国際的非難のインドネシア「ナチスカフェ」がついに閉店
アドルフ・ヒトラーのナチスに関する話は、欧米ではタブー視されている。
この話題を口にする時は、相応の覚悟と勇気が必要だ。ヒトラーは今も生きている。人類文明が生み出した最悪の独裁者は、現代でも人々の深層心理の中に存在するのだ。
だが、ナチスの影響が少なかった地域では「ヒトラーへの憧れ」が表面化してしまっている。
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■右手を挙げて敬礼する店員
インドネシア・西ジャワ州の州都バンドゥン。高原にあるリゾートシティとして有名だが、この町の中心部に『ソルダテン・カフェ』という店があった。
とくに変わり映えのない飲食店だが、その内装が世界を騒がせた。ナチス時代のドイツのポスターに装備品、そしてヒトラーの肖像画。店員は鉤十字の腕章をかけ「ハイル・ヒトラー」と挨拶をする。さらに大戦期のキューベルワーゲンで乗りつけた親衛隊員が連日集まり、ミリタリー談義に花を咲かせる。
インドネシアは大戦中、ドイツとの直接的な関係はなかった。そのため、ナチスの行った犯罪があまり知られていない。もちろんアドルフ・ヒトラーという人物が誰かは知られているし、インドネシアにも第二次大戦時の兵器が大好きなミリタリーマニアがいる。
ところが、アンネ・フランクという少女の名前と顔はほとんど周知されていない。
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■アンネって誰?
しらべぇ編集部では、日本に語学留学するインドネシア人大学生に「あなたはアンネ・フランクを知っているか?」と質問をした。すると返ってきた答えは「知らない」。さらに、
「私だけではなく、他の学生も知らないと思います。その人(アンネ)のことを学ぶ機会は、インドネシアにはありませんから」
これが全体の総意ではなく、学生の所属する学部によって反応は違うが、「アンネ・フランクを知らない」ことがインドネシアでは「非常識」と見なされない点は確かだ。
インドネシア最大の書籍チェーン店『グラメディア』に行っても、世界的ベストセラーと言われている『アンネの日記』を見つけることはできない。それは「日記がインドネシア語にローカライズされていない」わけではない。単に「需要がない」のだ。
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■気になる「閉店理由」
そういう市民感覚だから、バンドゥンのソルダテン・カフェが問題になるとは誰しも考えていなかった。欧米のメディアが問題視して、ようやく現地でも話題になったレベルだ。
それでもバンドゥン市は国際世論を意識し、ソルダテン・カフェの店主と話し合いの場を設けるなどの措置を講じた。その間にもカフェの閉店を求める国際的な圧力があり、一度シャッターを下ろす。その後、弁護士を立てて再開にこぎつけたものの、「店舗の立地が好ましくない」という理由で再び店を閉めた。
もちろん、上記の閉店理由はあくまでも「公式発表」。実際は世界各地から非難が相次ぎ、営業できなくなったのではという見方もある。だが店主は今も前向きで、ソルダテン・カフェ再開のための出資者を募集しているという。
一時は外国人観光客が集まるバリ島の繁華街への出店を考えていたほどだから、もしかしたら近いうちにソルダテン・カフェがバンドゥンの街並みに戻ってくるかもしれない。
当然、その暁にはさらなる国際的非難が待っているはずだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一)