AV業界の問題は「現場の中からの変化」を 川奈まり子・青山薫教授が激論

昨年から注目を集める「AV出演強要問題」について、神戸大学・青山薫教授とAVAN代表の元女優・川奈まり子氏が対談。

2017/04/17 11:30

 

■「透明化」という発想が足りない

青山:女性が業界にちょっとでも増えてくることで何か変わりましたか?


川奈:女性が入ってきたせいかはわかりませんが、私がこの世界に入ったのが1999年で、女優を辞めたのが2004年。

2000年前後から、大手メーカーSOD社の社長が女性になったり、女性の制作スタッフやプロデューサーが出てきたりと、業界で女性が活躍する範囲が女優とは限らなくなってくるなどの変化がありました。 また、この頃から、「女性が男性を責める」痴女モノAVが増えましたね。


青山:女性監督やプロデューサーを意識したから?


川奈:というよりは、女性の感覚では「美少女がまぐろのように寝ているだけ」のやられっぱなしのAVは不自然じゃないですか。 痴女モノには、性風俗店のプレイを再現したという面もあると思いますが、女性に勝手にやらせてみたら、女性上位なAVが出来たという側面もあると思いますよ。

あと、「作品内容を女優に伝えてから出演する」という流れが、一般化したのもこの頃です。 私が女優になったばかりの頃は、「出演予定の子が飛んじゃったんだけど、姐さん出てくんない?」と連絡が来て、作品の内容が知らされないばかりか、ギャラも現場へ行って初めて知らされるようなことも珍しくありませんでした。

それが、何本か出演しているうちに、「NG事項のチェックシート」が渡されるようになり、出演合意書や出演承諾書にサインするようになっていったんです。 あの当時は、ほんの数年のうちにどんどん変化して、気がつけば「ずいぶんまともになったな」という感じです。


青山:2000年代になって変化があったとして、気になるのは1990年代に問題となったバクシーシ山下監督の『女犯』事件ですが、この事件、業界内ではどう評価されているんですか?


川奈:うちの夫は知っていますが、業界内では90年代に起きたことは意外なくらい知られていません。 AV業界の中では「レイプもの・陵辱ものは演出だ」というのが、当時も今も常識とされています。


青山:さっきの「描写と現実の暴力が地続き」という考え方だと、演出だとしても表現された暴力が広く世の中の暴力に影響することになるので、業界の常識論だけでは通用しなさそうです。   あの頃、もっと業界を透明に、出てきた一定の批判に耐えうるようにしようという動きはなかったのでしょうか?


川奈:『女犯』事件にも関連したメーカーの社長は、「スポーツ保険のように、出演者に保険をかける」と話していましたが、そういうことではないんですよね。保険をかけるのは、台本に沿った演技や演出としてレイプ場面などを撮影しているときに出演者が怪我をしたり病気になったりした際を想定してのことです。

本当にレイプなどをしているわけではないということは業界内ではあまりにも常識になっているので、業界の内側に向けてのケアはしても、外の社会に対すして表現の方法を見せていく「透明化」するという発想が出てきません。


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■アンダーグラウンド化する「スカウト」の問題

青山薫

青山:「透明化」かどうかはわかりませんが、結果としては、2000年ごろ以降AV出演者の裾野が広がっていますよね? それも、現在問題が起きている要因では?


川奈:東京では、2005年の迷惑防止条例いらい街頭でAVにスカウトすることが禁止されました。私の現役時代には、堂々と街でスカウトマンがスカウトしていましたが、今はスカウト行為がアンダーグラウンド化しています。

スカウトマンは紹介業のような曖昧な名前で活動したり、インターネットのライブチャット施設を設けて仕事に来た女の子を「AVに出ないか」と口説いたりしているという話は聞きますが、業界の中の大半の人々からも、彼らがどこで何をしているのかは見えなくなってしまいました。

自分たちが知らないところで女性を騙してAV業界に勧誘するようなことが行われているというのは、非常に気味が悪いことです。一般の人以上に怖いと感じている業界人は多いと思います。


青山:大阪や札幌でも同じ時期に同じことが起こっています。スカウトの禁止なども人身取引対策行動計画の一環なんですよ。

そして、人身取引を無くすための対策が性産業のアングラ化に結びついて、グレーゾーン(脱法行為)が広がるのも世界的な傾向です。今ではスカウトたちは、誰からお金をもらっているのですか?


川奈:女優を抱える芸能プロダクションだと思います。スカウトマンとプロダクションとのつながりが、いちばんグレーゾーンで危なっかしいところ。ここをちゃんとしないとAV業界はまずいですね。


青山:先日の内閣府男女共同参画局の女性に対する暴力対策会議でも、刑法の専門家が話していました。

HRNの報告書がAVに特化した規制法をつくるべきという提言について、取り締まり強化みたいなことをせずに「現行法で強要に対応できないのか?」と疑問を持ちますが、たとえば強要罪では実行したという証拠がある当人以外検挙できないのだそうです。

だから、スカウトが騙して連れてくるようなことがあると思われれば、それを防ぐ取り締まり強化を招くことになるんですよ。

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