サブカル系の人なら必読!『ドルフィン・ソングを救え!』

2016/02/02 19:00

芥川ドルフィンソング

ネットもケータイも、渋谷のタワレコさえなかった時代は、果たして幸せだったのだろうか。しかし我々は、そんな世の中を渡ってきてここにたどり着いている。

バブル末期、1989年から始まる物語『ドルフィン・ソングを救え!』。この本はまるまる全て、サブカル文化へのオマージュ、意匠、影響を余すことなく詰め込んだ一冊だ



 

■人生に絶望した主人公の新しい人生の行方は…?

たたずむ女性
©iStock.com/dundanim

2019年。主人公のトリコは45歳にして未婚、子供なしの捻くれたフリーター。人生に絶望し自殺を図ったが、目を覚ますとそこは大好きなバンド「ドルフィン・ソング」が“まだ”存在していた1989年だった。

トリコはその時代で新しい人生をやり直すのだがーー。


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■8、90年代を生きたサブカル人間にはたまらない

文章のそこかしこに、バンドのフリッパーズ・ギターや、後にバンドを解散してソロ活動をしていく小沢健二、コーネリアスの歌から引用された歌詞が散りばめられている。

さらに、多くのサブカル人間が熱狂したであろう、アンダーグラウンド・ミュージックの数々も登場。

アノラックにベレー帽、アニエスベーのボーダーシャツに身を包んだ主人公達は生き生きと、いや、アイロニックな笑みを浮かべ、世の中を馬鹿にする。

『Rockin’on』や、当時の渋谷の小さなハコでの裏話をアレンジした書き口は、シニカルな同年代やOlive少女にはもちろん、いわゆる“渋谷系”に憧れる00世代のGirls and Boysにも十分受け入れられる内容だ。

表紙の絵柄が、岡崎京子の『リヴァーズ・エッジ』の一コマであるところも心にグッとくる。くだらない高校生活、馬鹿らしい毎日。倦怠感と焦燥感。いつの時代も、若者が抱く感覚は同じである


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■「続編」も発売予定

続編『ラブ・アンド・ドリームふたたび』も発売されるということで、今から楽しみだ。

それにしても、小沢健二の連載企画『うさぎ!』が、本書では『たぬき!』あるいは『きつね!』になっているところには笑わされた。

また、購入したものがサイン本で、中に押されたイルカのスタンプと、著者直筆の『やけくその引用句なんて!』の文句は、眺める度に懐かしさと甘酸っぱさでいっぱいになる。

あなたの甘酸っぱかったあの時代と比べながら読むと、嬉しく、恥ずかしく、そして誇らしい一冊になることは間違いないだろう

(文/芥川 奈於

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