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AV業界の問題は「現場の中からの変化」を 川奈まり子・青山薫教授が激論

昨年から注目を集める「AV出演強要問題」について、神戸大学・青山薫教授とAVAN代表の元女優・川奈まり子氏が対談。

社会

川奈まり子

AV実演家の人権を守る一般社団法人『表現者ネットワークAVAN』を立ち上げた、元女優で作家の川奈まり子氏。

この連載は、川奈氏が、性表現や女性の人権などについての専門家との対談を通して、AVや日本の性が抱える問題点に光を当てる対談企画だ。

3回目となる今回の対談相手は、ジェンダーやセクシュアリティを専門とする社会学者で、神戸大学教授の青山薫先生。

 

■AVANのアドバイザリーボードにも参加

青山:私は、会社員などをしていて、研究者になったのは15年ほど前ですが、修士論文から売買春の問題について書いていました。以来、国境を越えて移住する人たちや、セックスワーカーのように社会的に排除されてしまう立場に関心を持って研究をしています。

 

川奈:私が最初、青山先生を知ったのは、アムネスティがセックスワークについて行った発表に対する発言を見たから。

「AV出演者もセックスワーカーのように横の連帯を持たないとまずい」と思って、その後AVANを立ち上げるときにアドバイザリーボードに入っていただきました。

 

青山:ふだんは関西にいるから、なかなか参加できなくて。

 

川奈:関西といえば、先日、京都新聞に取材されたときに、「大阪や神戸にはAV制作会社があるようだが、京都にはないようだ」と聞きました。

IPPAに加盟して倫理審査団体に審査を受けているメーカーが約270社あるのですが、その9割以上が東京に集中しているようです。 IPPAに加盟していないメーカーは、私たちには補足できません。

警察が「3号ポルノ」と呼ぶいわゆる「着エロ」や、先日逮捕者が出たカリビアンコムのような海外配信サイトに作品を提供している企業は、IPPAに加盟しておらず、業界側から見ると仲間でも何でもなく、基本的に繋がりがないので、一緒くたにして叩かれるのはAV業界側では理不尽に感じています。

 

■「強要」という言葉による誤解も

青山:今回のヒューマンライツ・ナウ(HRN)の「AV出演強要」についての報告書で問題のきっかけとされている業者は、IPPAに入っていた?

 

川奈:あの報告書には、5W1Hが入っていないので、よくわかりません。ただ、高額な違約金を求められて訴訟になり、話題となった女優さんは、IPPA加盟メーカーの作品ばかり300本くらい出演していました。

芸歴も長く、だからこそおよそ300本も出演していた、そのすべてが「出演強要」だとされたことに、AV業界側の、ことに件の女優さんを知っている人々は違和感を覚えてしまったようです。   「嫌がることを無理にやらせたことはないのに」 「殴りつけてレイプしたわけじゃないじゃないか」 「撮影現場ではいつもノリノリだったじゃないか」 と、彼女と一緒に働いたことがある制作関係者や共演者を中心に、業界側には不満を溜めて反発を口にする人々が増えてしまったのです。

でも、暴力やレイプが存在していなくても、AV出演強要は成立しうるわけですよね。 「強要」と聞くと暴力とレイプを思い浮かべるのは、業界人に限ったことではないと思いますが、出演「強要」という言葉のせいで、業界側に誤解と反発が生じてしまい、もう少し簡単に片付くはずの問題が複雑化した面があります。

最近では、「出演強要」と言っても、強要罪や強制わいせつ罪が適用されるような暴力的なケースはむしろ少なく、甘言で騙すなどしてAVに出演するように仕向けたり、引退したいのに違約金で縛りつけるなどしてAV女優を辞めさせなかったりすることを「出演強要」と呼ぶのだ、と、業界側でもようやっと理解が進んできました。

 

■「善いAV」と「悪いAV」

川奈まり子

青山:HRNのような国際人権NGOは国連の用語や概念を使っていて、それがAV業界の感覚とは違っているんでしょうね。 最近、政府機関や女性団体なども、性風俗産業や実写ポルノだけでなくアニメなど二次元媒体も女性差別的だとして取り上げていますよね。

こういう全体の流れには、「売春による性的搾取」とともに「過剰な女性の性的描写」、強姦などが出てくるゲームや漫画による「性暴力の常態化」を指摘した、2009年の国連女性差別撤廃委員会の日本政府への勧告が影響していると思います。

