チャレンジ精神で新しい新潟の酒を 造り手、売り手、飲み手も巻き込む老舗蔵『笹祝酒造』
東京から地元に戻った若き6代目が、さまざまな挑戦を続けている。
■地元に愛され、地元とともに
笹祝酒造は、畿内から越後国を結ぶ旧北国街道に面し、交通の要衡として栄えた場所にある。初代が街道で茶屋を営み、そこで酒を出したところ「旨い!」と大評判となったことから造り酒屋になったといわれている。
昔から地元に寄り添った酒造りを心がけ、今も県内消費が全体の9割を占めている。
「ありがたいことに地元の人が笹祝の酒が好きといってくれる。酒蔵は地元あってこそ。うちは杜氏も蔵人も全て地元の人間。地元への愛情は半端なく強い。それは私も同じ。一度外に出たから気づいた地元の良さ、それらを表現できる酒を醸したい。
もちろん先代からの銘柄もきちんと受け継ぎます。でもそれだけではダメ。私は造る段階で飲む人を想定します。消費者も巻き込んでしまえばいいと思っています」
酒造りの基本技術は大切。しかし、酒のイメージを具体化するためには、その技術を柔軟に活用することこそ重要なのだ、と考える。
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■父の背中を見ていた息子
じつはこの考え、父である5代目笹口孝明社長が20年前、そして10年前と新しいタイプを造り出した時に似ている。 地元農家が育てた亀の尾は当時、純米大吟醸しかなく高値で地元の人は手が出なかった。
地元米で造っているのに飲めないのはおかしいと、亀の尾と新潟産雪の精で醸し、気軽に飲める特別本醸造『竹林爽風』を生んだ。
「高価な亀の尾を特別本醸造に」という考えは周りを驚かせた。地元の人が飲まないで何が地酒だという思いが為せた術だろう。
「交通網も発達し、海に近いから魚中心の食事という時代ではない。揚げ物や肉料理などこってりした料理も当たり前になった食卓にすっきりした酒だけじゃダメだと父は思ったのでしょう。
味わいのある膨らみのある酒も必要じゃないかと。そのイメージを形にするためにこだわったのが酒米でした」