【おんな城主直虎】最強の戦国女子を育てた龍潭寺の「小宇宙」
井伊直虎を育てたのは禅寺である。
禅は中国発祥の仏教宗派だが、じつは中国ではあまり浸透しなかった。その理由は後述するが、禅寺という所は非常に厳しい戒律が存在する。
『おんな城主直虎』でも、寺に入った直虎(おとわ)は容赦なくしごかれた様子が描かれた。地元の領主の娘だから特別待遇、ということは一切ない。少々いい加減な性格の和尚に見守られつつ、寺の戒律にがんじがらめの生活を送った。
だが、それが最強のおんな城主を育てたのだ。
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■豪族と菩提寺
JR浜松駅からバスで約1時間。井伊氏の菩提寺である龍潭寺には、連日観光客が押し寄せている。
龍潭寺があるのは、緑の中。覆い茂る木々をすべて切り倒すことなく、まるで古来からある自然と共生しているかのような佇まいだ。山門をくぐると、そこにあるのは荘厳な空気と目を見張るような寺社建築である。
井伊氏は龍潭寺と共に存在した。戦国時代の豪族は、必ず地元の宗教勢力と結びついていた。
だからこそ寺の和尚は軍参謀としての役割を与えられていたのだが、南渓和尚が16世紀中葉の人物だったことは結果として井伊氏に幸運をもたらす。菩提寺住職の軍略手腕は、その土地の支配者の運命を左右するのだ。
また、そうした住職の下で教養を積み重ねた直虎は、図らずも城主としてのスキルを磨いていく。
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■禅は日本で開花した
冒頭で「禅は中国ではあまり浸透しなかった」と書いた。
その理由は、簡単に表せば「掃除をしなければならない」からだ。
禅を日本にもたらした道元は、本場中国の禅寺で修行をしていたことがある。そこで彼が見たのは、「高僧も雑用仕事をしている」という光景だった。
中国は、今も昔も儒教が浸透している国。儒教では「聖人は下々の者と同じ仕事をしてはいけない」という教えが存在する。便所掃除など位の低い者にやらせておけ、という発想だ。だから儒教社会では厳格な学歴間格差が発生する。
しかも儒教には「男女七歳にして席を同じゅうせず」という言葉がある。これに従えば、男性教師が女子児童を教えるということもできない。禅寺は、そのような考え方を乗り越えた先にある。だからこそ「おんな城主」を輩出することができたのだ。
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■緑の小宇宙
龍潭寺の見どころは、国指定の名勝でもある庭園だ。
造園されたのは直虎の時代よりさらに下るが、全国有数の寺院庭園として非常に有名である。決して広くはないスペースに、地上のあらゆる風景を表現している。
禅の世界観は奥深く、その修業は一生涯をかけて行うもの。だがそうであるが故に、禅を表現した庭園は「発見の種」に満ちている。
ここはまさに「緑の小宇宙」なのだ。
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