米大統領補佐官就任のマクマスター氏は「中東最強の戦車指揮官」
ドナルド・トランプ米大統領は、明らかに「渦中の人」である。
そのトランプ大統領は先ごろ、安全保障専門補佐官にハーバード・マクマスター陸軍中将を指名した。
このマクマスター氏は、世界戦争史上においても極めて重要な人物である。彼をひとことで言えば、「中東最強の戦車指揮官」だ。
■戦車の役割
戦車という兵器は、初登場当時は歩兵を支援するためのものだった。
言わば「動く要塞」であり、歩兵とともに敵陣地へ突撃するというのは今と一緒だが、打撃力の中核はあくまでも歩兵。そもそも、第一次大戦当時の戦車は火力も実用性も低かった。「歩兵のプラスアルファ」としての任務しかこなせなかったのだ。
だが第二次世界大戦を迎えた時、戦車は大幅に進化。突撃や陣地攻撃の主役は戦車になり、歩兵はそれを援護する役に入れ替わった。そしてその中で、何人もの超人的な戦車指揮官が登場する。
2015年に亡くなったオットー・カリウスは、エストニア・ナルヴァ戦線で歴史に刻まれる活躍をしたドイツ軍戦車指揮官だ。彼はたった2両のタイガー1戦車を指揮し、ソ連軍の侵攻を数日に渡って阻止。その間に30両以上もの敵戦車を撃破した。カリウスはあの宮崎駿氏とも交流があったことでも知られている。
他にもドイツ軍にはミヒャエル・ビットマンやヘルムート・ヴェンドルフ、ヘルマン・ビックスなどの「数両の戦車で数十両撃破」という戦歴を残した戦車搭乗員が存在する。それだけ当時のドイツ軍はあらゆる場面で戦車を活用していたのだ。
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■湾岸戦争で大活躍
長い前置きになってしまったかもしれないが、軍人としてのマクマスター氏はカリウスやビットマンに並ぶ戦車指揮官である。
1991年に発生した湾岸戦争は、アメリカ軍の機甲師団が中東という広大なエリアに展開した出来事でもあった。ジャングルでのゲリラ戦が中心だったベトナム戦争とは違い、あまり遮蔽物がない平野での機動戦を両軍が展開したのだ。
その中で、当時陸軍中尉だったマクマスター氏率いる装甲騎兵中隊「イーグル」は大活躍を見せた。とくに湾岸戦争終盤の73イースティングの戦いでは、わずか9両のM1A1エイブラムス戦車で20両以上ものイラク軍T72戦車を破壊。イラク軍は反撃のための能力を一気に喪失してしまった。
これについてはM1A1エイブラムスとT72の性能差が露呈した面もあるが、何より1秒たりとも無駄にしないマクマスター氏の判断力が戦況を左右した。また、これをきっかけにイラク軍の士気が大きく低下したことにも注目すべきだ。
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■軍人は尊敬される
所属政党が共和党・民主党に限らず、アメリカでは戦歴のある軍人が尊重されている。
今や野党に回った民主党にも、かつてダニエル・イノウエという人物が所属していた。日系二世のイノウエは大戦中、志願してアメリカ軍に入隊してヨーロッパ戦線に向かう。当時の日系人部隊は軍から消耗品の如く扱われていて、常に激戦が繰り広げられている場所へ派遣されていたのだ。
イノウエはドイツ軍との戦闘の中で右腕を欠損。だがそれと引き換えに、彼はドイツ軍の機関銃座をいくつも破壊し、友軍を勝利へ導いた。
そんな経歴を持った議員は、同時に絶大な発言力を有している。イノウエは初めて連邦議会議員になった際、聖書に右手を置いて宣誓することができなかった。先述の通り、ドイツ軍との戦闘で右手を失くしたからだ。それを目の当たりにした他の議員は、イノウエに対して敬意を払うしか選択肢がなくなる。
マクマスター氏も、まさにその位置づけの人物。トランプ大統領は「国家の英雄」を側近にすることで、自身の発言力に肉付けをしているとも受け取れるのだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一)