「ダークツーリズム」とは?日本にも存在する「悲劇の史跡」
一口に「史跡」と言っても、様々だ。
たとえば、日本各地には城郭史跡がいくつもある。これらは戦国期から江戸期にかけての歴史遺産。「日本には武士と呼ばれる人々が存在した」という証だ。
だが、そうした意味合いとはまったく異なる史跡も。広島の原爆ドームのように、人類が味わってきた悲劇を象徴する場所だ。これらは一般的に「負の遺産」と呼ばれている。
そして、そうした史跡だけを訪れる「ダークツーリズム」が、最近にわかに注目されているのだ。
■ダークツーリズム入門書が登場
このような本が出版されている。
『人類の悲しみと対峙する ダークツーリズム入門ガイド』(いろは出版)は、これからダークツーリズムへ出かけようと考えている人にはピッタリの1冊だ。世界各地にある「悲劇の象徴」を写真付きでまとめた内容である。
原爆ドームやアウシュビッツ強制収容所といった、ユネスコ世界遺産に指定されているものもあるが、この本ではユネスコが目をつけていない場所も積極的に取り上げている。また、世界遺産に指定されたものでも日本人にはほとんど馴染みのない史跡も。
一例を挙げれば、アフリカ西部セネガルにあるゴレ島。ここは近世、アメリカ大陸に向けた奴隷交易の拠点となった。現在のアメリカ合衆国に住むアフリカ系市民は、ルーツを探ればゴレ島から奴隷として出荷されていた場合が多い。
2013年にオバマ大統領夫妻が訪れてたが、ミシェル夫人の高祖父はサウスカロライナ州の黒人奴隷。つまりミシェル夫人の先祖も、ゴレ島の「帰らずの扉」をくぐっていた可能性が高いのだ。
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■この世の地獄
本で取り上げられている史跡の中で、「人間の残酷さ」をとくに実感させられるのはカンボジアのキリング・フィールドである。
40年前、ポル・ポトがカンボジアの政権を奪取した。このポル・ポトの政治思想は、ひとことで言えば「万人の知識レベルが等しくなければならない」というもの。識字ができる者とそうでない者がいれば、レベルを非識字者に合わせる。だからポル・ポト政権下のカンボジアでは、字の読める成人が次々に殺された。
その舞台が、現在はキリング・フィールドと呼ばれている敷地である。この地中には今も、無数の罪なき人々の遺骨が眠っている。
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■日本にもこんな場所が
『ダークツーリズム入門ガイド』には、大久野島も掲載されている。広島県に属するこの島を知っている人は、恐らく少数派だろう。
戦前から戦中にかけて、大久野島では毒ガスが秘密裏に製造されていた。その施設は現在も遺構として残っていて、資料館も建てられている。かつてここでの作業に携わった人は、有毒成分に接触したことで後遺症に苦しめられたという。
平和なはずの日本にも、こうした知られざる負の遺産がある。そこを訪れるのは決して「不謹慎」などではなく、歴史を見つめるための重要な作業であることは間違いない。
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