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『飛田新地フィールドワーク』の問題点とは 「興味本位」以上に厄介

コラム

飛田新地

■人権学習団体による「飛田新地フィールドワーク」

性産業で働く人々の健康と安全のために活動する団体、『SWASH』メンバーの要友紀子です。

この記事を書くきっかけになったのは、11月23日に人権学習団体『じんけんスコラ』が開催した飛田新地フィールドワークの問題化。

詳細をFacebookに書いたところ、105件のシェア、Twitterでも571人にリツイートされ(11月29日現在)、ネットで炎上しました。

このことを知った飛田で働く人たちやセックスワーカーの方々もSNSでクレームを発信し、じんけんスコラに批判が集中。

そして、研究者や書き手や作り手の間では、特定団体の不祥事問題に留まらず、当事者論や方法論についての議論へと発展していきました。

それは、「もし自分の研究や取材や作品が、当事者から迷惑だと言われたらどうするか」というリアルな関心です。

 

■何が問題なのか

今回の人権学習団体による飛田フィールドワークについて、私たちSWASHメンバーらが1年に渡り一貫して要請してきたことは、「働いている人たちが嫌な思いをするリスクを避けること」です。

「働いている人やお客さん以外が、興味本位や見物目的で飛田をうろちょろしたりじろじろ見ていたら迷惑がられることが多い」ということを、メンバーらが飛田の現場の方々などから異口同音に聞いたことがあり、もはや周知の事実でもありました。

もちろん飛田で働く人々すべての声を確認したわけではないので、どれくらい多くの人がそう思っているのかはデータで表せませんが、よく聞かれる事実であり暗黙の了解です。

ここで、押さえておいてもらいたい重要ポイントがあります。それは、「飛田で働く人々の中には、興味本位や見物目的で見に来る人を迷惑がる人がよくいるらしいから、飛田フィールドワークをしてはいけない」という短絡的解釈について。

この見解の立場に立つと、研究や学習のための飛田見学は倫理的にぜんぶ認められないのかという問題が生じます。

 

■当事者への意思確認が必要だった

当事者といってもいろいろな意見があり、全員が全員、「見学目的・興味本位で来られるのはお断り!」というわけではないと思います。また、そのイヤ度合いも人によって差があるでしょう。

反対に、「見学だけでも研究目的で来ても気にしないよ」っていう人もいるかもしれません。

「場所や時間帯など条件次第でOK」という人もいれば、「相手の人柄やバックグラウンドによる」「関係性による」「謝礼の額による」「目的による」「やり方による」「性別による」「客になる潜在的可能性による」「コミュニティへの貢献度・還元度による」「金儲けのためのダークツーリズムでなければOK」などなど、いろんなレベルでのイヤがありOKがある。

また、「最初は快く受け入れたけど、その後の関係性が悪化したので、研究やフィールドワークの協力を撤回したい、原状回復を求めたい」という場合もありえます。

だからこそ私は、飛田フィールドワーク開催5か月前の今年6月の時点でも、人権学習団体の事務局宛てに、「見学にいくなら、ちゃんと当事者の人々に、『こういう目的で見に行きますが、いいですか? 嫌じゃないですか?』と、お伺いをたててから行くのが筋」とメールで進言してきました。

なので、今回の人権学習団体がまずかった大きなポイントのひとつは、見学目的で飛田に行くこと自体というより、「見学目的で飛田に行く前に、働いている人々や現場との調整や交渉を怠り、当事者に嫌な思いをさせるリスクを回避する努力をしなかったこと」です。

今回の飛田フィールドワークの何が問題なのか、まだよくわからないという方は、「新宿二丁目フィールドワーク」を事例にした松沢呉一さんの解説をお読みください。

 

■画一的な視点が生む弊害

今回のじんけんスコラは、学習のやり方うんぬん以前の問題が多かったという事情もあり、伝えることができた懸念は上記の内容に限られてしまいました。

しかし欲を言えば、さらにもう一歩踏み込んで考えてもらいたいことがあります。

もし仮に一般的な話として、人権団体や慈善団体が現場との調整や交渉を行った上で、当事者らの了解のもと、性産業のフィールドワークを実施するとしたら「何も問題はない」と言えるのでしょうか?

もしそれが、「セックスワーカーに対するステレオタイプな見方や関心しか持ったことがない人々」によるものだとしたら?

