絶対音感の悩みを音楽家が語る。中島美嘉の歌はツライ?

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2016/04/28 10:00

moodboard/Thinkstock
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「絶対音感あるの?」音大生にとってはこの質問の答えが簡単ではないことを、皆さんはご存知でしょうか。音大卒である筆者も、音楽家ではない人とお話している時にこの質問を投げかけられることが多々あります。

ちなみに筆者は絶対音感があるので、「はい」と答えると、決まって次に聞かれるのが「じゃあ、これは何の音?」と言ってコップをチーンと鳴らされる。うーん。これがまたよくある困る質問。

一般の社会では「音感」についてあまりに知られていないことが多すぎて、音楽家として伝えたいことがたくさんあっても、恐縮してしまうのが常です。音楽家があえて詳しく話さない、マニアックな音感の話について書いてみようと思います。

今回特に掘り下げたいのは2点。

「絶対音感ある?」と聞いてくる人へ。音感には実は絶対音感と相対音感の2種類があるということを知って欲しい!

「この音わかる?」とコップをチーンと鳴らす人へ。音というのはそんなに単純に音名を当てはめられるものでもなく、実はドレミファソラシドだけでは片付けられない音の方が多いということを知って欲しい!

マニアックな音感のお話に少しお付き合い下さい。



 

◼音大生でも絶対音感を持っている人は半数

「絶対音感あるの?」この質問を実際に音大生や音大卒の人たちにしてみたところ、yesと答えた人は52%という結果になりました。そもそも絶対音感をざっくり説明すると、歌のメロディーや楽器で鳴らされた音の音名を言い当てられるだけでなく、「街で聞く雑音の音名をも絶対的に言い当てられる音感」のことです。

では、残りの約半数の音大生達は音感がないのか? というと、そういうわけではなく、音大で教育を受けた人はみんな正確な相対音感を持っています。相対音感とは、基準の音を与えられた時に、その音との高低を正しく認識できる音感のことで、厳密に言えばほとんどの人が当たり前に持っている感覚です。

ただ、音大の人は専門的な勉強しているので、聴いた曲が音名でわかったり、耳コピして演奏したりすることは絶対音感がなくてもできます。

つまり、絶対音感がなくても音楽家として困ったり、演奏に支障が出るということはありません。

絶対音感と相対音感の違いをすごく簡単にいうなら、カラオケで原曲キーじゃないと気持ち悪い感じを覚える人が「絶対音感」で、原曲キーじゃなくても音さえずれていなければ違和感を感じない人が「相対音感」といえば、わかってもらえるでしょうか。

「絶対音感あるの?」という質問に対して、音大生たちが「えーっと、この人は相対音感のことをわかった上で聞いているんだろうか」と思っていることをまずは知っておいていただきたいです。

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◼絶対音感ならではの悩み。中島美嘉の歌はツライ。

絶対音感を持っている人は、小さい頃から音楽に囲まれた環境で育ったり、熱心な教育を受けたりして音感を身につけます。音にはそれぞれ周波数があって、例えば現代では「ピアノの真ん中のラは440ヘルツ」という調律が主流なので、440ヘルツを聴けば「ラだな」と認識する教育を受けるということになります。

細かい話になりますが、音は高めの周波数だと華やかに聞こるので、コンサート用のピアノなどは少し高めの442ヘルツに調整したりするのですが、絶対音感だとその微妙な違いもわかります。

そして、それが感じ取れる人には、高めの音は華やかで心地良いことが多いのですが、低めの周波数だと気持ち悪く感じることがあります。

例えば、低めに歌う歌手の代表に中島美嘉さんがいます。真ん中のラで例えるなら、440ヘルツではなく、430ヘルツぐらいといった感じでしょうか。少し低めだからこそ、彼女の声は憂いがあって艶っぽさがあるともいえるのですが、絶対音感の持ち主には、ピッタリの周波数にはまっていない中島美嘉さんの音の取り方は気持ち悪く感じてしまうという人が多いです。

「これは何の音?」といって、食事の場などでコップをチーンと鳴らして音を聞かれた時に困るのは、日常の雑音には周波数がぴったりなものは少ないからです。たとえば、450ヘルツくらいの音がなったら「ラ(440ヘルツ)と、ラ♯(466ヘルツ)の間かなぁ。どっちかといえばラに近いけど、なんとも言えない音だなあ。」みたいな面白くない答えしかできないので、非常に困ってしまうのです。


◼日常の音が音階で聞こえる良し悪し

日常のちょっとしたメロディーが聞こえると、音楽家は心の中で聴音をし始めます。

LINEの着信音がなれば「ファソドファソシソラレファソド」、マクドナルドでポテトが揚がれば「ラソラ、ラソラ」、スーパーのキノコ売り場でキノコの歌が流れれば「ファ♯ミレ、シッラーシレファ♯ミミレ」と、心の中で歌っています。

そう聞こえている人にとっては、そう聞こえていない人にはどう聞こえているのかが謎、と思うくらい絶対音感というのは体に染み付いているものです。

ただ、全てが音階で聞こえてしまうので、音が気になりすぎて疲れる時も‥。例えばホームで上りの電車と下りの電車の両方の発車の音楽が同時になり始めた時に不愉快に感じたり、家電の雑音がぴったりはまってて気になったり、耳鳴りや隙間風まで音で聞こえてしまったり。

あとは、体調が悪い時には色んな音がいつもより低く聞こえるのでバロメーターになったりもします。


絶対音感は、あっても特に得することも損することもないですが、正確な相対音感はいくつになっても訓練すれば身につきますし、あると一つの言語を習得したくらい世界は広がと筆者は思っています。音階は世界共通の音楽用語ですから、音階がわかれば世界中の人と交流できます。

ちなみに私は、夏になると、我が家の庭の蝉の「ラーラララララララー」という音を聞いて、イタリアの蝉は「シシシシシシシシシシシシシー」だったから、やっぱりイタリアの蝉の方が華やかだなぁなどと思っています。

虫の鳴き声一つでも、そんなマニアックなことを考えるような変わった「音楽家」という人種がいるということを皆さんにこの記事で知っていただけたら幸いです。

(文/しらべぇ編集部 ・辰巳真理・砂流恵介)