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老舗ヘヴィメタルバンド『ANTHEM』に学ぶ 「メンバーの個性」の活かし方

日本ヘヴィ・メタルの重鎮、ANTHEMの柴田直人に常見陽平氏が直撃。

エンタメ

ANTHEM

©Yoshika Horita

日本ヘヴィ・メタル界の重鎮、ANTHEMが約3年ぶりのニューアルバム『ENGRAVED』をリリースした。

前作『ABSOLUTE WORLD』からボーカルの森川之雄が復帰。サポートメンバーだった田丸勇が正式メンバーになった。新体制のもと、2015年の結成30周年記念イヤーを駆け抜けてきた。

昨年は、ニューアルバムのレコーディング延期を決断。ライブ活動に没頭してきた。 待望の新作は、ジューダス・プリーストを始め、数々のメタル界の名盤を手がけてきたクリス・タンガリーデスを久々にミックスに起用。さらには、ギタリスト清水昭男がアルバムの約半分の楽曲を提供。

外部の作詞家として、遠藤フビト氏を起用。これまで、リーダーであり、ベーシストの柴田直人による楽曲がほとんどを占めてきたので、これは異例である。

私は14歳の頃から同バンドのファンである。1992年に一度解散してからも、その後、復活してからもずっと聴き続けてきた。彼らの音楽を愛しているだけでなく、そのストイックな姿勢にいちいち刺激を受けている。

リーダーでベーシストの柴田直人にインタビューする機会を得た。音楽誌では読めない、ド直球ファン視点で引き出した生の声をお楽しみ頂きたい。

 

■メンバーの個性が光る「面白い」アルバム

柴田直人

 

常見陽平(以下、常見):新アルバム「ENGRAVED」、音源が届いてから1週間でもう20回以上聴いています。メタルのアルバムに対して失礼な表現かもしれませんが、率直な感想は「面白い」アルバムだなと思いました。

 

柴田直人(以下、柴田):今作については、未だに客観的に聴くことができていませんが、「面白い」という言葉はたしかに、一番フィットして自然なような気がしますね。

 

常見:今回のアルバムは、 21世紀の『HUNTING TIME』だと思いましたよ。ちょうど1988年にボーカルの森川(之雄)さんが加わってから、『GYPSY WAYS』(1988年)、『HUNTING TIME』(1989年)と立て続けに名アルバムを発表しましたね。

 

今回の『ENGRAVED』も森川さんが復帰して、新体制になって2枚目のアルバムですよね。ファンとしては期待しましたし、プレッシャーも大きかったのでは?

 

柴田:森川が復帰した前回のアルバム『ABSOLUTE WORLD』にはぼくたちも手ごたえを感じていましたし、確かに今回はそれを越えたいという想いはありましたね。

 

常見:レコーディングの延期も、その気持ちが強かったからゆえでしょうか?

 

柴田:マテリアル自体はあったんですけど、まだ機が熟していないと感じていたので延期することにしたんです。

 

■メンバーの個性とモチベーション

常見:ぱっと聴いてANTHEMだと分かるのだけど、今までよりも進化しているな、と。メンバーの個性が出ているなとも思いました。何より、熱く、滾っています。だから私は「面白い」と感じたんです。

 

柴田:やっぱり刺激というか、モチベーションが何よりも大切で、そこにこそ創作の真実があるのだと心の底から感じました。長い間好きなことを追求していく中では、物理的にも精神的にも色んなことにぶち当たります。

 

若い時は勢いと力任せでクリアしてきた。典型的なのがメンバーチェンジですよね。 アンセムは再結成して以降10年以上メンバーチェンジをしないでやってきて、ある時、全員が同じテンションで音楽制作や活動に向かっていない事に気がつきました。

 

「個々にモチベーションを見つけ出してそれをいつも高く維持できるということ」がこの世界に居るためのかなり重要な条件です。若いころなら「やる気が無くなったんならやめてもいいよ。」ですんだ事ですが、メンバーは人生において長く濃い時間を共に過ごしてきたわけですから、なんとか化学反応を起こそうといろいろ試行錯誤もしました。

