競技志向から楽しみへ ランナーに起きている意識変化とは
富山や金沢、さいたま国際マラソンをはじめ、2015年は地方での都市型マラソン大会がいくつも初開催された。笹川スポーツ財団の調査によれば、日本国内のランニング人口は約1,000万人。増加率こそ落ち着き始めているが、実に多くの人々が、競技あるいは趣味としてランニングに取り組んでいる。
ランニング人口、そして大会数の増加などを背景として、ランナーを取り巻く環境も大きく変わっているようだ。ランニングポータルサイト『RUNNET』を運営するアールビーズ社は、11月30日(月)に開催した記者発表会の場で、独自調査による2015年のランニングデータを発表した。今回はその中から興味深いデータをいくつか取り上げ、筆者なりの考察を踏まえつつその変化を見ていきたい。
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■出走レースに対する考え方
ランニングを始めると、多くの人が「マラソン大会に参加してみよう」と考える。大会という目標は、モチベーションの土台にもなるだろう。ランナーはそれぞれ異なる基準で大会を選ぶが、データからは意外な傾向が読み取れた。
<好きなレースの距離・種目>
“マラソン大会”と聞けば、多くの方は42.195kmのフルマラソンを連想するだろう。しかしこのデータを見ると、僅かながら「ハーフマラソン」が「フルマラソン」を上回っている。
なぜ、ハーフマラソンが人気を集めているのか。まず考えられるのが、「距離が短いため、初めての大会に適している」ということだろう。筆者も過去を振り返ってみると、最初に走ったマラソン大会はハーフマラソンだった。周囲にも「フルマラソンの前にハーフで様子を見たい」という人は多い。
また、ハーフマラソンは3時間前後で終わるため、移動を含めても半日あれば参加できる。たとえば遠方の大会ならば、走り終えてから観光を楽しむといったことも十分に可能だ。あるいは午前中に走り、午後から仕事するなんていうこともできるだろう。“参加しやすい”というハードルの低さが、人気の理由と言えそうである。
<レースのエントリーで重視する点>
「どこで」「いつ」「どんな距離」を走るか。この上位3点については、誰も異論はないだろう。遠ければ移動が大変だし、そもそもスケジュールが合わなければ走れない。距離についても、自分の実力・志向に合ったものが好まれる。
しかしここで、4位の「面白そうなレース」と5位の「コースの景観」に着目したい。これら2つからは、ランナーが競技志向ではなく、楽しみとして大会を捉えている傾向が読み取れるのではないだろうか。
確かに最近は“ファンラン”と呼ばれる大会が増え、そこでは記録など競われない。あるいはエイドで地域の特産品を食べられたり、仮装賞を設けたりと、楽しむための要素を盛り込んだ大会も増えている。競技スポーツとしてのマラソンが、少しずつレジャー的な役割を持ち始めている傾向と言えそうだ。
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■走るうえでのモチベーション
なんのために走るのか。その答えは人によって異なるし、走り続ける中で変わってくるだろう。
<ランニングを始めたキッカケ>
健康でありたい。その願いは、誰しも共通するものではないだろうか。上位に並ぶ項目は、いずれも心身いずれかの健康に繋がっている。ではランニングを始めた後、人々のランニングに対するモチベーションはどのように変わっていくのか。次のデータで確かめてみよう。
<ランニングを続ける理由>
健康のためであれば、毎日30分程度のジョギングで十分だろう。しかしデータを見ると、「レースを走りたい」「速く走りたい」といった競技志向が強まっていることがわかった。
ランニングを始め、少しずつ走れるスピードや距離が向上していく。すると「もっとできるのでは?」と考えはじめ、いつしかアスリート的な競技志向が強まるという流れだろう。しかし先に取り上げたように、最近はランニングを“楽しみ”と捉える人も増えている。今後、こうした走るうえでのモチベーションは、変化していきそうだ。
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■ITリテラシーの高いランナーたち
マラソン大会では、スマートフォンを持ちながら走るランナーをよく見かけるだろう。最近は、GPS機能によって走行距離やペース、コースなどを記録してくれるウォッチも広く普及してきている。ランナーにおけるIT活用状況は、急激な速度で変化しているようだ。
<スマートフォン&タブレットの保有率>
スマートフォンの保有率は日本全体の平均64.2%に対し、ランナーは74.6%にも及ぶ。さらにタブレットでも同様に、ランナーが日本全体の平均を上回る結果だ。
大会情報の検索やエントリー、あるいはランナー同士のコミュニケーションなどは、インターネットを通じて行われることが多い。SNSでも、日々のトレーニング模様や大会結果などがよく投稿されている。大会が近づけば、最寄り駅までの経路を調べたり、天候などのコンディションを調べたりすることもあるだろう。そうした際、軽くて持ち運びに便利なスマートフォンやタブレットは、とても便利なのだ。
スマートフォンの活用方法として、代表的なのがGPS機能と連動したアプリの利用。走ったコースや距離、ペースなどをリアルタイムで表示し、自動で記録してくれる。どのようなアプリが多く利用されているのかは、次のデータをご覧いただきたい。
「Nike+」「Runtastic」「RunKeeper」の3つが、全体の30%以上を占めている。しかし、使用率をよく見てもらいたい。こうしたアプリを使っている人は、全体の約半分のみに留まっているのだ。これは、いったいなぜなのか。実はこれまでアプリの担ってきた役割に、 “GPSウォッチ”が名乗りを上げているのである。
<GPSウォッチの保有率>
ご覧いただくと分かる通り、GPSウォッチの所持率が、僅かながらアプリ使用率を上回った。さらに購入検討中の方を含めると、流れはアプリからGPSウォッチにシフトしていることが伺える。
走る際には、多くのランナーがスポーツウォッチを使っている。しかしGPS機能がないと、記録を残すにはスマホと両方持たなければならない。「それなら1つにまとめたい」と思うのは、必然と言えるだろう。では、スマホとウォッチのどちらにまとめるか。腕元でいつでもすぐ確認できるウォッチの方が、軽量でもありランニングには適している。
またGPSウォッチは、機能に応じてその価格帯も広くなってきた。そのため、以前ならば「高過ぎて買えない」と諦めていた人にも、手が届きやすくなっている。さらにホワイトやピンクなど、女性向けのGPSウォッチも増えたことで、デザイン面でのハードルも下がっているのだ。
アールビーズ社は今回、新たなスマホアプリ「ランパスポート」についても発表した。大会情報や自己タイムなどの管理から、登録内容に応じたランニングアイテムの情報提供などをアプリ上で行い、2016年春から提供を開始するという。ランナーの意識、そしてIT・インターネットによるサービスの充実化については、これからの変化を楽しみにしたい。
(文/しらべぇ編集部・三河賢文)
参考サイト:株式会社アールビーズ