そこには、それ以前から焦点になっていた「人身取引による性的搾取」対策の必要性も盛り込まれています。   つまり、国連的な女性差別撤廃の考え方では、暴力的な性描写と現実の騙しや搾取や差別は直接つながっていて、前者を無くさなければ後者も無くならない、ということなのです。

このような「女性差別撤廃業界」とAV業界で、「強要」とか「暴力」とかのキーワードの理解が違っていることには少なくとも2つ大問題があります。

ひとつは「土俵が違い過ぎる」問題。片方は、何しろ描写も現実も地続きなのですから、無理が少しでも見つかればそこに関係するすべての要素が「強要」につながる、という理解になりがちです。ところがもう片方は、「強要」とは悪意に満ちた酷い取り扱いだから自分たちが日常的にしている交渉の中では起こらない、という理解になりがち。

もうひとつの問題は、だからこの2者がこのまま議論しても、実際に何が起こっているかが把握できないこと。私は、AVでも風俗でも何でも、中で働いている人や将来働こうとする人に対する騙しや暴力を防ぐことは非常に重要と思っています。

それには、実情を把握すべきで、とくに「女性差別撤廃業界」はもっと詳しくAV業界から事情を聴いて調べるべきだと思います。すでに強要被害を訴えている人の意見だけに偏らずに。

そのうえで、ですが、AV側も、自分たちの業界が外からどう見られているかちゃんと考えるべきだと思うんですよ。HRNの見解が極端だとしても、たとえば、大手メーカーなどがAVとはIPPAの「審査を受けて制作・販売されるもの」を指すと主張しても、審査を受けていない団体や個人がつくるAV的な作品を世の中の人が「AV」と呼ばないか、というと、そんなことはない。

「善いAV」も「悪いAV」もごっちゃにしているのは、HRNだけではないです。そこの区別を業界外にもわかるよう積極的に打ち出していかないと、将来の見通しが立たない感じがします。

 

■AV業界の掟も変わりつつある

川奈:つい先日、業界有志の要請を受けて、「AV 業界改革推進有識者委員会(以下、改革委員会)」が設立されました。これは法律家からなるBPO的な第三者機関で、AVANやIPPAや主だったプロダクションが傘下に入るのです。

去年の6月頃からずっと私はIPPAと「表現者の権利を守る会合」を最低でも月1回はやってきて、その中で「AVの境界線を引こう」と言ってきました。

境界線の存在を世の中に伝え、境界線のこちら側には明文化されたコンプライアンスを設けて、業界のみんなに守ってもらうのがいいと思っていたのですが、この考えに賛同した業界側の有志が動いてくれて、今回の運びとなりました。

今後はこの改革委員会が定める規則に従って、「適正AV業界」として自律していけばいいのです。   今までも、なんとなく「AV村の暗黙のルール」みたいなものはありました。

それは、AVが生まれてからの40年以上の歴史の中で、「逮捕されるのは嫌だ」「病気になったら元も子もない」などといった素朴で具体的な発想から固まってきた不文律のオキテで、たとえば「出演者の年齢確認は証拠を保管してきっちりやろう」とか「女優にNG事項を確認しよう」とか「性病検査とコンドームの使用を標準化しよう」というものがあります。

オキテもだんだん洗練されてきて、業界全体が次第にまっとうになっていく流れがあり、その中で、AV業界を構成する人々も入れ替わってきました。 近頃では、女性の監督やプロデューサーも少しずつ増えてきたりして……。

 

青山:女性の監督やプロデューサーが増えているのは女性差別撤廃のためにもおもしろいですよね。どれくらいいるんですか?

 

川奈:まだまだ少ないですね。名前を出してる人は監督で10人くらい、それ以外を含めると15人いるかいないか。 日本のAV監督が全体で600人くらいいると言われる中での15人です。

とはいえ、うちの夫は2000本以上AVを撮っていてAV監督だけでも食べていけますが、こういう完全に専業でもやれるという人は少数派で、40人くらいしかいないと言われています。 約600人というのは、AVメーカーに雇われている「社員監督」や、本業は別にあってたまに監督をする人も入れた数字でしょう。

 

■「透明化」という発想が足りない

青山:女性が業界にちょっとでも増えてくることで何か変わりましたか?

