トイレから見る人類史 ルイ14世はおまるで用を足していた
トイレの歴史は、人の歴史である。
人間は物を食べる以上、それを出さなければならない。だからこそトイレというものが必要になるのだが、排泄物の処理は非常に手間がかかる。人類は手にしたテクノロジーを、常にトイレの開発に費やしてきた。
そういう意味で、「トイレは人類の鏡」と言っても過言ではないのだ。
■おまるに腰掛けながら、謁見を行なう国王
古代ローマ帝国は、人類史上初めて本格的な水道建設を行った。これはもちろん、都市部の市民に生活用水を提供する目的である。
だから古代ローマ帝国の諸都市には水洗トイレがあった。排泄物をそのまま川に流すという単純なものではあるが、それでも「都市衛生」という概念を古代ローマ帝国は持っていたのだ。
だが、時代が進むにつれてそうした概念は衰退していく。
たとえば、フランスにルイ14世という王がいる。彼は17世紀中葉から18世紀にかけての人物だが、当時のヨーロッパの建物にはトイレ自体がないのが普通だった。
ルイ14世は父が造ったヴェルサイユ宮殿を増築させた人物だが、その頃の宮殿にはまだトイレがなかった。彼は慢性的な下痢を抱えていて、要人との謁見の際には椅子型おまるに腰を掛け大便をしながら会談を行っていたと伝えられている。
なおその椅子型おまるは、今もヴェルサイユ宮殿に保管されている。
■パリは人糞まみれだった
国王がこのよう状態だから、一般市民はさらに悲惨だ。いわゆる「野グソ」という行為は、パリ市民の間では日常の行ないだった。
アール・ヌーヴォーの代表的画家トゥールーズ・ロートレックが野グソをしている写真もあるが、彼が生涯の題材としていたムーラン・ルージュの女性たちはやはり手持ちの小型おまるで用を足すのが普通だった。
当時日本から来た国費留学生はフランスのトイレ事情の劣悪さに呆れ果て、その失望感を手記に書いていたりもする。
そもそも、日本は昔から「トイレ先進国」だったということを忘れてはいけない。水洗トイレはなかったが、それは人糞を畑の肥料として使うためであった。
■排泄物がもたらす現金収入
今月公開予定の映画『殿、利息でござる!』は、一言で言えば庶民が武士に金を貸し付けるという話だ。これは仙台藩の話だけではなく、江戸時代の武士はそれだけ資金面で苦しんでいたのだ。
そんな武士が困窮を少しでも和らげるために頼りにしていたのが、「排泄物の売却」である。今もそうだが、汲み取り式便所のある家庭には汲み取り業者がやってくる。江戸時代当時は慢性的な肥料不足が発生していて、人糞は高値で売れた。
武士は給料を米でもらっていたが、便所の中の人糞は現金収入をもたらしてくれた。野グソなどは、道路に金を捨てるかのような愚行であったのだ。
トイレの発達史は洋の東西の違いまでをも映し出している。
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