私はこうした人権系や教育系のフィールドワークやスタディーツアーにいくつか参加したことがあります。

少数民族や被差別部落の人々の住む地域をまわったり、性暴力被害者がスタディーツアー参加者らを前に、涙を流しながら過去のことを思い出して具体的な被害を話すという内容のものや、障害者の人たちが働く施設を訪問し見学するものなどです。

 

■感動ポルノや差別の助長にも

こうした人権系・教育系のフィールドワークやスタディーツアーでは大概、目に映る現実をそのまま見せっぱなしで、現実の理解の仕方を参加者に丸投げしていました。

「社会的弱者や当事者たちの現実や姿を見て、あとはそれぞれが感じたり考えたりしてください」という終わり方。問題の捉え方を話したとしても、正しい理解を促すには無理がある短いコメントのような微々たるものです。

少数民族や被差別部落の地域や待遇が他の地域に比べて長らく悪条件であること、性暴力被害者の凄惨な被害経験と被害者の流すたくさんの涙と苦しむ顔、障害者の人たちが勤労している姿。

こうした当事者たちの現実や姿は、主流メディアの影響にどっぷり浸かったスタディーツアー参加者たちにどういう感想や思考をもたらすと思いますか?

「感動ポルノ」で終わったり、当事者に対するステレオタイプのイメージや感想を増幅させて終わる結果が容易に想像できます。

反対に、もし、少数民族や被差別部落の人々が他の地域の人々と同じ生活水準で好条件で暮らしていたり、性暴力被害者が涙を流さずに淡々とした印象で被害経験を話したり、障害者の人たちが勤労する姿ではなかったならば、また違った感想や思考になるのではないでしょうか。

いずれも、参加者の間違った理解が想定でき、間違った理解がどのように当事者への抑圧に繋がるか、傲慢な見方はどのように作られるのかなど、差別を助長しないための議論をする時間が必要です。

 

■参加者が抱きがちな感想は…

大事なことは、「知った現実をどう理解すればいいのか」を知ることであり、スタディーツアー主催者は、参加者の受け取り方に最後まで責任を持つ必要があります。

もし性産業の現場でそのような市民向けのフィールドワークやスタディーツアーが行われるとしたら、参加者がどのような感想を持つか、容易に想像がつきます。

中高年であれば、同情と救済のまなざし。若者層であれば、自業自得とか自己責任論の影響を受けた感想が入る傾向があります。

同情と救済系の感想としては、「ほかの仕事に就けるように就労支援しなきゃ、就労格差をなくさなきゃ」「賃金格差をなくさなきゃ」「保護更生させなきゃ」「教育格差、文化格差をなくしてシングルマザー支援しなきゃ」「奨学金返済義務をなくさなきゃ」「買春文化をなくすべき、買う男が悪い」といったものが多くなるでしょう。

自己責任系では、「危険な仕事だとわかっててやっているのだから性感染症に感染しても自業自得」「資格取るとかなぜもっと努力しなかったのか」「差別があるのがわかって選んだ仕事なら差別されてもしょうがない」といった感じです。

同情・救済系の感想も、自業自得・自己責任系の感想も共通しているのは、セックスワーカーに対して、「あなたはそのままでOKではない」「あなたは社会の正規の成員として不完全な存在」という捉え方をしていること。

当事者支援の普遍的なテーゼである当事者エンパワメントの真逆をゆくどころか、両者の感想が述べるところの課題への一歩を踏み出すためにも必要なエンパワメント=自己肯定感を踏みにじることになります。

 

■ダークツーリズム以上に厄介

主催者がセックスワーカーの安全や人権と法規制の関係について考えたこともない人たちであれば、参加者たちも、売春防止法や風営法がセックスワーカーの労働条件や労働環境をどのように規定し、被害や差別の問題に繋がっているのか、問題意識の持ちようがありません。

法的・社会的なセックスワーカーの被害の問題、国や社会の人々の不作為の問題については、主催者が伝えないと理解されづらいのです。

このような人権系・教育系の性産業のフィールドワークやスタディーツアーは、怖いもの見たさやアングラ好きの商業的ダークツーリズムよりも厄介な問題を抱えている。

それは、前者の参加者らは上述したステレオタイプのセックスワーカーの課題の数々を問題意識として持ち帰り、セックスワーカーの保護更生や風俗規制強化、買春禁止政策を啓発する担い手を生み出す可能性を秘めているからです。

 

■「課題解決」だけでは不十分

ステレオタイプな課題解決のみの問題意識を持たれることが「なぜ問題なの?」と思う方のために、わかりやすい図にしてみました。

SWASH

これは世界のセックスワーカー団体を「人権支援の特徴」で分類したもの。こうした団体は世界で500を優に超えるので、図で挙げているのはほんの一部です。

セックスワーカー当事者運動の特徴としては、当事者の様々な課題やニーズに応えつつも、社会の主流秩序的な達成目標については、これらが生み出す他への抑圧や不平等の是正に関し、平行して意識的に取り組んでいるところがポイント。

