AV業界の問題は「現場の中からの変化」を 川奈まり子・青山薫教授が激論

昨年から注目を集める「AV出演強要問題」について、神戸大学・青山薫教授とAVAN代表の元女優・川奈まり子氏が対談。

2017/04/17 11:30

 

■「善いAV」と「悪いAV」

川奈まり子

青山:HRNのような国際人権NGOは国連の用語や概念を使っていて、それがAV業界の感覚とは違っているんでしょうね。 最近、政府機関や女性団体なども、性風俗産業や実写ポルノだけでなくアニメなど二次元媒体も女性差別的だとして取り上げていますよね。

こういう全体の流れには、「売春による性的搾取」とともに「過剰な女性の性的描写」、強姦などが出てくるゲームや漫画による「性暴力の常態化」を指摘した、2009年の国連女性差別撤廃委員会の日本政府への勧告が影響していると思います。

そこには、それ以前から焦点になっていた「人身取引による性的搾取」対策の必要性も盛り込まれています。   つまり、国連的な女性差別撤廃の考え方では、暴力的な性描写と現実の騙しや搾取や差別は直接つながっていて、前者を無くさなければ後者も無くならない、ということなのです。

このような「女性差別撤廃業界」とAV業界で、「強要」とか「暴力」とかのキーワードの理解が違っていることには少なくとも2つ大問題があります。

ひとつは「土俵が違い過ぎる」問題。片方は、何しろ描写も現実も地続きなのですから、無理が少しでも見つかればそこに関係するすべての要素が「強要」につながる、という理解になりがちです。ところがもう片方は、「強要」とは悪意に満ちた酷い取り扱いだから自分たちが日常的にしている交渉の中では起こらない、という理解になりがち。

もうひとつの問題は、だからこの2者がこのまま議論しても、実際に何が起こっているかが把握できないこと。私は、AVでも風俗でも何でも、中で働いている人や将来働こうとする人に対する騙しや暴力を防ぐことは非常に重要と思っています。

それには、実情を把握すべきで、とくに「女性差別撤廃業界」はもっと詳しくAV業界から事情を聴いて調べるべきだと思います。すでに強要被害を訴えている人の意見だけに偏らずに。

そのうえで、ですが、AV側も、自分たちの業界が外からどう見られているかちゃんと考えるべきだと思うんですよ。HRNの見解が極端だとしても、たとえば、大手メーカーなどがAVとはIPPAの「審査を受けて制作・販売されるもの」を指すと主張しても、審査を受けていない団体や個人がつくるAV的な作品を世の中の人が「AV」と呼ばないか、というと、そんなことはない。

「善いAV」も「悪いAV」もごっちゃにしているのは、HRNだけではないです。そこの区別を業界外にもわかるよう積極的に打ち出していかないと、将来の見通しが立たない感じがします。


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■AV業界の掟も変わりつつある

川奈:つい先日、業界有志の要請を受けて、「AV 業界改革推進有識者委員会(以下、改革委員会)」が設立されました。これは法律家からなるBPO的な第三者機関で、AVANやIPPAや主だったプロダクションが傘下に入るのです。

去年の6月頃からずっと私はIPPAと「表現者の権利を守る会合」を最低でも月1回はやってきて、その中で「AVの境界線を引こう」と言ってきました。

境界線の存在を世の中に伝え、境界線のこちら側には明文化されたコンプライアンスを設けて、業界のみんなに守ってもらうのがいいと思っていたのですが、この考えに賛同した業界側の有志が動いてくれて、今回の運びとなりました。

今後はこの改革委員会が定める規則に従って、「適正AV業界」として自律していけばいいのです。   今までも、なんとなく「AV村の暗黙のルール」みたいなものはありました。

それは、AVが生まれてからの40年以上の歴史の中で、「逮捕されるのは嫌だ」「病気になったら元も子もない」などといった素朴で具体的な発想から固まってきた不文律のオキテで、たとえば「出演者の年齢確認は証拠を保管してきっちりやろう」とか「女優にNG事項を確認しよう」とか「性病検査とコンドームの使用を標準化しよう」というものがあります。

オキテもだんだん洗練されてきて、業界全体が次第にまっとうになっていく流れがあり、その中で、AV業界を構成する人々も入れ替わってきました。 近頃では、女性の監督やプロデューサーも少しずつ増えてきたりして……。


青山:女性の監督やプロデューサーが増えているのは女性差別撤廃のためにもおもしろいですよね。どれくらいいるんですか?


川奈:まだまだ少ないですね。名前を出してる人は監督で10人くらい、それ以外を含めると15人いるかいないか。 日本のAV監督が全体で600人くらいいると言われる中での15人です。

とはいえ、うちの夫は2000本以上AVを撮っていてAV監督だけでも食べていけますが、こういう完全に専業でもやれるという人は少数派で、40人くらいしかいないと言われています。 約600人というのは、AVメーカーに雇われている「社員監督」や、本業は別にあってたまに監督をする人も入れた数字でしょう。

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■「透明化」という発想が足りない
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