もっと困っている人が…優しき日本人が深める震災の後遺症

2016/11/11 06:30

家屋の被害状況を確認する職員たち 写真は現地ユーザーより提供
(家屋の被害状況を確認する職員たち 写真は現地ユーザーより提供)

最大震度6弱を観測した鳥取県中部地震から、約20日。

報道の少なさによって、県外からの関心が低い中、ブルーシートが覆う街並みや「赤紙」(応急危険度判定による危険判定)の貼られた壁が、日常を取り戻しつつある被災地に、影を落としている。

なぜ被災地の人々は、支援を求める声を上げないのだろうか。



 

■東日本や熊本の時と比べたら

地震が起きた直後、一部のライフラインが停止したものの復旧は比較的早く、物流に影響を及ぼすほど交通網の被害が出なかったこともあり、物資の供給に大きな混乱はなかったという。

そのため多くの被災者は、「東日本や熊本の震災に比べたら、自分たちは大丈夫だ」と考えた。今もそう感じている人は、多いだろう。

しかし、ガラスや物が壊れなかったわけではないし、屋根が崩れなかったわけでも、壁にひびが入らなかったわけではない。

それでも「命があるけ、大丈夫」「もっと困っとる人もおるだけ」と、気丈に片づけをしたり、屋根に上ってブルーシートをかけたりしている人が、多いのだという。


(ブルーシートに貼られた「赤紙」 写真は現地ユーザーより提供)
(ブルーシートに貼られた「赤紙」 写真は現地ユーザーより提供)

関連記事:お経は誰のために読まれるもの? チコちゃんの解説に心改める人も

 

■割れる住民の意見

「住めんわけじゃないだけ」と言っていた家に「赤紙」を貼られ、今後の生活の場を考えなければならない人。小さな工房や陶芸の窯元を営む人の中には、「もうこれで辞めな、いけんわい」という人も出てきている。

そうした中で、「落ちた物や本を、拾って片づければいい――では、済まないことはある」と、声をあげはじめた人もいる。だがそれはまだ、ほんの一部の人だ。

起きたことを受け入れ「しょうがないが」という人。「どうせ言ったって、誰もやってくれんのんだろう」と、あきらめて自分でどうにかしようとする人。

「ここには来てくれんでも、県全体のためには観光に戻ってもらいたいし…うちらは『大丈夫』『元気です』って、言わんといけんのでしょ」と複雑な心境を持つ人。

そして多くの「自分よりも困っている人もおるけぇ、本当に大丈夫だけぇ」と言い続ける人たち――。


関連記事:スザンヌ、地元を襲った豪雨被害に大ショック 「今夜からまた大雨」

 

■日本のどこででも起き得ること

鳥取県の産業や経済を考えると、確かに復興を後押しするためにも、観光業の回復が最重要事項であることは、間違いない。

地震発生後に起きた、大量の県内観光地訪問へのキャンセルによる損失は、被害のなかったエリアへも経済的な影響を与えている。

国をはじめとする外部からの支援があったとしても、観光業への打撃が長引いて県内の消費活動が滞れば、長期的に見た復興を遅らせる結果になるからだ。

そうした背景の中で、「助けて」と言うべき人たちが、「自分より、もっと困っている人がいる」と言っている――この状態は、鳥取県中部だけのことだろうか?

私たちは、東日本大震災をはじめ、多くの災害からたくさんのことを学んできた。

今回の鳥取中部地震から、死傷者の数が例え少なくとも、「本当の日常」を取り戻すために、やるべきことが多いということを学ぶ必要はないのだろうか?

起きてほしくはないが、どこでも、誰にでも、災害が降りかかる可能性がある。天災の多いこの国では、いつ自分の住む街が、同じような被害に遭うとも限らない。

人を思いやる心があり、互いに譲りあい、「みんな」のために自己犠牲を払う、優しき日本人の姿はこの国の誇りだ。

しかし想像してもらいたい、人を思い、がまんを重ねながら、住めなくなった家の前で「大丈夫」という言葉を口にしてしまう気持ちを――。

西日本の中でも北緯が高い鳥取に、厳しい冬が近づいている。

・合わせて読みたい→風化する以前に関心の低さに懸念 鳥取中部地震のその後

(取材・文/しらべぇ編集部・くはたみほ

Amazonタイムセール&キャンペーンをチェック!

震災東日本大震災熊本地震後遺症鳥取中部地震危険判定
シェア ツイート 送る アプリで読む

人気記事ランキング