 

川奈:女性が入ってきたせいかはわかりませんが、私がこの世界に入ったのが1999年で、女優を辞めたのが2004年。

2000年前後から、大手メーカーSOD社の社長が女性になったり、女性の制作スタッフやプロデューサーが出てきたりと、業界で女性が活躍する範囲が女優とは限らなくなってくるなどの変化がありました。 また、この頃から、「女性が男性を責める」痴女モノAVが増えましたね。

 

青山:女性監督やプロデューサーを意識したから?

 

川奈:というよりは、女性の感覚では「美少女がまぐろのように寝ているだけ」のやられっぱなしのAVは不自然じゃないですか。 痴女モノには、性風俗店のプレイを再現したという面もあると思いますが、女性に勝手にやらせてみたら、女性上位なAVが出来たという側面もあると思いますよ。

あと、「作品内容を女優に伝えてから出演する」という流れが、一般化したのもこの頃です。 私が女優になったばかりの頃は、「出演予定の子が飛んじゃったんだけど、姐さん出てくんない?」と連絡が来て、作品の内容が知らされないばかりか、ギャラも現場へ行って初めて知らされるようなことも珍しくありませんでした。

それが、何本か出演しているうちに、「NG事項のチェックシート」が渡されるようになり、出演合意書や出演承諾書にサインするようになっていったんです。 あの当時は、ほんの数年のうちにどんどん変化して、気がつけば「ずいぶんまともになったな」という感じです。

 

青山:2000年代になって変化があったとして、気になるのは1990年代に問題となったバクシーシ山下監督の『女犯』事件ですが、この事件、業界内ではどう評価されているんですか?

 

川奈:うちの夫は知っていますが、業界内では90年代に起きたことは意外なくらい知られていません。 AV業界の中では「レイプもの・陵辱ものは演出だ」というのが、当時も今も常識とされています。

 

青山:さっきの「描写と現実の暴力が地続き」という考え方だと、演出だとしても表現された暴力が広く世の中の暴力に影響することになるので、業界の常識論だけでは通用しなさそうです。   あの頃、もっと業界を透明に、出てきた一定の批判に耐えうるようにしようという動きはなかったのでしょうか?

 

川奈:『女犯』事件にも関連したメーカーの社長は、「スポーツ保険のように、出演者に保険をかける」と話していましたが、そういうことではないんですよね。保険をかけるのは、台本に沿った演技や演出としてレイプ場面などを撮影しているときに出演者が怪我をしたり病気になったりした際を想定してのことです。

本当にレイプなどをしているわけではないということは業界内ではあまりにも常識になっているので、業界の内側に向けてのケアはしても、外の社会に対すして表現の方法を見せていく「透明化」するという発想が出てきません。

 

■アンダーグラウンド化する「スカウト」の問題

青山薫

青山:「透明化」かどうかはわかりませんが、結果としては、2000年ごろ以降AV出演者の裾野が広がっていますよね? それも、現在問題が起きている要因では?

 

川奈:東京では、2005年の迷惑防止条例いらい街頭でAVにスカウトすることが禁止されました。私の現役時代には、堂々と街でスカウトマンがスカウトしていましたが、今はスカウト行為がアンダーグラウンド化しています。

スカウトマンは紹介業のような曖昧な名前で活動したり、インターネットのライブチャット施設を設けて仕事に来た女の子を「AVに出ないか」と口説いたりしているという話は聞きますが、業界の中の大半の人々からも、彼らがどこで何をしているのかは見えなくなってしまいました。

自分たちが知らないところで女性を騙してAV業界に勧誘するようなことが行われているというのは、非常に気味が悪いことです。一般の人以上に怖いと感じている業界人は多いと思います。

 

青山:大阪や札幌でも同じ時期に同じことが起こっています。スカウトの禁止なども人身取引対策行動計画の一環なんですよ。

そして、人身取引を無くすための対策が性産業のアングラ化に結びついて、グレーゾーン(脱法行為)が広がるのも世界的な傾向です。今ではスカウトたちは、誰からお金をもらっているのですか?

