【とと姉ちゃん】日本商業史を変えた男・花森安治とは

2016/08/19 05:30

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※画像はNHK公式サイトのスクリーンショット

NHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』は、実在の人物と組織をモデルにした物語。

この番組の主人公は、生活情報誌『暮しの手帖』を創刊した大橋鎭子が元になっている。この暮しの手帖という雑誌、敏腕編集長の花森安治の方針も相成り大企業に媚びない誌面づくりで有名だ。『とと姉ちゃん』でもシナリオに組み込まれているが、あらゆる工業製品を独自にテストするという企画は各方面に多大な影響を与えた。

しかもそれは製品の宣伝が目的ではなく、「だめなものはだめ」とはっきり言うための企画だった。



 

■大企業にも遠慮なく

花森安治の雑誌づくりの方針は、「企業広告を載せない」ということに尽きる。

そのため、『暮しの手帖』の製品テスト企画はとにかく容赦なかった。たとえば、電気ミシン。各銘柄ごとに4台購入し、それぞれ1万メートルずつの天竺木綿をひたすら縫う。

ちなみにこの「各銘柄4台」にも細かい内訳があり、半年の時間を置いて2台ずつ購入する。工場生産の安定性をチェックするためだ。

10ヶ月もの期間を要したこの実験で、ナショナル製のミシンが不具合を起こした。ナショナルとはもちろん、松下電器である。暮しの手帖社は松下の技術者を呼んで修理させたようだが、結局状態が改善せず松下はその製品の生産を打ち切ってしまった。そうしたことも、花森は一切の漏れなく雑誌に書いたのだ。

ちなみに花森の長女は、松下幸之助の秘書と結婚している。ミシンのテスト企画記事が世に出たのは、娘の結婚から1年も経たない頃。公私混同は一切しない、という花森の姿勢がよく表れている。


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■「消費者はモルモット」

1968年12月1日刊行の『暮しの手帖』は、今なお語り継がれている。

製品テスト企画のテーマは「食器洗い機」だ。当時、食器洗い機は市場に登場したばかりの新型白物家電。だが花森は、例によって各社の食器洗い機に容赦ない評価を与えた。

この頃の食器洗い機は洗い残しの目立つ不完全な製品で、暮しの手帖社による実験でも「日常的に使用できる」というような結果は得られなかったのだ。花森は怒りを爆発させ、「日立もナショナルも技術者としての誇りを失っている」「消費者はモルモット」と誌面にはっきり書いている。

しつこいようだが、花森の義理の息子は松下幸之助の秘書。だがこれを鑑みると、彼は「企業を敵に回す」のではなく「企業を良くしたい」という一心で文章を書いていたとも言えるのだ。


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■物言う資本主義

花森は、政治的思想を理由にひたすら大企業バッシングをする人物ではない。消費者の立場から「良いもの」と「悪いもの」を仕分けした雑誌編集長である。

「消費者が物言う資本主義」を確立した男といっても決して大袈裟ではない。彼が世に登場していなければ、我が国の経済界の性格はもっと違っていたものになっていた可能性がある。

「不良品を市場に流してはいけない」という発想は、じつはほんの最近になって形になったものだ。それ以前は「不良品は値引きして売ればいい」考えが主たるものだった。ではなぜそのような発想の逆転が起こったのかを突き詰めると、そこに花森安治の存在が出てくる。

この男は、日本商業史を語る上で避けて通れない偉人なのだ。

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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一

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