 

しかし起こらない時は起こらない。そんな頃にたまたまぼくが病気をしたりしたこともあって、今後の音楽生活に悔いを残したくないと考え、結果的に今のラインナップへと移行していきました。ボーカルとドラムがチェンジしたわけです。

 

■ギタリスト清水昭男の活躍

柴田直人

 

常見:今回は、ギタリストの清水昭男さんの曲がアルバムの半数を占めますよね。僕は清水さんがもっと主張してもいいのではと思っていたので、嬉しいです。

 

柴田:清水が主張する方法は、なにも楽曲数だけではないと思っていますが、とにかくいろいろやってみたわけです。僕の中のイメージでは僕と清水を静脈と動脈のように捉えているんですけど。どっちが動脈とかはなくて(笑)。

 

エネルギーを行き来させる2本のパイプみたいな。キャラも個性も方法論も違うけれど、同じバンドにいて刺激しあいながらやっているので。清水はきっちり準備してやりたいタイプで、瞬間の炎の輝きを捉えたい感じの僕と、ある意味では水と油のようですが、それでもちゃんとANTHEMのサウンドになったと思います(笑)。

 

常見:ファンとしては、清水さんがもっと認められたらいいなと思っていますから。

 

柴田:それは僕が一番思ってきました。「君たち、わかるかな?」と言いたかったです (笑)。こうすれば清水の力がよく見えるだろう?とね (笑)。

 

アルバム中盤の「MIDNIGHT GROWL」「REACTIVE DESIRE」「SACRED TRACE」などは、上手く彼の世界を表現しているし、それでいてANTHEMでもある。

 

■「ずっと前からアイツはすごい」

常見:当時、20歳の大学生だった清水さんに力を見出した柴田さんもすごいし、間違ってなかったなと。

 

柴田:最初に会ったときから今に至るまで、清水の根本的な評価は変わっていないですよ。わかりやすく「天才」という言葉を使ってはいますけど、彼は優れた才能がありながら、かなりの努力家でもある。

 

そういう彼の人間性を僕は認めているんです。清水なりに、いろんなプレッシャーに耐えながら戦ったものがこの音になったんです。僕としてはしてやったりですね。「言っただろ、ずっと前から、あいつはすごいんだよ」と (笑)。

 

常見:森川さんもANTHEMで一度もしなかった歌い方をしていますよね。

 

柴田:森川には、曲に対してぼくの頭の中でなっていた彼の声を妥協せずに求めました。レコーディング中は「力まないでもっとナチュラルに歌ってくれ」と何度も言っていた気がしますね。さすが森川です。見事にやり遂げてくれました。

 

■アルバムの作り方を変えたが…

柴田直人

 

常見:ちなみに、今回のアルバムづくりで変化したことはありますか。

 

柴田:いままでのアルバムでは、いわゆるANTHEM然としたレコーディングを粛々とやっていました。僕のモノサシで枠を整えてきたともいえるかもしれません。でも今回はそれを少し控えめにして、マテリアルの原型を維持しながら全部ガサっといれちゃう感じといいますかね (苦笑)。

 

それで音楽がANTHEM風でなくなるのならそれもまた面白いだろうと思いました。 メンバーにも「基本的に感じたようにやってくれ」と伝えました。客観的にANTHEMらしいかどうかはおいといて、君たちはずっとこのバンドで活動しているわけだから、君たちがいいと思ってやったことはきっとANTHEMになるんだという発想です。

 

もちろんある程度手は加えますが。実際につくってみると、新鮮な部分もありつつ、純然たるANTHEMサウンドでしたね。長い期間を経て、お互いがお互いをずっと刺激し続けながら、自分たちの感性を磨いてきたんだなと思いました。

 

