たくさんの絵本を読む子が本当に「いい子」?

2016/04/28 10:30


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MIXA next/iStock/Thinkstock

■その「すごーい!」は本当にすごいのか

最近だいぶ露出が減りましたが、一時期、ある保育園幼稚園での教育法がだいぶメディアに取り上げられていました。子供を乗せてスイッチを入れるにはこうすればいいというメソッドが絶賛されていました。

そうやってスイッチを入れられ、跳び箱は10段跳べちゃうし、ブリッジしたまま歩けちゃうし、鍵盤ハーモニカも音を聞くだけで曲が弾けるようになっちゃうしという子供たちの姿が放映されました。

「すごーい!」という歓声がもれるのはわかるのですが、その「すごーい!」、どこかでも聞いたことがあります。上海雑伎団を見ているときの「すごーい!」といっしょです。それが何に役立つのか、ということです。

ま、いろいろできるようになって自信が付くことはいいことです。何らかの価値観を与え競争させれば、子供はムキになってそれに挑みます。能力を最大限に引き出すという理論においては間違ってはいないと思います。そういう教育が本当にすごいと思う親御さんはそういうところに預ければいいと思います。

ただ、そうやって大人が「仕掛けて仕掛けて」というのが本当に教育なのでしょうか。


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■子供にとって邪魔な「大人的価値観」

たとえば、そこの園児は卒業までの3年間で約2000冊の絵本を読破するらしいです。大人だって、年600冊以上読む人は希でしょう。

テレビではそれにも「すごーい!」と歓声が上がります。事実としてたしかにすごーいのですが、それが子供のためになるのかというと、そうじゃない気がします。

だって、子供って、ほっといたら同じ絵本を何十回も繰り返し読むじゃないですか。新しい絵本を買ってあげても、お気に入りの本を刷りきれるまで読むみたいな。ママに読んでもらうのに飽きたら、パパに読んでもらったり、おばあちゃんに読んでもらったり。

何度も何度も読み聞かせてもらい、自分でも読んでみて、そのたびに笑って、泣いて、怒って・・・。大人にはまねのできない読書法ですよね。

そうやって、何度も読み返しては、そのたびに新しい発見をしたり、新しい感じ方をしたり、別の解釈をしてみたり・・・ということをして想像力を膨らませたり、言葉の感覚を体に染みこませたりしているんじゃないかと思います。

でも、その園では、「同じ本を何度も読むよりも、たくさんの本を早く読んだ方が偉い」という大人的価値観がはびこってしまっています。

最短時間で最大効果を上げることをよしとする「大人的価値観」あるいは「資本主義的価値観」。子供にとってじゃまなものさしじゃないかと思うのです。


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■読んだ本の数よりもどれだけ味わい尽くしたかが重要

つい自分を盛ってしまう人というのがいます。嘘や詐欺ではないにしても、学歴であれ、ビジネス上の業績であれ、社会貢献であれ、ついわかりやすい派手な成果を求めてしまう人というのがいます。

それは人から認めてもらいたいからであり、そうでないと自分で自分自身を認めることができないという脆さの証でもあるといえます。

そういう人は、不安を隠すために学歴や実績で重武装化を続けるのではなく、自分で自分を認める賢さを身につけたほうがいいのではないでしょうか。他人と比較せず、「自分は自分」と正々堂々としていられる人がいちばんすごいと思います。

世界トップレベルの教育を受けても一生時間に追われていたり、一生かけても使い切れないほどの富や名声を得てもなお不満ばかりを口にしている人たちよりも、学歴も財産はなくても「俺は幸せだ」と言って、自宅の居間で焼酎のお湯割りをしみじみ味わえる老人のほうが生き物としてたぶん賢いんだと思います。

絵本を読むにしても、どれだけたくさんの絵本を読むかではなく、それぞれの絵本をどれだけ味わい尽くしたかが大切ではないでしょうか。それが人生を味わい尽くす才能にもつながるのではないかと私は思います。

※この記事は全国のFMラジオネットワークJFNの「OH! HAPPY MORNING」のコラボ企画です。記事の更新は隔週木曜日10:30am。記事更新の約10分前から、おおたとしまさがこのラジオで記事と同様の話をおしゃべりします。

(文/おおたとしまさ

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