 

川奈:女優を抱える芸能プロダクションだと思います。スカウトマンとプロダクションとのつながりが、いちばんグレーゾーンで危なっかしいところ。ここをちゃんとしないとAV業界はまずいですね。

 

青山:先日の内閣府男女共同参画局の女性に対する暴力対策会議でも、刑法の専門家が話していました。

HRNの報告書がAVに特化した規制法をつくるべきという提言について、取り締まり強化みたいなことをせずに「現行法で強要に対応できないのか?」と疑問を持ちますが、たとえば強要罪では実行したという証拠がある当人以外検挙できないのだそうです。

だから、スカウトが騙して連れてくるようなことがあると思われれば、それを防ぐ取り締まり強化を招くことになるんですよ。

 

■「ヒモ」や騙しの問題も

川奈:スカウトの取り締まり強化に対して業界側からの反発は起きづらいと思います。IPPAの理事会で私がスカウトや騙しの問題を話すと、どの理事も「その通りですよね」と言います。「問題ですよね」と。 同じことをプロダクションの人に話しても、「嫌がる子は帰している」と言われますから。

騙して出演させる出演強要は、みんな避けたいと思っているんです。 それとは別に、プロダクションとスカウトの問題で、いちばん闇が深いと私が思うのは、「紹介手数料」の話。 スカウトが女の子をプロダクションに連れてくるとき、スカウト=紹介者に手数料が払われます。

一括で払うのを「買い切り」と呼び、私のときはそのパターン。 10年ちょっと前まではだいたいみんな買い切りでしたが、最近は女の子が出演するたびに紹介者がバックマージンをもらうのがスタンダードになりつつあります。

 

青山:女の子がAVに出ている限りは、スカウトにはヒモみたいにお金が入る?

 

川奈:ええ。だから、このシステムはメーカーには、とても評判が悪いんです。

 

青山:女の子が辞めづらくなる?

 

川奈:それに、紹介者が彼氏やヒモだったりする場合も珍しくないそうなので、そうなると女優の本当の意思を確認することも難しくなる。女優が何か言っても、本当は紹介者にそう言わされているだけかもしれないと疑いたくなるじゃありませんか。

プロダクションにとってもそれは困るだろうと思ったのですが、「プロダクション側で『紹介料は一括で』と決めたらどうか」と提案したところ、「ルール破りをするプロダクションがあったら、そちらにスカウトマンが流れてしまう」といった声がありました。

また、「紹介者が後ろについている女の子のほうが、美人で質が高い」という見方もあって……これはもう、ちょっとお手上げだと思いました。 香西咲さんやほしのあすかさんなどに共通するのは、芸能界で活躍していた女の子を、紹介者が騙してAV業界に入れたという点です。

そういう事態を業界側が止められるような形をつくらないと。

 

青山:騙しは強要の発端です。そして「騙し」(詐欺や欺罔)や「強要」や「性的搾取」という言葉を使うことは、政策決定者や人権団体としては必要なんです。

さっき性的搾取や暴力に対する政策に盛り込まれていると言った人身取引対策は、国連の「人身取引禁止議定書」に基づいていますが、この議定書が、性的に搾取するために騙したり強要したりすることは人身取引だと定めている。

そして人身取引対策は国連だけでなくアメリカにも求められており、日本政府としても実施する――少なくともポーズをとる――必要がある。予算もつく。AV業界が今後も続いていくためには、この辺のことも意識したほうがいいと思います。

 

■明文化された業界ルールが必要

川奈:私はアメリカのポルノ団体のように、自主的に守っていく明文化されたルールを業界でつくるといいと思います。合法的に安心に働けるAV業界がないと、女優もAVメーカーも困ってしまう。

改革委員会の働きに期待したいところですが、当面は、メーカーが女優を直接雇用するのは難しいですから、プロダクションは女優から業務委託契約を受けるなどして、騙しに荷担しないように、しっかりするべきです。

 

青山:マネージメントを委託するんですね?

 

川奈:ええ。女優からプロダクションにマネジメントを委託すればいいんですよ。 誰かにマネジメントしてもらえることは、女優にとってはありがたいことなんです。とくに専業で忙しく出演する売れっ子にとっては。

私は現役の頃、一気に人気が出たので、マネージメントの大切さはすごくよく実感しています。 仕事を持ってきてくれて、スケジュール管理をしてくれて、1日に何個も仕事を入れて飛び回るようなことは、ひとりではできません。

 

青山:忙しい芸能人ですよね。

 

川奈:また、AV出演は、性にまつわる業務だけに、「雇用」という指揮命令系統が存在する働き方にはそぐわないとも思います。 女優さんが自由に裁量できる範囲を増やしておきたい。

雇用であれば、「断ったら首になっちゃう」ということにもなりかねません。だから、女優はフリーか個人事業主で、必要があればプロダクションと契約するのがいいと思うんです。

 

■AV女優は多すぎる?