マスタリングを終了する瞬間まで集中してはいましたが、もしこの方法論でアルバムができれば「あとの事なんてどうでもいい」と本気で思っていましたね。ネガティブな「どうでもいい」じゃないですよ(笑)。

 

■レコーディングではその瞬間の炎を描写

常見:「どうでもいい」ってロックな衝動ですよね。たぎる感じです。その場で何が起こってもいいんだと。最近のANTHEMのライブも、柴田さんがピックを投げて指で弾いたり、違うフレーズをいきなり弾き出したりしている。そこにたぎっている衝動、ロックを聴きたかったんだと思いました。

 

柴田:僕は最近のレコーディングでは、その場で瞬間的にスパークした火花をぱっと写真に撮るような感覚を意識しています。本当は周到に準備して、デモテープを持って行ったほうが効率良く作業は進みますし、「正しい」のかもしれません。

 

でも、少なくとも今は、僕、個人の心は準備すればするほど冷めてしまう(苦笑)。僕は長い間 部屋にこもってギターを弾きとおしますが、それは細かく計算した曲をきちっと仕上げるためではなく、衝動とかエネルギーとかを圧縮するためなのかもしれませんね。

 

心に火がつかないと、なんだか気持ちが悪いんです。ものをつくって提示するのって、ものすごいエネルギーと度胸がいること。僕の心の中を全て見せるのと同じなので。僕は、イメージ的に表現すると、即興演奏をレコーディングしたいくらいなんですよ笑)

 

最近ライブが増えているのも、もしかしたらそんな想いからくるものなのかもしれません。リハーサルは何度も繰り返してやりますが、いつ自分の心の中に何が生まれても身体がちゃんと反応できるようにするためで、上手な演奏を毎回同じようにするリハーサルじゃないんですよ。

 

もちろんプロですから、最低レベルの演奏はクリアしようとしますが、僕はライブでCDと同じプレイをする気はまったくないので(笑)。例えば2日連続でプレイしても、前日と全く違うアプローチに挑戦していることを見て聴いてほしい。

 

それをやるには、すさまじい集中力がいりますが (苦笑)。 とことん集中してパフォーマンスができた夜は、なかなか眠れないんです 。覚醒しすぎていて。そういう感覚に一度触れると、バン!と開いた何かが閉じなくてね(苦笑)

 

■フジソニック2017にも出演

常見:その熱量はファンに伝わっているのだと思いますよ。そういえば、最近はフジソニック2017に出演が決まりました。メタルバンドはANTHEMだけ。異色のようで、一般の方にANTHEMが届くのが嬉しいです。

 

柴田:今回、大好きな加山雄三さんとステージが一緒なんでそれも嬉しいです。小学校低学年のころ姉や妹を観客にしてホウキをギターのかわりに持って「エレキの若大将」ごっこをやっていましたからね (笑)。

 

常見:これまた、メタル専門誌では語られないエピソードですね(笑)。

 

柴田:いつもとは違う雰囲気のイベントかもしれませんが、持ち時間を目いっぱい演奏して、どういうふうに映るのか、楽しみ半分、恐怖半分。でも、楽しそうですよね。こんなに長い間やっていても、まだこんなにわくわくする場所があるんだと思うとなんだか幸せですよね。

 

■がん克服で変わったことは…

常見:活動量の量と幅でANTHEMが変化していることはありますか?

 

柴田:近年は特に、スタッフもメンバーも含めて、挑戦することの楽しさを感じています。安定したルーティンの活動もとても大事なんですけれども。自分の心を覗きながら、自分のケツをけり上げながら、やらざるを得ない状況にする。

 

一生懸命準備して、ステージに立って全力でやっています。がんという病気を経験したことで、より人生観が明確になったんですかねえ。まあ昔からそういう傾向はあったんですけどね (笑)。

 

常見:がんを克服されてから、柴田さんもANTHEMも変わった気がします。より解き放たれたし、よりストイックになりました

 

