川奈まり子氏、AV女優・男優の人権を守る団体を設立へ

社会

2016/06/25 06:30

川奈まり子2

NPO法人ヒューマンライツ・ナウ(HRN)の報告書をきっかけにさまざまな議論が拡がっていた「アダルトビデオ(AV)への出演強要」問題。

今月11日には、有名女優も多く抱える大手AVプロダクションの幹部が労働者派遣法違反容疑で逮捕。それを受けて、AVメーカーなどでつくるNPO法人知的財産振興協会(IPPA)は22日に声明文を発表した。

その声明でも触れられているが、AV業界の中からも健全化を求める動きが加速している。プロダクションもメーカーも、その気持ちはあったが具体的な策を今まで講じてこなかった。そして今回の事件を受け、自主規制をきちんとやろう、という話になったのだ。

元AV女優で作家、しらべぇコラムニストでもある川奈まり子さんは、AV出演者の人権保護団体を設立しようと活動している。IPPAもこの動きに協力しており、メーカーを通してフリーで活動している女優・男優にも声がかけやすくなったという。

団体の目的、AV出演者の現状や今後について、川奈さんに話を聞いた。

 

■AV出演者は労働者か?

AV女優は個人事業主であり、プロダクションと業務委託契約をしている。フリーランスの女優も存在し、また男優はほぼすべてがフリーの立場。

しかし今回、逮捕者が出たプロダクション幹部の容疑は「労働者派遣法」違反。つまり警察は、AV女優は「プロダクションがメーカーの撮影現場に派遣した労働者」と認めたことになる。労働法制は、仕事の実態で判断されるためだ。

しかし、川奈さんは、

「雇用関係のある労働者ではなく、本来の『個人事業主がマネジメント業務をプロダクションに委託する』という形をはっきりすべき」

 

と訴える。そのために必要なのは、出演者自身が「自立した表現者」であることを自覚し、主体的に契約を結ぶことだ。

 

■労組ではなく「表現者の人権を守る団体」を

今回作る団体を、労働組合にはできない理由がいくつかあるという。その大きな理由のひとつは、労基法の9条「労働者性の条件」だ。職業安定法63条第2項に、

「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者」

 

は懲役または罰金に処する、とある。そして、AVは「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」に当てはまってしまう。本番行為があるから処罰対象なのではない。

川奈:AV女優が「表現者」でなく「労働者」だとすると、性的な目的を持ちうる媒体に出る時点で、「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」になってしまいます。

本番行為うんぬんの問題ではなく、たとえば、服の上から胸を揉んだって路上でやれば犯罪。つまり、「性労働か表現活動か」がポイントなのです。

 

自分の自由意志で出演し、出演料を得る。労働ではなく表現活動の一環であることを確立し、AVの出演者から「労働者性」を完全に払拭する必要があるという。

 

■守られるべきAV出演者の3つの権利

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川奈さんは、「団体を作ることによって3つの権利を守りたい」と語る。

川奈:第一は人権。プロダクションに所属することが「雇用関係を偽装」するようであっては絶対にいけません。本来の「個人事業主による業務委託契約」であることを、もう一度はっきりすべき。

 

実際、AV業界内でも「AV女優を管理」していると認識されている部分があり、業界全体の体質改善が必要です。

 

そのために出演者とプロダクションが取り交わす「業務委託契約書」のひな型を作ります。同じく、対メーカーの契約書・出演同意書を用意して、NG項目などを自分の意思で確認・決定できる権利を出演者自身に認識してもらいます。

 

第二は、活動する権利。

川奈:AV=悪になってしまうと、やりたくてやっている人の活動場所を奪ってしまう恐れがあります。映像に出演する表現者としての自由と権利を守りたい。

 

そのため、「AV出演マニュアル」のようなものを検討しています。出演するにあたっての心構えや意識の持ち方をまとめたものです。

 

AV出演のかたわら、風俗店に勤務する女優さんもいます。でも、映像に出演する時間は「セックスワークではなく表現者としての自覚」を持ってほしいのです。

 

そして第三は、生存権。

川奈:AV関係者は、根強い職業差別を受けます。たとえば、夫(AV監督の溜池ゴロー氏)がAV制作会社としてオフィスを借りようとしたら、なかなか審査を通らないでしょう。女優さんが家を借りるときも同様です。

 

出演者は個人事業主であるがゆえ、守ってくれる人も相談する相手もいない。差別を受けても、問題をひとりで抱え込んでしまうことが多いのです。

 

■AV出演者の尊厳をおとしめない「相談窓口」を

AV女優や男優には、同業の友人がいることも多い。しかし、いない場合も少なくなく、個人事業主という立場はきわめて孤立しやすいという。

川奈:仮に撮影現場でトラブルが起きたとしても、プロダクション社員であるマネージャーがメーカーとの関係を断ち切ってまで女優の味方をしてくれるとは限りません。だから、私たちが立ち上げる団体では、「AV出演者の相談窓口」も用意する予定。

 

現状、相談を受け付けている窓口もありますが、中には「AV出演は売買春の一形態であり違法」「有害危険業務だ」と主張する団体もあります。

 

これでは、相談しても逆に「私が犯罪行為をしていることが問題で、原因は私にあるんだ」と相談者を傷つけることにもなる。

 

川奈さんは「AVは完全に合法」という立場。「こうした団体を立ち上げること自体を邪魔だと感じる人もいるかもしれない。だが、曲げる気はない」そう語っていた。

 

■出演強要問題を「AV産業が悪」という問題にしてよいか

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AV出演強要問題は大変な問題だが、「AV出演は違法で有害危険業務」「AV女優の実態は個人事業主・表現者ではなく労働者」といった考えが広まることは、差別意識を強める恐れがある。

「被害者を救済する」という思いが、逆に出演者たちを傷つけ、追い込むことになっては本末転倒だ。

ただ、川奈さんは「今回の件はいいきっかけになる」と話す。問題が起きないとなかなか動かない業界。出演者と労働者性を改めて見直すことができるからだ。

そして団体設立のスピードアップを目指すという。プロダクションやメーカーへの働きかけを含め、できる限り早く進められれば。そう語った。

(取材・文/しらべぇ編集部・たつきあつこ)

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