青山:雇用関係の法律がこのままであれば、ですよね。労基法など労働者の権利を守ってくれている法律ではありますが、おっしゃったように雇用者が労働者に指揮命令するという関係が前提になっていて、女優さんなどの独立性を維持しようとすればかえって使いにくい。

また、権利擁護も、雇用元でないところに派遣されて働く労働者ではとくに骨抜きになりがちです。 独立自営業として女優さんが直接メーカーと契約する形が成立するとしたら、女優はごく限られたプロフェッショナルだけになる?

 

川奈:AV女優は現役を少なめに見積もっても4000人。経験者をすべて足し上げると15万人とも言われます。 でも、彼女たちがすべてプロのAV女優かと言われれば、違う。

AV女優が活躍する期間は、大手メーカーに出演している女優でも、平均しておよそ3年間だそうです。 1回出ただけで辞めるという子も多いと言います。

私が「同期」くらいと感じている同時期デビューで一緒にイベントに出ていたような子で、私が引退するまで残ったのは、100人のうち2、3人くらいという印象ですね。   プロと呼べるのは、全体の中の、ほんの一部なんじゃないでしょうか。

 

青山:そもそも出演する女性の条件を、厳しくすることが必要なのでは?

 

川奈:今は多すぎるがゆえに、「出た後で淘汰」という形になっています。

 

青山:出演した時は何も思わなかったけれど、後で後悔する人だっているでしょう。あまりにすそ野が広く「誰でもできる」状況だと、後悔する確率も高くなるのではないでしょうか。

 

川奈:女の子たちをどうやって入り口で阻止するか、安易には入らせなくするか……という問題ですね。

 

青山:もしくは辞めるときに悩みがある人が相談できる窓口があればいい。そこに初めからAVは悪と決めてかかっている人たちが入り込むと、「強要ではない後悔」まで「出演強要被害」になっていく恐れもありますが。

 

■AV業界は動きが遅い

川奈まり子

川奈:たしかに……。 出演強要問題が騒がれはじめた頃には、「女の心変わりの問題じゃん」という声も業界内にありました。 引退した後に、出演したことを後悔したり、悔しく思ったりすることについては、私も心当たりがあります。

私の名前でアマゾンで検索すると、これまで27冊書いた本だけでなく、AVが今もたくさんヒットするんですよ。 引退してから十何年も経っているのに、ですよ?

私が出たことも契約したこともない作品が、「再編集版」として売られているんです。なのに、私は一銭も貰ってません。「売ってもいいですか?」と許可を求められたこともない。

全然、納得がいきませんよ。理不尽だと思います。 肖像権の問題があるはずですが、無視されている。 ですから、こういうとき、女優さんたちに直接お金が入る仕組みが必要だと思うのです。

素材となったビデオを二次使用、三次使用した商品は、売らないか、女優がたとえ引退していても、使用に応じてお金を払うようにすべきです。本来は被害者ではなかった女性たちを、被害者にしてしまいかねない仕組みは、どんどん改善していかないと……。

 

青山:しかし、強要や規制強化に関する一連の問題に対して、「AV業界は動きが遅い」と思われているのではないでしょうか?

 

川奈:素早く動こうにも音頭を取るところがなかったんですよ。IPPAがその役割を果たすことを期待されていたんでしょうが、IPPAというメーカー団体は、街の商店会のようなものです。

メーカー各社である「商店主」たちは、プロダクションという「仕入先」の向こうで何が行われているか、知らない、としてきました。

そんなところまでは手が届かず、力が及ばないからです。 メーカーもプロダクションも流通も守る、入り口から出口までしっかりと適正化させる「合法AV」の規約をつくることが必要で、そのために改革委員会が生まれることになったわけです。

 

青山:でも現状は、業界と政策決定サイドにまったくパイプがない状態ですよね。

 

川奈:ロビー活動をしたい、という話は出ていて、シンクタンクの人に相談しています。 内閣府の担当者が、実際AVANに来たこともあります。ただ、業界内の人間を政策決定に関わらせるのは、どうしても嫌そうな印象でした。

 

■AV女優は「社会的弱者」

青山:私も委員会に出席したとき、それは強く感じました。でも、中には、個人的には、業界内の声も聞くべきという人もいます。いずれにしても公務員は仕事上個人の意見は言えないし反映できないから、業界の側が議論の場に参加する仕組みをつくらないとしかたないですよね。

 

川奈: まったく意見を言わせてもらえないので、2月頭にAVANとIPPAと、制作者有志グループからそれぞれ、内閣府に「自分たちはどう思うか」という照会状を送りました。

 

青山:どういうふうに受け止めたんでしょう?

