和製ナルニアとなるか?小林泰三の書きおろし『世界城』に期待
小さな枠に囚われず、自分の才能を開花できたら、こんなに素晴らしいことはないと思う。今回、コラム「いまさら文学」で取り上げる小林泰三という作家は、まさにそんなイメージである。
『玩具修理者』(1995)で日本ホラー小説大賞、『海を見る人』(1998)でS−Fマガジン賞、そしてミステリー作品『アリス殺し』(2014)で啓文堂大賞・文芸書部門を受賞した経歴を持つ作者の頭の中はどうなっているのか非常に興味深い。
小林氏の最新作が発売された。書き下ろしの『世界城』(2014)である。今度はなんと、冒険ファンタジーの世界を描いているのだ。
これまた、どんな具合なのか興味をそそり早速読んでみたが、会話中心の構成、情景が浮かびやすい表現力、そして細かに設定された世界観もあって、一気に読めてしまった。
物語の冒頭は自称・「王女」が「テラス」と呼ばれる世界の端、そして「城」からの脱出をしたいと下界の民の前で熱弁するところから始まる。「城」の外に「世界」などないのに。そのうちに、悲鳴をあげ子供を出産してしまう。
やがて主人公11歳の少年になる。それが「王女」が生んだ子供であると判ってくる。そしてとある事件から、その少年・ジュチと村長の息子・ダグの冒険が始まる。
知恵の働くジュチと、少々間抜けでも気は優しいダグの幼い二人の冒険は、危うく、そして正義感でいっぱいである。
読んでいて非常に清々しくもあり、ドキドキもさせられる。結末にはシリーズ化も予想されるような文章もあり、今後も期待できる。
『指輪物語』『ナルニア国物語』『ハリーポッター』シリーズのように成長していくかもしれない予感さえした。また、ゲームの『ICO』の世界が好きな人なら読んでみる価値はあるかもしれないので、ぜひ手に取って頂きたい。
(文/芥川 奈於)