛香を膨らませることができる。和牛のすき焼きはわざと焼きムラができるよう焼くべし、なのです。
左が前沢牛、右が雫石牛。 どちらも同じ黒毛和牛ながら、肉質には違いがありました。前沢牛はビロードのような女性的ななまめかしさ。
もはや飲み物と言ってもいいレベルのやわらかさで、のど越しまでももう色っぽくてゾクゾクしまくり。
かたや雫石牛のほうは(前沢牛に比べてややカットが厚かった)こともあって、ひと噛みするとどこか野性味を感じる赤身とサシのうまみが口のなかに絞り出されます。
もしどちらかしか選べないとしたら? ……それは仕事と彼女、どちらが大事かという定番の愚問にも等しい質問です。
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