相模原大量殺人で「精神障害=犯罪」のイメージが広がる懸念

2016/07/27 18:00

画像は佐藤秀峰Facebookのスクリーンショット
画像は佐藤秀峰Facebookのスクリーンショット

相模原市の障害者施設で19人を殺害した犯人の入院歴が、NHKをはじめ各局で盛んに報道されている。

しかし、これが「精神障害者は犯罪を起こす」という誤ったイメージに繋がり、障害に苦しむ人への偏見が増すのではないか、と懸念されているのだ。



 

■精神障害者の犯罪率

最新のデータを紐解いてみよう。『平成27年版 障害者白書』によると、人口に占める精神障害者・知的障害者の割合は3%。対する『平成27年版 犯罪白書』では、検挙人員に占める精神障害者(知的障害者含む)の割合は1.5%にすぎない。

それぞれ別の調査であるため単純な比較はできないものの、精神障害者のほうが犯罪率は低いと推測ができる。

また、幻覚・妄想を引き起こすことで知られる統合失調症も、厚生労働省によると「100人に1人弱がかかる頻度の高い病気」で、原因もいまだ特定できない。

つまり、誰でも精神障害者になる可能性があるのだ。


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■専門機関や『ブラよろ』作者からマスコミへの要望、懸念の声も

今回の報道について、特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構からマスコミに対し、緊急要望書が提出された。

私たちは、事件の背景・動機などの詳細が不明な段階で、精神障害による犯行とするような報道を危惧しております。


「精神病院に入院」「通院」といった部分記述は、事実であっても、その一文(以下、病歴報道)によって、読者には「精神疾患」が事件の原因であり、動機で あると読まれてしまいます。


その結果、「精神病者(精神障害者)はみな危険」という画一的なイメージ(=偏見)を助長してしまうと考えるからです。


また、大ヒット作『ブラックジャックによろしく』で精神科医療や精神障害者の犯罪について切り込んだ漫画家・佐藤秀峰氏も、Facebook上で懸念と無力感を吐露している。

報道では精神科への入院歴や通院歴が繰り返し伝えられ、精神障害者全体への偏見や差別が広がっています。


ネット上に溢れる事件へのコメントを眺めると、精神障害者への心無い言葉が無数に並んでおり、心が痛みます。


その言葉を発している人たちには、病気に対する理解もなければ、自分が差別をしているという自覚もないように思えます。


病気と事件の間にどのような因果関係があるかは慎重に吟味しなければなりません。病気が事件を引き起こしたとはまだ誰にも断定できないはずです。


(中略)


僕は無力です。

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■活かされない「池田小・児童殺傷事件」の教訓

2001年に起きた池田小・児童殺傷事件でも、犯人の男の精神科通院歴がさかんに報道された。

このことについて、精神障害者側の目線で調査した報告書では「診療中に事件報道の影響と思われる何らかの訴えをしてきた患者さんがいると答えた病院は9割を超え」(※)とあり、人間関係の悪化や治療への悪影響が報告されている。

犯人の、不可解でゆがんだ価値観は理解しがたく、「病気」と結び付ければ納得しやすいのかもしれない。しかし、それは短絡的であり犯罪とは無関係の人にダメージを与えるという事実は見過ごせないだろう。

(※)大阪池田小事件による報道被害に関する調査. 季刊 地域精神保健福祉情報 Review 10巻2号(通算38号), 2002, pp.43-45.

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(文/しらべぇ編集部・伊東宏之

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