「全米ライフル協会」の童話が話題 赤ずきんがもはや西部劇
アメリカに全米ライフル協会(以下NRA)という組織がある。今、このNRAが日本のTwitterユーザーの間でかなりの評判を呼んでいる。
NRAは、一言で言えば「銃所持者の権利保護団体」である。アメリカでは、憲法で一般市民の銃所持が保障されている。そうすることでイギリスから独立を果たし、メキシコの侵攻を頓挫させてきたからだ。
「市民が武装している」ということが治安上の懸念材料になってしまった現代においても、NRAはこう主張している。「市民が武装していれば、町は平和になる」と。
■武装した赤ずきん
そんなNRAが、webサイトでこんな童話を公開した。「もし赤ずきんやヘンゼル、グレーテルが銃を持っていたら」という内容のものだ。
赤ずきんのエピソードは、大抵の人は知っているだろう。お婆さんになりすましたオオカミが赤ずきんを食べてしまうが、猟師に助けられて一件落着という話だ。
だが、NRA版赤ずきんは猟師の力など借りない。ここでの赤ずきんは、誕生日にプレゼントされたライフルで武装しているのだ。
赤ずきんに銃を突きつけられたオオカミは、次にお婆さんを襲おうとする。だがお婆さんも銃を持っていたため、ついに捕縛されてしまう。
ヘンゼルとグレーテルの話に至っては、銃を持った村人とともにお菓子の家の魔女へ殴り込みをかけるというシナリオだ。
幸い、一足先に保安官が魔女の身柄を拘束していて、村に平和が戻ってめでたしめでたし……という結末だが、これはもはや童話ではなく西部劇である。
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■ブレイディ法を廃案に追い込む
この童話をきっかけに、日本でも「#全米ライフル協会力高い童話」というハッシュタグがTwitterに出回った。「童話の主人公に銃を持たせてみたら」という作品が、今でも生まれ続けている。
だが問題は、銃に対する意識が世界とアメリカとではあまりに違うということ。
今年1月、オバマ大統領は大統領令による銃規制強化を発表した。これは銃購入希望者に対する身元調査の徹底や、オンライン時代に合わせた銃器販売ライセンスの改訂などが主な狙いである。
アメリカではこうした連邦法が存在していた時期がある。「ブレイディ法」だ。銃撃で負傷した大統領補佐官ジェームス・ブレイディ氏から名を取った法律で、銃購入希望者の犯罪履歴紹介を義務付けるものだった。
だが、時限立法だったブレイディ法はブッシュ・ジュニア時代に期限更新されることはなく、失効に追いやられた。ブッシュファミリーは銃規制に反対する立場でも知られている。そしてブレイディ法は、NRAにとっては非難の対象だった。
オバマ大統領はこの連邦法の復活を望んでいるのだが、NRAはそれを阻もうとしている。
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■銃と「人権派俳優」
『ベン・ハー』や『猿の惑星』などで主演を務めたチャールトン・ヘストンは生前、NRAの会長職にあった。
白人のヘストンは人権派として知られていた人物で、黒人公民権運動にも参加している。ワシントン大行進にも加わり、キング牧師の「I Have a Dream」演説を生で聴いているほど。
そんなヘストンは晩年、銃所持者の権利保護活動に熱心だった。学生時代から培ってきた弁論の腕を駆使し、壇上でこう叫んだ。
「何が何でも銃は手放さないぞ!」
有名な、コロンバイン高校銃乱射事件からわずか10日後のこと。NRAの存在はアメリカ社会に深く根付いていて、それを取り除くのは決して容易ではないのだ。
(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一)