映画『ちはやふる』公開前に知っておきたい百人一首の恋歌5つ
恋愛をしているとき、ラブソングや失恋ソングを聴きたくなる人は少なくないだろう。音楽番組では定期的にラブソング特集が組まれることからもわかるように、とても身近なもの。
歌に愛を込める表現方法は、つい最近になって始まったものではない。何千年も前に存在した「和歌」でも、表現方法は違えど恋する人に愛情を伝えていたのだ。
百人一首の「競技かるた部」を題材にした人気マンガ『ちはやふる』の映画が3月19日に公開されるが、その前に和歌の世界を覗いてみよう。
本記事では、恋の和歌を5つご紹介しよう。
■『ちはやふる』公開前に知りたい! 恋の和歌
①恋の始まりの歌
「しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」
【訳】心に秘めてきたが、顔や表情にでてしまったようだ。「恋に悩んでいるのですか?」と人に尋ねられるほどに。
こちらの歌は、拾遺和歌集・平兼盛の歌。
恋の始まりは意外と気づかないもの。誰かに「好きなの?」と言われて気づくなんてこともあるはずだ。初々しい恋の始まりを感じられる歌である。
②恋をする喜びを歌った歌
「君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな」
【訳】あなたに逢えるのなら、この命は惜しくないと思っていた。でも、こうして会えた今、(あなたと会うために)できるだけ長くありたい思うようになった。
この歌は、後拾遺和歌集・藤原義孝の歌。
愛するこの人と結ばれるなら、命さえ惜しくないと思うほどの恋をしたことはないだろうか。いざ結ばれると、今度はその人を守るために長く生きたいと思うようになるはず。
恋は自分の心境を大きく変え、生きる喜びを与えてくれることを歌から感じ取れるのである。
③切ない片思いを歌った歌
「難波潟 みじかき芦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや」
【訳】難波潟に生えている芦の、節と節の間のようなみじかい時間でさえ、あなたに逢わずに一生を過ごせと、あなたはおっしゃるのですか?
この歌は、新古今和歌集・伊勢の歌。
難波潟は現在の大阪湾あたりで、「芦」は水辺に生える2mほどのイネ科の植物だ。芦の「節」の短さと、ほんのわずかな時間という意味を掛けている。
好きで好きでたまらないのに、ほんのすこしでも会ってくれない好きな人。そのまま好きな人に会えない人生なんて、悲しくてたまらないであろう。そんな切ない片思いの気持ちを感じ取れる。
④失恋の歌
「契りきな かたみに袖をしぼりつつ 末の松山 波越さじとは」
【訳】お互いに涙で濡らした袖を絞りながら約束したのにね。末の松山を波が越さないように、どんなことがあっても決して心変わりはしないと。
この歌は後拾遺和歌集・清原元輔の歌。
永遠の愛を誓ったはずなのに、心変わりをしてしまう。そんな悲しい経験をしたことはないだろうか。この歌は、波が絶対越えられない「末の松山」を、ふたりの心に例えている。
越えられないはずだったのに、越えてしまった。そんな、静かな終わりを感じさせる歌である。
⑤禁じられた恋の歌
「今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな」
【訳】今はもうあなたへの想いを諦めようとしています、ということを、せめて人づてでなく、あなたに直接言う方法があったらなぁ。
この歌は、後拾遺和歌集・左京大夫道雅の歌。
親の反対で女に会えなくなった男が、なんとしてでも会いたいと思って歌った歌である。禁じられた恋や認められない恋。そういった想いに共感できる人もいるのではないだろうか。
この他にも心苦しい歌、心きらめく歌がたくさんある。何かに迷ったときや、愛について考えてみたいとき、和歌にヒントを求めることもできる。
(文/しらべぇ編集部・みゅうみゅう)