課題解決型だけでアドボカシー活動(差別解消など)がないと、セックスワークの差別偏見を助長/利用される傾向があります。

最近新しくできたAV出演者たちの人権擁護団体AVANも、SWASHと同じく「課題解決型+アドボカシー」という分類に入るでしょう。

 

■貧困ポルノに対する行動規範

セックスワーカーもよく素材として使われることが多い貧困問題の取り上げ方として、「貧困ポルノ」の問題があります。

貧困ポルノとは、アンダークラスの人々の悲惨でかわいそうなステレオタイプな物語・ネガティブなイメージによって、人々の同情やカタルシスを誘い、差別の助長や搾取を伴う作品やメディア、行為のこと。

貧困ポルノにおけるセックスワーカーの役割は、貧困問題の深刻さを際立たせるため、スティグマ(負の烙印)の強い、できる限り絶望的な存在として登場させて、説得力を持たせる。あるいは人々の注目を得るものがよく見られます。

こうした問題について、対策が講じられる動きもあります。CONCORDは2006年に、「イメージとメッセージに関する行為規範」を作成し、ステレオタイプで差別的なイメージの回避、関係者らの感情と尊厳、コミュニケーションの尊重などを訴え、2012年にはDochasがこの行動規範の具体的な方法と実用例を開発しています。

日本で貧困ポルノに対する警鐘で記憶に新しいのは、アンダークラスの人々のルポで有名な鈴木大介さんが今年6月に発表した記事

貧困問題の取り上げ方、取材のやり方、受け手側の受容のされ方やリテラシーの限界問題を取り上げ、じつに有意義で重要な告発をしています。

この記事も見ても、メディアも人々も自分が受け入れやすい当事者だけを選んで注目し、自らの差別心を顧みないどころか、むしろ補強する作用が働く危険があることがわかります。

 

■アート×歓楽街×性産業

最後に、人文・社会・政治系の人々だけでなく、アーティストや映画監督の方にも、セックスワーカーの問題に詳しくなって頂きたい理由があります。

写真家や芸術家、映画監督の中には、セックスワークの世界に引き寄せられる方が少なくないようです。

それは、人々が顔をしかめたり眉をひそめるような世界だからなのかわかりませんが、そのような世界を一緒に守ってもらえないでしょうか。少なくとも、そのような性の世界が潰されることには加担しないで頂きたいのです。

アーティストや作り手は、どんな弊害を招こうが自分が表現したいこと、世界観の表現がすべてで第一だと思っていらっしゃる方も一定数いるようです。そのせいか、近年も写真家やアーティストによるセックスワーカーを脅かすアートと開き直りが連発しました。

しかし、セックスワーカーへの脅かしを容認する社会は、アートの表現の自由への脅かしを容認する社会でもあります。

互いにその存在や権利は守られなければならない存在で、脅かされてはならないと思います。どちらが弾圧にあっても、両者ともが成立しにくくなるでしょう。

例えば、黄金町バザールのように、アートによる街づくりという名のもとに、移住労働のセックスワーカーたちがたくさん立ち退きにあい、そこでは(作品においても)性を排除した形でのアートが推進されています。

やがては無機的などこにでもある、健全な家族のための街となるための浄化の途中として、アートが利用され性の排除が行われているのです。

 

■映画でも見られるステレオタイプ

アンダークラスの若者たちや移住労働者のリアルを描き、人々に資本主義社会の矛盾を突き付け、若い労働者たちからも定評のある空族の新作映画でさえ、残念ながらセックスワーカーたちをステレオタイプでネガティブに描いてしまう限界が見られました。

制作者は、「性産業をなくし健全化を図りたい街の婦人団体や、青少年健全育成に資することは意図していない。主題は別のところにある」と考えているかもしれません。しかし…

・日本各地の歓楽街がこれだけ浄化され、衰退させられることを受容するこの社会の空気の形成は、どこからやってくるのか?

 

・アンダークラスの若者の居場所はなぜなくなり、若者にとって息苦しい世界がどのようにして出来上がっているのか?

 

・夜の世界の人々のステレオタイプでネガティブなイメージが氾濫し、夜の世界の人々がエンパワメントされるような文化や活動がないこととの関連は?

 

映画をつくる方々は、このような問いを考えてみてもいいのではないでしょうか。

セックスワーカーを題材にするクリエイターの方々は、ぜひ機会があれば、海外の何ヶ国かで毎年行われているセックスワーカーフィルム&アートフェスティバルで、画一的ではない数多くの作品に触れてみてください。

そして、こうした問題に詳しくなりたい、支援に役立つ勉強をしたいという方のために、SWASHでは2017年春頃に「セックスワーカー支援者研修(仮)」を予定しています。

・合わせて読みたい→AV女優の人権を守るために一般からの支援を AVAN代表・川奈まり子氏に聞いた

(寄稿/SWASH・要友紀子

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