 

川奈:返事を迫る形式にしましたが、いまだに返事はありません。でも、3月に発表された報告書には、私たちの意見が少しは反映されているかもしれません。 IPPAとAVANのプロフィールも好意的な紹介のされ方で記載されましたし。

 

青山:「AVとは何か」を定義していくのと同時に、世の中に対するPRも大切ですね。

 

川奈:AV女優は「社会的弱者」です。ただでさえ世の中で立場が弱いAV業界の人間を、さらに追いやるような状況は怖いと感じます。

「監督官庁をつけろ」という声もありますが、政府や政権の意思で、道徳や公序良俗まで支配されるのはどうなのでしょうか。   AVが持つ「セックス産業」という面だけにフォーカスして規制されるのも問題で、AVと映画は「映像制作」という面で地続きの部分もあります。

「裸ビジネス」として差別されて、私たちが「出演業だ・映像制作だ」と言えなくなるのは、今住んでいる家を出ていかないといけなくなるなど生活に直結する問題にもなりかねません。

 

■AVの演出はワンパターン

川奈まり子

青山:法律をつくるということは、取締の対象をつくるということ。HRNの報告書以降進んでいることは、AVというカテゴリーを改めて取り締まりの対象にしよう、もっと言えば、監督官庁が認めるおそらく狭い範囲外は犯罪化しよう、ということです。

一方、川奈さんたちもAVというカテゴリーを改めてつくろうとしている。犯罪化にがんじがらめになる前に、「他の芸能界とゆるくつながっている出演業・映像制作だ」という状況を業界側が確立する必要がありますね。

とはいえ、じつは私はAV自体にはあまり興味がないです。AVは、「性器同士の性交」にこだわりすぎているように見えて…。

 

川奈:私が出演したものや溜池ゴロー作品の中には、からみがまったくなかったり、企画性に富んだものもあるんです。

ただ、AVユーザーのほとんどは男性で、ほとんどのAVは彼らの自慰行為の道具として存在している。顔射や潮吹きといった演出は、男性ユーザーが射精しやすいように設計されたものです。

 

青山:ヘテロ男性中心のワンパターンですよね。

 

川奈:私が現役のころは痴女モノが流行って、その後、反動なのか陵辱ものが出てきて……といった流行り廃りはありました。でも、自慰行為の道具である以上、基本的なパターンはどれも似通ってしまうのかもしれません。

 

青山:性と生殖についての理解や女性差別へのまなざしが業界に欠けているのではないでしょうか?「その辺りをあまり突き詰めるとエロがなくなって」という面もあるのでしょうが、誰かのエロを求めて他の誰かを足蹴にしている構造的な問題がないか。

たとえば性表現規制の話でさえ、女性など特定の性が貶められることに反対する論理なら、味方につけるべき部分もある。そこで、国による性表現規制に反対の人でも、人道的な意味で「AVの規制には賛成」になる場合がある。この人たちを味方にする努力も必要でしょう。

 

■現場の中からの変化を

川奈:戦い方がまだわからない部分が大きいですが、漫画や性表現の周辺領域をふくめて仲間を見つけて、広く手を取り合っていきたいと思います。

 

青山:「ポルノはすべて性暴力だ」といった議論に対しては、ジェンダーバランスのよい立ち位置で対応する必要があります。

「エロ自体は男性のためだけのものだけじゃない」といった主張が映像に反映されるようなら楽しみですし、業界の中で女性の地位を高める努力もほかの業界以上にしていけば未来が明るい気がします。  

それから、AV業界に悪いことがあるとしても、それは「現場の中から変えられる」と強く言って、実際変えていってほしいです。

そうでないと、ほとんどの女優は人身取引の被害者で、ほとんどの制作関係者は加害者という図式にからめとられてしまいます。それでは世の中殺伐としちゃいますもんね。

  ・合わせて読みたい→世間は「はしたない女」の不幸を願う?川奈まり子・中村うさぎが激論

(取材・構成/しらべぇ編集部・タカハシマコト 対談/青山薫 AVAN代表川奈まり子

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