【シリーズ・味の方言】食べ歩きストが広島で天ぷらを食べたら驚いたわけ

コラム

2015/11/18 11:00

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駅から離れた住宅街に、店が一軒あった。のれんには、「天ぷら 御食事処 くりはら」とある。この外観を見た限りでは、誰もこの店がホルモンを出すとは思わない。そう。一部の広島県人以外は。実は界隈には同じ看板を出す店が何軒か点在している。

店に入ると、土間には左手がカウンター席、右手がテーブル席となっている。カウンターの中では、おばちゃんが三人働いていた。

ここまでは至って、普通の店だろう。しかしカウンターには、なぜかまな板と包丁が置かれている。僕の目前だけでなく、等間隔にまな板と包丁は置かれているのである。

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メニューを見れば、天ぷら100円、おでん120円、田楽うどん450円。これまたいたって普通である。だがまな板と包丁の謎は解けない。

とりあえず「おでんに天ぷら」。と頼んでみた。するとおばちゃん、大根やこんにゃくもあるのに、牛すじだけを二本とりだして皿に置き、差し出した。

つまりここでは、「おでん」といえば、牛すじのことで、他は大根とか卵とか言わなくてはいけないらしい。しかもこいつ、牛すじだけではなく、大腸も混入しているではないか。食感の違いがあって、おいしい。

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「ビールください」と頼むと、「自分で取ってね」と言われた。そこで冷蔵庫から勝手に取り出し栓を抜き、グラス注いだ。

よし天ぷらも頼むか。「天ぷらください」。すると今度はおばちゃんが、冷蔵庫から何やらとりだして衣をつけ、揚げ始めた。

黒いのやら白いのやら、長いのやら短いのやらである。果たしてなにか?

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「はい、天ぷら」。まな板の上にどさっと置かれた天ぷらを見れば、なんとホルモンではないか。こいつを包丁で食べやすく切るのである。

あとから放ってきた客を見れば慣れたもんで、左手に箸を持ってフォーク代わりに抑え、右手の包丁で鮮やかに切る。まな板で銘々が切るという儀式が、真昼間から堂々と行われているのである。

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常連は以下のように頼んでいた。「おばちゃん、ちぎもある? それに白肉、都合で5つ揚げといて。後これから病院に行くから、チギモ3つお土産で」。

天種は、脾臓(チギモ)にミノ(白肉)、小腸にセンマイ(ヤンのような厚さ)。切った天ぷらはポン酢を小皿に入れ、韓国唐辛子の粉をたっぷり入れて、それにつけて食べる。

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サクッと衣に歯が入れば、クニュッ、コリッ、ふわっと、様々な食感が歯を喜ばす。ビールとやれば、止まりません。しかしこれを、しかも血臭いチギモ天ぷらを、病院見舞いに持っていくとは、なんという素晴らしい文化なのでしょうか。

そして〆は、「田楽うどん」。といってもおでんではありませぬ。ホルモンでとった優しい出汁に、茹でた各種ホルモンがのったうどんなのである。飲むたびに穏やかな甘みが押し寄せてため息が出る。ああ、もうやめて。

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「この店のためにもう一度広島に来てやる!」僕は一人叫ぶのでありました。

(文/マッキー牧元


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