センサーは蔵元自らの手 小さい蔵には効率のいい昔ながらの製法で造る『越後美人』
創業210余年ながら、さまざまな紆余曲折を乗り越えてきた小さな蔵元。
お酒も美味しいが、まず誰もがその人柄に口を揃える「優しくて誠実でかわいらしい蔵元さん」。上越酒造・飯島美徳社長は、柔らかな口調で話し始めた。
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■「優しい味、きれいな飲み口」を
何しろ銘柄は『越後美人』である。そして、温かいお人柄。きっとお酒も柔らかで飲み心地がいいだろうと、飲んだことのない人にも思わせる世界がある。自分ではどんなお酒だと説明するのか尋ねると、
「よく言われるのは、優しい味、きれいな飲み口だと。たぶん水質に由来するところが大きいですね。それと、私がそういう酒が好きなんでしょうね」
仕込み水は、敷地内の井戸から。柔らかな軟水ではあるが、それを抜きにしても、お酒の味と造り手は似てくるものだ、とも感じられる。
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■一造り目から鑑評会で優秀賞に
この限りなく控えめな蔵元さんが、杜氏になって最初の造りから大吟醸に取り組み、しかも優秀賞まで取ってしまったというから驚く。
1993年、高齢だった杜氏が辞めることになり、「蔵元が杜氏を務めるのが一番確か」と周囲に説得された。杜氏の指導に加え、周囲の人たちや新潟県の試験場などに学んだり、相談したり、なんとか1年目の造りに漕ぎつけた。
ところが、年度半ばで先代が倒れ、手を離さざるを得なくなった。本格的な造りは翌年度から、さらに社長に就任もして、蔵元杜氏となったのだ。
「吟醸酒には、もちろん興味があったけれど、何年かして自信がついてから、と思っていた。ところが、試験場の先生が、最初から挑戦しろ、と」
要所は丁寧に教えてもらいながらではあったが、なにしろ、ほとんど一造り目と言っていい時。しかもサポートの蔵人には、ほぼ素人のご近所の方々も。
しかし、さすが新潟の指導体制は万全だ。諸先輩や先生の教え通り素直に造ったのがよかったのか、元々才能に恵まれていたのか。
初めて造った『越後美人 大吟醸』は、1995年の第77回関東信越国税局酒類鑑評会で優秀賞を受賞。「最初の受賞で、杜氏になり、酒蔵を続けていく自信がついた」という。