柴田:人生を楽しみたかったら、なにに対しても全力でやることだと思うんですよ。全力だと、失敗してもどこか楽しい、成功すれば倍楽しい。中途半端にやると、失敗すると後悔するし、運よく成功しても満足も低いんですよ。

 

病気になって、これまでの人生、まだまだ中途半端だなと思ったんですよ。そうして、自分で自分を蹴り上げていると、それを見ているメンバーも「じゃあ俺も」となる。スタッフもみんなもそのノリになって「もっと面白いことないか」って考え始めるんですよ(笑)。

 

常見:今は、大の大人が悪ふざけをしていますよね。

 

柴田:そうです。そんな感じ(笑)。人生を楽しむ近道は、ぼくにとってはとことん音楽やメンバーに入れ込むことです。そのためにはどうしても心から尊敬しあえる仲間が必要。メンバーとスタッフと組んでどこまで走れるのかを今は徹底して楽しみたい。

 

■ANTHEMはいま最高にたぎっている

柴田直人

 

常見:これはビジネスパーソンにも言えることですけど、今は検索すればいろんなノウハウがネットに転がっているから、かっこいい企画書を誰でもつくれる。でもたぎる企画はほとんどない。サラリーマンをやっていたときは、営業をすることも、営業をされることもありましたが、企画書に誤字はあってもたぎる営業マンっているんですよね。

 

その時って、見た目の完成度ではなく、ビジネスパートナーとしてこの人とやるべきというのがあるから。この人たぎっていておもしろいから賭けてみようと。

 

柴田:惹かれるんですよね。すごくわかります。

 

 

常見:たぎっている、うねってる感じって大事で。もうすぐ還暦を迎える柴田さんがリーダーであるANTHEMがいま最高にたぎっているのは面白い。

 

柴田:そうですか。ありがとうございます (笑)。 いま、ほとんど休みなくびっちりやっています。この間、夜に散歩しながら「この猪突猛進の2017年の中に、その先になにがあるんだ」とか考えて、ふふって笑っちゃったんです。

 

たとえば、『BOUND TO BREAK』とか『GYPSY WAYS』が若かりしころのANTHEMのピークだったとすると、2回目の盛り上がりみたいなものを自分たちで演出しきれたら、とか、そんな途方もないニンジンを自分たちの前にぽんと投げたら、走らざるをえないからきっと面白いだろうなとか思って (笑)。

 

僕たちは、日本できっちりした活動をするために再結成したんです。日本でちゃんとビジネスとして成立することを前提にしてここまでやってきた。強引に手弁当で海外を目指すような感覚ではない活動というか。とにかく地に足をつけた活動をね。

 

もちろん海外のいろいろな国でCDもリリースしたいし、当然ライブだってやりたいですよ。ミュージシャンをやっていたら誰もが考えることですよね。今のラインナップになってからは、いろいろな悪巧みにもより力が入りますよ (笑)。

 

常見:その言葉を聞けて良かったです。アルバムでは最後の曲「ENGRAVED」が「Let’s go」で終わりますよね。これからのANTHEMの活動を楽しみにしていますよ。海外ライブも期待していますし、聖地川崎も大好きですけど、武道館に立つANTHEMも見たいです。

 

 

■ツアー情報

【ENGRAVED TOUR 2017】

・7月15日(土) 大阪 『BIGCAT』 OPEN 17:00/START 18:00/info: Kyodo Information 0570-200-888

・7月16日(日) 名古屋『Electric Lady Land』 OPEN 17:00/START 18:00/info: サンデーフォークプロモーション 052-320-9100

・7月22日(土) 川崎『CLUB CITTA’』 OPEN 17:00/START 18:00/info: クラブチッタ 044-246-8888

 

・合わせて読みたい→【超絶ロングインタビュー】日本メタル界の重鎮ANTHEM柴田直人さんに会ってきた

(取材・文/常見陽平 取材協力/ANTHEM・柴田直人 構成・写真/山本ぽてと)

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